第42話
「あ!きたー!」
はい。あの美人で嫌なお姉さんでした。
冒険者ギルドは、時間が中途半端なせいか、閑散としてて殆ど誰もいない。
「レオン、もう帰っていいかな…」
ぬるま湯生活に慣れた私の心はカンタンに折れるのだ。
「リリが嫌なら俺が換金してこよう」
レオンはクスリと笑って優しく提案してくれる。男前過ぎる。
「ん、おねがいしよかな」
すぐに楽な方を選択する。
つくづく冒険者モノの主人公には向かない性格だよね。
主人公なら、強い敵にも無謀な戦いを挑んで、主人公補正のみで勝利を勝ち取って、伝説とかにならないと。
レオンは、偽装魔法かばんを持ってカウンターへ向かう。
「ゴブリンの魔石を換金したい」
レオンは、淡々と美人だけど嫌な感じのお姉さんに、話しかける。
「あなた奴隷ですよね?奴隷は冒険者になれないので、換金できませんよ」
お姉さんは、私にキツい視線を送りながら言い放った。
なんかもう、頭に血が上るんですけど。
攻撃魔法ぶっ放していいですかね。
無意識に、指先にバチバチと雷を発生させる。
「リリ、だめだ」
レオンが少し焦ったような顔をして私の手を握る。
バチッと大きな音を立てて、私の雷はレオンの手を焼く。
「キャー!」
受付カウンターの、嫌な感じのお姉さんの悲鳴が響き渡る。煩いな。
肉の焼いた臭いが漂ってくる。
「何事ですか!」
「ギルド長!あいつらが、私に危害を加えようと!」
奥の方から、出てきた年配の女性に、嫌なお姉さんが、ヒステリックに訴えている。
ほんと、もういいわ。
「あなたは下がってなさい」
「ギルド長!この人奴隷ですよ?」
「下がりなさい!」
「ヒッ」
年配の女性の厳しい声に、嫌なお姉さんは竦み上がって奥へと引っ込む。
「うちの者が大変失礼しました。ご無礼をお許しください」
年配の女性が丁寧に頭を下げる。
「嫌です」
だが断る。
年配の女性は、ハッとした顔をしてる。
謝ればいいってもんじゃないんだからね。
「話を聞いていただけませんか?」
年配の女性が、食い下がってくる。
「私だけならともかく、奴隷というだけで、レオンを見下すような人を野放しにしている組織の人と話すことは何もないです」
「それは大変申し訳ないと思っています」
「それなら、あの人、丸焼きにしていいですかね?」
いくら温厚なリリさんでも、大事な仲間をおとしめられたら仕返しします。
「リリ!俺なら何とも思っていない」
「だって、レオンを!」
「俺は誰にどう言われようとどうともどうとも思わん」
そう言って、レオンは私を抱き寄せて、背中をポンポンする。
うー、レオンめ。怒りが薄れてくるではないか。
「本当に申し訳ありませんでした」
年配の女性が再び丁寧に頭を下げる。
「失礼を承知のお願いで恐縮ですが、少しだけお時間をいただけないでしょうか」
「リリ?」
レオンの胸に顔を埋めながら、背中をポンポンされる気持ち良さに怒りが収まってしまった。
「すこし、だけなら」
怒りが収まってしまえば、大人の対応も出来る。礼には礼を。
「ありがとうございます。ではこちらへどうぞ」
ここじゃダメなのかな。
「リリ、行くぞ」
レオンに押されるようにして、年配の女性が示すドアに向かう。
途中、嫌なお姉さんが睨みつけてきたので、氷の魔法で、壁に縫い付けてやった。
怪我はさせてないよ。悲鳴は聞こえたけど。
「どうぞ」
大きなデスクと、応接セットのある部屋に案内され、ソファを勧められたので、大人しく座った。
レオンは、私の後ろに立っている。
一緒に座ればいいのにって思うけど、何かあった時に対処するためらしいので、無理強いはしないことにしている。
「早速ですが、貴方達に出された指名依頼です」
余計な事は言わず、用件を伝えてくるのは好感が持てる。内容はアレだけど。
「それは以前にお断りしたものと同じですか?」
「そうです」
「答えは変わりませんけど?」
「中身を確かめてください」
めんどくさいな。
「どんな内容なんですか?」
「わかりません」
「は?冒険者ギルドが絡む依頼なのに、内容知らないってどういうこと?」
「この指名依頼に関しては、封書で依頼されていますので、私共には確認する権限がありません」
「ふーん」
そんなこともあるんだ。
封書を受け取ろうとすると、後ろからレオンが攫っていく。
レオンを見上げると、小型のナイフで封を切り、中身を取り出していた。
さらに、裏表を確認してから私に手渡してくれる。
安全を確認してくれたのかな?
…ついでに中身も読んでくれたら良かったのに。
んー、部屋の解放?なんだそれ。
不動産の立ち退き交渉とか?
絶対違う気がする。
「私は少し外しますね」
年配の女性が、空気を読んで退席する。
この気配りを、なぜ部下に伝えないのか疑問。
「これ、何て書いてあるの?」
レオンは、ソファの後ろから身を乗り出して、カードを読み上げてくれる。
「辺境の森ダンジョン10層の小部屋のドアの解放、だそうだ」
ダンジョンきたー!




