第37話
「時空魔法はね、まず時空や力の概念を理解しないと使えないんだ」
「うん」
最近、冒険者ギルドに行くとロクなことがないので、引きこもって色々と勉強してます。
どうしても時空魔法が使いたくて、アビエルに概要を教えて貰うことにしました。
「この世界は、縦、横、高さからなる絶対的な空間があって、同時に、絶対的な時間が絶え間なく流れているんだけど、それは実は、お互いに関連し合ってると考えられるんだ」
あー、それ何か聞いたことある。
相対性理論とか、量子力学とか、なんかそんなようなやつ。
「それでね、手に持った物を空中で離すと
地面に落ちるでしょ?それは、その物自体が持っているものというより、この大地が、その物を引き寄せる力と考える」
うん、重力だね。
「それは、その物が持つ性質によって時間と空間が歪められて、大地に引き寄せられている作用なんだよ」
あー、学校で習ったやつだ。
たしか、「E=mc2【二乗】」
「リリ、これ理解出来るの?」
アビエルが驚いた顔をして聞いてくる。
「んー、そうだと言われれば、そういうものなんだーと思うだけだよ?」
どこかの頭のいい人が気がついて、みんなが理解出来るように証明してくれて。
私は、その結果を「これが真実なんだ」と学校で教わっただけ。
原子とか分子とかが、くるくる回ったりするところも見たことないし。
「そうなんだ。実は、僕はあまり理解出来ないんだよ」
「覚えていればいいってものでもないんだね」
丸暗記で、テストはクリア出来ても、理解したことにはならないのか。シビアだな。
「ちゃんと理解しないと意味ないし、時空魔法は使えない。
さっき言った、あらゆるものが持っている、時間と空間、即ち時空を歪ませる力に干渉する魔法が、時空魔法なんだ」
ファンタジーは物理だった!
厳しいかも!苦手かも!
「えっと、たしか、質量とエネルギーの等価性の話で、質量の消失は、エネルギーの発生で、エネルギーの消失は、質量の発生を意味するものだから、エネルギーを転換すれば、無から質量が産まれるってことだよ…あ、なるほど…そういう魔法なのか」
「理解出来たの?!」
「んー、そーゆー概念なんだなって程度だね。でもこれって、たぶん錬金術にも通じるんじゃない?」
「…!姉上もそう言ってた」
「この概念を理解しなくても、錬金術は産み出すことが出来るんだ?」
「姉上が言うには、錬金術は技術的な部分も大きくて、僕はそれに特化してるんじゃないかって」
「えー、そしたら時空魔法の概念を理解出来れば最強じゃない?」
「そうかもねー」
「魔法って、現象に対して、魔力ってエネルギーで干渉して、発生させるものでしょ?」
「リリのそれは、古代魔法って言われるものだね」
「そうなんだ?」
「うん。リリは、呪文も魔法陣もなしで、魔法使ってるよね?」
「そういうの、よくわからないから」
「現代はね、魔法も系統化、形式化しててね、古代魔法のように、原理を理解することなく、魔力さえあれば魔法が使えるんだよ」
「へー」
「系統化されたのは、魔力を持って産まれる者が少なくなってきたからなんだ。
殆どの国で、魔力のある者は管理され、保護されているよ」
げ、マジか。
あの女帝の依頼とやらも、その辺りとか?
ヤバすぎる。
「レオンも、魔法学校に通ってたって言ってたでしょ。バリバリの戦闘職ぽいのに、魔法学校に通わせるとか、効率悪いと思うんだけどね…リリがどこの国の産まれなのか知らないけど、まるで今初めて聞いたみたいな顔は、やめておいた方がいいよ?」
アビエルには、色々とバレてそう。
「まあ、家族だか師匠だかが、リリを世間から隠しておきたいって気持ちはわかるから。これからは僕にリリを護らせてね?」
「うん。よろしくー」
たぶん、自分の身を自分で守れない気がするので、みんなに頼むよ。
「それで、さっきリリが説明してくれた質量とエネルギーの関係の辺りを詳しく聞かせてくれるかな?」
「ああー、うーん。私も、そーゆーもんだって知識があるだけで、自分で実証した訳でもないし、そもそもそこまで深く理解もしてないからね?」
「その知識を聞かせて?たぶん、リリの魔法の強さは、そこにある気がするんだ」
そこは神様?からのチートなんだと思ってたんだけど、違うのかな?
違うとしたら、神様は、テンプレチートくれてなかったってことじゃない?
まああんまりチートだと、この世界のバランスが崩れちゃいそうだしね。




