第28話
「今日はレオンが作ったの?」
「ああ」
「ひょっとしてこれ、昨日とってきたオークの肉?」
「そうだ」
「そうかー」
私たちの3人暮らしは、設備的には、かなり便利なのだが、その他がイマイチだった。
お掃除…、清潔さは、私の万能魔法のピュリファイで解決する。
でも、お片づけがダメ。
残念なことに、三人とも自分の部屋が雑然と散らかっているのが気にならないタイプだったのだ。
魔法によって清潔に保たれているのも良くなかった。
せめて、玄関のエントラスホールとリビングは散らかさないようにしようってことにしたんだけど、リビングは既に散らかっている。
エントラスホールにも、外出時にすぐ持っていくようなものが置いてある。これはダメだ。
あと食事問題。
レオンは、肉を焼くだけの、ザ野営料理しか作らない。
美味しいんだけど、毎日食べたいものでもない。絶対栄養が偏る。
でも本人は、毎日でも良いらしい。
あと、レオンは美味しいの範囲が広い。
アビエルは、今まで料理をしたことがない。
先日、お披露目してくれた手料理は、美味しかったんだけど、レシピ通りに作ることに重点を置くため、食材を無駄にすることを厭わない。
家計が結構ギリギリな我が家にはキツい。
あと、作るのに時間がすごくかかる。
決して不味くはないんだけど、かかったものに対して釣り合う結果には結びついていない。
でも、レパートリーが増えて慣れてくれば、解決するはず。伸び代に期待だ。
私は正直、味が微妙。
それなりに作れはするんだけど、なんでかあまり美味しくない。実は三人の中で一番美味しくない。
ちゃんと作ってるはずなのに、全部どこか同じ味になるのだ。ちなみに前の世界でもそうだった。
驚くことに、調味料や、なんちゃらの素がたくさん存在した前の世界で作った料理と、限られた調味料しか存在しないこの世界で作った料理が、たいして変わらず微妙味になるのだ。解せぬ。
他の二人は美味しいって言ってくれるんだけど、レオンは味オンチだし、アビエルは嘘をつくのが上手いから全く信用出来ない。
というわけで、適当に交代で食事を作っているんだけど。
うん。
『森のこりす亭』が懐かしいね。
異世界に来て、右も左もわからない状態で、奇跡的に元騎士に守られるポジションを得、魔法もそれなりに使えるようになり、町の人にも、ごく自然に受け入れられて、ごはんもちゃんと食べられて、今は借家とはいえ、住む家を手に入れた。
しかも、錬金術のおかげで、日常生活は快適だ。
お仕事も、レオンと二人で町の外へ行き、ちょろっと魔物を狩るだけで、生計が成り立つ。その日暮らしだけど。
狩場までの時間を通勤時間と考えると、実質労働時間は、2時間程度。
魔物狩りなので、もちろんこちらにも危険はあるけれど、レオンが充分に安全マージンを考慮してくれている。
私は、前衛のレオンの後ろで、ちまちまと魔法で援助するだけの簡単なお仕事だ。
午後は、アビエルが持ってきてくれた本で文字の勉強をしたり、家でのんびりとしている。
いいのかこれで。
ラノベとかで、異世界に転生してしまった主人公さんたちが目指すスローライフを、いとも簡単に手に入れてしまったのではないだろうか。
ワーカホリックではないけれど、元社畜としては、逆に不安になるのだ。
だがしかし、こんなことを考えること自体がフラグ製造に繋がってしまいかねないとも思う。いかん。
大丈夫だ。自分で大丈夫だと思ってる限り大丈夫なものなのだ。
とは言え、私が出来る生産的な活動は、ポーションを作るくらい。
でも、売った時のリスクを考えると、これで生計を立てるのことは避けたい。
幸い、別に売らなくても、生活には困らない。
まあ、その日暮らし程度だけど。
でもこの世界、銀行とかないっぽいから、投資とかしてお金を回してくれる信頼できる機関がない。
タンス預金一択なので、貯めるのにもリスクがある。
貨幣価値についても、国が戦争に負けたりして無くなってしまう可能性があるから信用出来ない。
社会保障制度もなさそうだから、どんなことになっても、食っていける手段を持っていることが大事ってことだ。
その日暮らしの冒険者生活は、歳をとって身体能力が低下したら、今よりずっとリスクが高くなる。
ちなみにポーションは良いお金になるらしい。
冒険者ギルドでも、商業ギルドでも買い取ってくれて、自分でも売って良いとのこと。
老後の主な収入源の予定だ。
三人くらいは食べていけるよね。
今は、材料も仕入れてないのに、ポーション売るのは怪しく思われるんじゃないかと思って、今のところ自分たちの分だけ作ってる。
「明日はどこかに食べに行きたいな」
平和に過ごせているだけでもありがたいと思わないといけないんだろうけれど、美味しいものが食べたい。
レオンはともかく、アビエルも現在の食生活に満足していないと見た。
別にレオンの食事が不味いって言ってるんじゃないからね。
レオンは細かいこと気にするタイプじゃないから言い訳はしないけれども。
「じゃあ、明日は狩りもお休みして、お店とか周ろうか。リリの装備も揃えたいし」
「え?」
「町の外に出るのに、普通の服だけってあり得ないからね?」
「そうだな。俺も強くそう思う」
アビエルの意見に、レオンも乗っかる。
「だって、ヨロイとか、動きづらいんだもの」
暑そうだし、重そうだし、ゴワゴワしてるし、歩いただけでも疲れそう。
それで集中出来なくて死亡とか、本末転倒じゃないかなーとか抵抗してみる。
「だったら、比較的動きやすいものを探して、魔力で防御力を底上げすればいいでしょ?」
「魔力が込められた武器って、凄く高いんだよ?」
これだからお坊っちゃまは。
「僕は錬金術師だよ?リリが好きなデザインの防具を買って、僕が錬金加工するよ」
「そんなこと出来るんだ!」
「これでも特級錬金術師だよ?」
アビエルはドヤ顔だ。
「凄いね!」
特級がどれくらい凄いのか、わからないけれど、特別に凄いに違いない。
「大きめの魔石は、売らないで持って帰ってきてくれたら、それ使ってアクセサリー作ってあげられるからね?」
「わかった!」
魔石って、そういう用途にも使えるものなのかー。
「可愛いの探そうね」
なぜか、アビエルがわくわくしている。
地味ベースで、ちょこっと可愛いくらいが良いです。




