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n番煎じの異世界転生  作者: ココちゃん
36/55

第36話





「あ、リリさん!生きてたんですね。こちらへどうぞ」



「は?」


なんか失礼だな。



ここ数日、家に引きこもってただけで、生存確認された。こわ。


改めて、そういう世界なんだなって思う。


おうちで、ぬるぬる生活してて、緊張感が抜けていた。気をつけないと。



導かれるままに、レオンと二人で受付カウンターに向かう。



「お二人に、指名依頼がありますよ!」


受付のきれいなお姉さんに、なぜかドヤ顔で宣言される。


「え、なんで?」


前にも言ったと思うけど、私はただの駆け出しのEランク冒険者だ。


「どこからだと思います?」


別に聞きたくもないのに、クイズ形式にされてイラっとする。


「さあ、わからないですね。用件はそれだけですか?」


自然、塩対応になってしまったけど、お姉さんには通用しない。


「そうですよ?教えて欲しいですか?」


ニヤニヤしながら、紙をヒラヒラさせている。大方、その紙が件の依頼とやらなんだろう。


「いいえ?」


全くもって興味なし。

なんかフラグの予感もするしね。


受付嬢の上から目線の態度が、あまりにも感じ悪かったので、離れることにする。


『君子危うきに近寄らず』


微妙にニュアンスが違うけど、ようするに大人の対応ってことだ。


お姉さんとは、もう話す事もないので、普通の依頼票を眺めるために、掲示板の所に向かう。




「ちょ!リリさん!どこに行くんですか?」


受付嬢が立ち上がって、再度、私の名前を呼ぶ。大きな声で名前呼ぶのやめて。


適当に南の森のオーガ討伐の依頼票を手に取る。オーガ討伐はほんと人気ないな。

肉はとれないけど、結構お金になるのに。


今回はアビエルから、オーガの素材が欲しいとリクエストされたので、ついでに依頼も受けて儲けようという魂胆です。


レオンに依頼票を見せて、うなずくのを確認してから、再びカウンターに戻り、依頼票を受付嬢に渡す。


だいぶ文字を読めるようにはなったけど、クセ字とか、読みづらいものもあるから、大事なことは必ずレオンに確認してもらう事にしている。


「これ、受けるからよろしくね?」


「…。」


受付嬢は、無言のまま、依頼票の受付作業を始めてくれない。


「この依頼を受けたいので、受付をお願いしたいのだけど?」


もう一度お願いする。


こんなとこで待ち時間を費やすよりも、早くお仕事済ませて家でまったりしたいんだけど。


「ちょっとリリさん!ここに指名依頼があるんですよ?なんで、他の依頼を受けるんですか?」


ついに受付嬢がキレ始めた。おおこわ。


「知らない人からの、内容もわからない依頼なんて受けるはずないでしょ?」


別に、喧嘩を売りたい訳じゃないんだけど、『時は金なり』ってね、異世界に来てまで、嫌な時間を耐えたくないのです。


私は私の時間を楽しく過ごしたいだけ。



「せっかく私が待っててあげたのに、その態度はないんじゃないですか?」


わー、受付嬢が喧嘩売ってきたー。

しかも、ちょー自己中な理由でー。

待っててくれなんて頼んでなーい。


ちょっとカチンと来たよね。

どうしよう、喧嘩売られたってことだよね?買うよ?




「リリ、今日は帰ろう」


私が心の中で燃え上がって、どうしてやろうかとメラメラしていると、いつもは冒険者ギルドのカウンターでは口を出すことがないレオンが、帰宅を即す。



「でもぶっぱなしたい」


いろんなものを。



まあ、アビエルから頼まれた素材もあるから、とりあえずオーガを。


「別に、ここで依頼を受けなくても魔物狩りには行けるだろう」


「あ、そうだね」


さすがレオン。冷静な判断だね。


早速、カウンターに置いた依頼票を掲示板に戻して、冒険者ギルドを出る。


誰かが何か叫んでいたけど、興味もないので無視をする。


動作が少し荒くなったのは許して欲しい。


何か効果的な捨て台詞を言ってやりたかったけど、今は感情的になっているので、やめておく。アンガーマネジメントだ。


おかしいな。


社畜時代は、理不尽なことくらいで感情が動くことなかったんだけどね。

一度、ぬるま湯生活を知ってしまうと、沸点も低くなるのかな。


気をつけよう。

不愉快な感情はブサイクへの第一歩だ。


私が、受付嬢と大きめの声で話をしていた時に、シーンと静かになったギルド内は、私達がドアを開けた瞬間、ざわざわし始めた。


やはり注目を浴びていたらしい。


それにしても、あの人は、受付に向いてないんじゃないかな。


自己顕示欲が強すぎるくらいなら、よくいるかもだけど、冒険者に無駄にマウントを取ってくるのはいただけない。


若い女性を食いたい男なら喜ぶのかもしれないけれど、残念ながら、私にはそういう趣味はない。


「はやく南の森に行こ!」


今日は、ほんとぶっ放したい気分です。




***



「どういうことですか?」


年配の、押しの強そうな女性の手にあるのは、やんごとなき方面から、冒険者ギルドに登録している新人冒険者への指名依頼票。


数日前に依頼されたこれは、依頼された冒険者が、ここ暫く冒険者ギルドに来なかったため、焦げ付いていたものだ。

期限こそなかったが、放置して良いものでは決して、ない。


依頼主が依頼主なだけに、冒険者ギルドとしても、この依頼を受理させ、達成して欲しいので、この冒険者を探していた。

結果、少し前までは、『森のこりす亭』に宿泊していたのだが、現在はどこに宿泊しているのかわからないという。


家を探していたらしいという情報もあったので、空き家や、新築の建物を探してみたものの、見つからない。


そんな中、久しぶりに冒険者ギルドに姿を現した件の新人冒険者に、ギルド職員は、ほっと肩の荷を降ろした気分でいたのだが。




「私の話を全然聞いてくれなくて、帰っちゃったんですよー。せっかく私が一番に見つけて、声をかけてあげたのに」


この美人受付嬢は、各地を旅する冒険者達や、若い駆け出しの冒険者には大変人気があり、彼女が座っているカウンターには、毎日、たくさんの冒険者が行列を作る。


「まさか、今のような態度で接客してませんよね?」


年配の押しの強そうな女性は、ため息と一緒に、疑問点を吐き出した。


「普通に接客しましたよ?」


この子の接客態度は、強いて言えば、自分の持てる力を、最大限に利用したものだ。

つまり、若さと媚びを全力で行使するのだ。


しかし、このような手法は、異性には力を発揮するが、女性相手では、効果は半減どころか、逆効果になるケースが多い。


元々、顔の造作が良い上に、男性冒険者受けする親しみやすい可愛さと、あざとさ。

若さだけを武器にするマウント話術は、冒険者受けしているのだから、決して悪くはない。


ただし、誰にでも通用するものではないと、今回のことで学んでくれたら、と思う。


若者を育てるのは、年長者の務めだ。


先ずは、この受付嬢に、自分の失敗を気づいて貰わなければ。

そして、優先すべき順位付けを間違わないようたくさんの経験を積ませ、その時に選べる選択肢の中で、ベストなものを選べるように。


あの方も、あまり無茶なことはせずに、あの遠く小さな村から来たという新人冒険者を、先輩として導いてくれたらと願う。





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