第48話
ダンジョンの中は、観光地化した鍾乳洞に似ていた。
お約束どおり、ヒカリゴケ的な何かで薄明るく照らされており、ほぼほぼ私のイメージどおりのダンジョン風景だ。
時々、ネズミっぽい奴が現れたりしたけれど、特に襲ってくる様子もないので無視してサクサク進んでいる。
今のところ、スタート地点だけがイメージと違っている感じだ。
せっかくなので、少しくらい魔物が出てきてくれてもいいのになーくらい思い始めた矢先に、ゴブリンが襲って来たりもしたが、レオンが一瞬で駆逐する。
たしかにアビエルの言うとおり、難易度は高くない。
これならソロでも行けそうだ。
いやでも、この状態がずっと続くとは限らないし、いきなりトロル10匹とか出たら焦るし。油断はそのままフラグになると思う。
フラグは、準主役クラスですら簡単に死に導いてしまうくらいの強制力があるのだ。
このファンタジーな異世界では、前世以上の力を持っていると思っているくらいがちょうどいい。
どうも索敵の範囲が狭くなってるぽいしね。
あ、これ大事な事だ。情報共有せねば。
「二人とも聞いてー。索敵があんまり効かなくなってると思うから、警戒のレベル少し上げてー」
「どれくらいだ?」
「索敵?何それ」
言われてみれば、アビエルと魔物狩りするのは出会った時以来で、あの時は私のスキルについて話すこともなかった。
一応、外にいる時は常に索敵してるから、あの時もずっと使ってたんだけどね。
「周りに魔物がいないかどうか偵察する魔法なんだけど、外よりもダンジョンの中は、索敵の範囲が狭い感じがするの」
「そんな魔法あるの?」
「え、ないの?」
「僕は聞いたことないけど、そういうのあったら便利だね」
「便利なことこのうえないな。実際、来ると事前に解っていれば、どうとでもなる」
レオンが絶賛してくれている。嬉しい。
ちょっとくらい天狗になってもいいよね。
「その魔法の属性は何?」
「属性?…なんだろね?」
イメージ的には、ソナーなんだけども。
ソナーって、音波かなんか飛ばすんだっけ?
音波って何属性なんだろ?
でも私、音波なんて飛ばしてた?
なんかちがう。
「わからないで使ってるの?ほんとリリって規格外だね」
まあ異世界からの転移者だからね。
一応、チートらしきものも貰ってるし。
説明不足のせいで、全て使いこなせている訳じゃないけれども。
ほんと取扱説明書欲しいわ。私の。
「でも魔法っていうよりも、音を聴くとか、肌で感じるとか、そういう感覚に近いかも」
「魔力使ってるの?」
「どうだろ?減った感はないけれども」
「そもそもリリは、魔力が多いから、よっぽど大量に使わないと感じないよね」
「む、人を不感症みたいに言うのやめて」
「はいはい。話し戻すけど、その索敵?がダンジョンに入ると、上手く機能しないってことだよね」
「うん。そう」
「普段はどれくらいの範囲が見えて、今はどれくらいなの?」
「んー、外だと普通は半径3kmくらいで、集中すればその倍くらいかな」
「え、そんなに遠くにいる魔物を察知出来るってこと?」
「種類とかはまだ微妙なんだけど、いるってことはわかるかな」
「それ凄く便利だね」
「うん。とても便利で、精神安定にも良いので、毎日無意識に使うようにしてるよ」
「へぇ。それだけでも軍や冒険者パーティに人気出そうだね」
「アビエル、リリの能力については他言無用だ」
会話にレオンが割込み、アビエルに警告する。
本気のレオンは少し怖いけどかっこいい。
「言わないよ。…たぶん言えないんじゃない?契約で」
「そうか」
契約してなかったら言ってたかもしれないってことか。
人間関係的にはショックな感じもあるけど、そもそも他人に過度に期待するのは自分の甘えだって前世で充分に知ってたはずだ。
まあ奴隷契約してて良かったと思おう。
「でもこれ、訓練すれば誰でも出来ると思うけど」
ソナーをイメージすれば。
「そうなの?」
「うん。自分の感覚を薄く広く広げていく感じで、そこに生体反応があったら大きさとか魔力量とかで個体を判断するの」
「それ、難しいよね?」
「生体反応を見つけるのは簡単なんだけど、データがないから個体を判断するのに勉強とか経験が必要かな」
「うーん。自分の感覚を広げて気配を察知するのは、上級の冒険者なら誰でもやるけど、その範囲が桁違いかな。みんなせいぜい半径100mくらいだと思う」
「レオンもそれくらい出来るけど、それだと足の速い魔物だと準備出来ないよね」
「そうだね。なので初級冒険者と上級冒険者の違いは、気づいた後の対応の速さって言われてる」
「なるほどー」
索敵に頼ってる私はやっぱり初級冒険者ってことだよね。もう冒険者辞めたけど。
「リリみたいに目視出来ない距離まで索敵出来て、強力な遠距離魔法使えるなら、一人で国軍を相手に出来るんだよ。もうこれは戦力っていうよりも兵器だ」
「アビエル!黙れ」
「どうして?レオン。これは本人もきちんと理解していないと困る案件だよ?」
「それはそうだが、リリを兵器扱いするな」
「してないよ。事実を指摘しただけだよ。レオンだって気づいてるから、誰にも言うなって言ってるんでしょ?」
別に兵器扱いとかマシン扱いで人格否定されても、元社畜としては何とも思わないけれど、狙われるのは嫌だな。
「人前で魔法使わないようにしてるし、魔物狩りはレオンとしか行かないし大丈夫だよ。私だって自由を束縛されるのは嫌だから、気をつけてるよ」
「そうだな」
「あと、別に兵器扱いされても実験動物みたいに思われていても平気だから。
でも、死ぬのとか痛いのとかは嫌だから守って欲しい」
「もちろんだよ」
「ああ。だが俺はリリが道具扱いされるのは我慢ならん」
「ありがと」
まあ、気にしないって言っても気分は良くないのは確かだ。
レオンは優しいなあ。
「気をつけるよ」
アビエルは平常運転だ。
元々、研究家気質だし、彼の場合は、あらゆるものが研究対象になり得るんだろうな。
「それでさっきの索敵魔法なんだけどね」
ああ、ほんとアビエル、ブレないわ。




