第49話
「もう少し行った先に、下層へ降りるところがあるから」
ダンジョンに入ってから小一時間くらい経過したところで、アビエルがこの階層がそろそろ終わることを教えてくれた。
相変わらず、この階層では、襲ってこないネズミやゴブリン程度の魔物くらいしか遭遇していない。
「結構歩いたね」
途中、戦闘になったりもしたけれど、ずっと歩きっぱなしだったので、結構な距離を歩いている。
前世の私なら、椅子を探し始めていることだろう。
座りたい。
異世界に来たところで、私のインドア属性は変わらないのだ。
が、そろそろこの階層の終点らしい。
あ、でも待って
「1階層でこれくらい時間かかるなら、8階層に着くまでに夜になっちゃうよ」
ダンジョンは元々薄暗いし、明るさは外の時間に左右されないとは思うけれど、お弁当とか持ってきてないし、お腹すくよ。
「大丈夫、着いたよ。ここから下に降りて?」
アビエルが指す場所には、大きな穴が開いている。
「え?ここ?」
なんかこう、立派な扉のボス部屋をクリアした先の扉から下層階に行く階段が出てきたりとかないんだね。
「うん。縄ばしごあるでしょ?これで8階層まで降りて」
ええええええええええ!
スキップ的な?
「えっと、私、ダンジョンとか初めてだからよくわからないんだけど、縄ばしごで好きな階層に降りれるシステムというのは一般的なの?」
「どうだろう?僕もここ以外は知らないから一般的かどうかはわからないよ」
「…あまり聞いたことはないな」
レオンも不思議そうな顔をしている。
どうやらあまり一般的ではないようだ。
「姉上たちが攻略した階層を走る時間が面倒だと言って、穴をあけたんだよ」
「たしかに効率的だね!」
「ダンジョンの壁や床は、そう易々とは壊せないものだと聞いていたが」
「姉上だからね」
「そうなんだ…」
その一言で説明できるほどの冒険者さんなんだね。すごい人なんだね。
「じ、じゃあ降りてみよっか」
とっとと片付けて帰りたい。
「まず俺が降りる」
言いながらレオンが縄ばしごを伝って降りていく。
「普通の縄ばしごなんだね…」
「?特別な縄ばしごなんてあるの?」
「わかんないけどなんとなく」
「これ、ジャンプして降りたらダメなの?」
「いいけど、この穴、かなり深い階層まで繋がってるから、なんらかの魔法でフォローしなければぺちゃんこになるよ」
「縄ばしごで降ります」
泣いた。
てか、随分と危険な作りだな!
「姉上たちは、みんな一気に飛び込むけど、8階層までならそんなに時間かからないし現実的な手法で行くのをお勧めするよ?」
「わかった」
地道に頑張る。
歩きの隊列と同様に、レオン、アビエルと続いて、私が殿を務める。
縄ばしごなんて使ったことなかったけど、これ安定しないな。
変にどこかに力を入れるとバランスが崩れてしまう。
レオンもアビエルでさえも、スルスルと降りているのになぜだ。
手さえ離さなければ落ちないんだから、落ち着いて普通のハシゴ降りるみたいに降りよう。
不必要に縄ばしごをクネクネさせながらなんとか降りる。
穴はかなり深く掘られていて、底が全く見えないのだけど、ハシゴは1階層ずつ設置されているので、現在地の階層が把握できる。
先に降りた2人は、私が合流するまで待機し、一緒に次の階層に入る。
うん。待たせてゴメン。
縄ばしごの穴の周りには結界が張られているらしく、魔物がいないのでサクサク降りる。
「8階層に着いたよ」
縄ばしごを7回降りた場所で、アビエルが宣言した。
早いな!
ダンジョン探索って、なんかこうもっと面倒くさいものだと思ってたけど、穴開けたら早いんだね。
ぱっと見、1階層からこの階層までの風景にあまり違いはない。
ただひたすら、鍾乳洞みたいな雰囲気の洞窟だ。
降りてくるのは楽だったけど、このフロアを探索するのは、地図持ってても迷いそうだ。
そもそも薄暗い閉鎖空間は苦手だ。
出来ればあまり長居したくない。
「アビエルのお目当ての魔物は何処にいるの?」
近いといいな。
ゲームみたいに俯瞰視点の上に、画面にマップとか出るならともかく、単なる洞窟をガチで歩くとか死ぬ未来しかない気がする。
順路の看板とかないよね。
右手をずっと壁にとか、時間かかり過ぎて攻略する前に力尽きそう。
「結界の外に出れば、その辺にいるんじゃないかな?」
「探して歩き回らなくてもいいんだね?」
良かった。
サクッと行こう。
「ただ、この辺りは最近誰も入ってないだろうから、魔物増えてるかも?」
「えー」
「みんなもっと下層階に行くから、この辺の素材が手に入りにくくなってるんだ」
「どれくらいに増えてるの?」
「さあ?」
むー。
「行ってみないとわからないよ?あくまでも増えてるかもって思うだけで」
「ところで、どんな種類の魔物がいてどれから何の素材を獲ればいいの?」
肝心なこと聞くの忘れてました。
「この階層はスライムっていうゼリー状の魔物しかいないんだ」
スライムきたー!




