第32話
「前方北側400mに、トロルっぽい二体の魔物を察知。雷の魔法の射程内に入ったら撃つってことで良い?」
「ああ、頼む。一発で沈めても構わない」
「わかった」
毎日、ソナーの魔法で索敵をしていると、少しずつ広範囲に魔物を感知出来るようになった。精度も上がってる気がする。
そしてこの魔法は、私たちの生命線と言っても良いほどに重宝している。
そう、ピュリファイの次くらいに。
狩りで一番怖いのは、不意打ちだ。
簡単に倒せるゴブリンでも、不意打ちされたら、高確率でコッチにダメージが入ってしまう。
ゲームっぽい世界だけど、ゲームではないので、ダメージが入るとマジで痛い。
私はまだダメージを受けたことはないけれど、笹っぽい植物の硬くて尖った根を踏んで、足の裏から血が出たり、薮の中に入って、木の枝が手や顔に刺さって怪我したりはした。
それだけでも痛かった。
強そうな魔物がいたら、早めに逃げる。
思いっきり逃げる。
引き際というのは、本当に大事で、安全マージンは、取りすぎるくらいがちょうどいいと思う。
人生、中途半端に頑張っても、あまり良いことなんてない。
異世界で頑張ったら、魔王とか倒せたりするのかもしれないけれど、そんな物語みたいな、波乱の人生とか、メンタル弱いので耐えられません。
トロルっぽい二体は、やっぱりトロルで、100mくらいの距離に近づいた瞬間、雷魔法を強めに撃ち込む。
女帝からのストレスも一緒に込めたので、いつもより強めになってしまった。
レオンの、「一発で沈めても構わない」の指示は、つまり、ストレス発散させてリセットしろってことだ。
人の扱い方上手だなあ。
戦闘での経験値は、レオンの方が、ずーっとずーっとプロだから、当然、魔物狩りのときは指揮を執ってくれるんだけど、奴隷契約の主人は、あくまで私ってことで、その微妙な関係性の下で、とても自然に上手く立ち回っているように見える。
私の社畜時代とは大違いだ。
あきらかに間違っている上司の指示に従う苦痛と戦いながらも、業務を円滑に行うために、まずやらないといけないのが、上司のご機嫌取りっていう事実に、ストレスを溜めまくっていた。
もう思い出したくもないけど。
この世界で生活するのも不安だけれども、前の世界みたいに、常に何かに追い立てられているような、責められているような、そんな生活はもうやだな。
女帝の依頼が、前の世界の上司からの不本意な命令みたいに感じたから、あれ程の拒絶反応を示してしまったのかも。
冷静に考えてみたら、あの対応は無かったのかもしれないけれど、やっちゃったもんはしょーがないよね。
レオンごめん。何かあったら、巻き込む事になりそう。
「あ」
トロルが倒れている場所にたどり着くと、真っ黒焦げになった何かが2体。
「…もう少し加減してくれ」
レオンが、ため息と一緒に声を吐いた。
魔石は大丈夫だと思うよ。うん。
「お」
ソナーに反応あり。
「魔物か?」
「うん。たぶんまたトロル。一体だから、きれいに倒そう」
「きれいに?」
「うん。討伐部位が、ちゃんと確保出来るように」
「わかった」
私だって、やればできる子だ。




