第27話
やっぱりお風呂はいいよね。
あの後、二人のおねだりに負けた私は、この家を月金貨6枚で賃貸契約を結ぶ決心をした。
そこで、見学前の時点で既に契約が済んでいたという驚愕の事実を知らされたのだ。
アビエルに頼まれて名前書いた書類が、契約書だった。アビエルめ。
難しい文章が読めない私の痛恨のミスだ。
今度から、名前書く前にレオンに読んで貰う。アビエル、全然信用出来ない。
でもその前に、ちゃんと文字の勉強しなきゃだね。早急に。
それにしても、この家は快適過ぎる。
どういう仕組みになってるのかわからないけれど、トイレは水洗だし、飲料水も蛇口をひねればいつでも出てくる。
お洗濯は、私がピュリファイすれば良い。
そしてお風呂。
湯船には、ゆっくり足を伸ばして入りたい派なので、浴槽を大きくして、リフォームしてもらいました。アビエルに。
露天風呂はセキュリティ的に却下されたけど、私はまだ諦めていない。
錬金術師のアビエルは、マジで凄い人。
私がこういうのあれば良いなと思うものを、どんどん研究してくれる。
アビエルも、私の発想を面白く思ってくれていて、研究熱が止まらないんだそうだ。
錬金術に使う素材は、元々家にあるストックのほか、足りないものは、私とレオンが狩りがてら集めてるので、ほとんどお金がかからない。
ただ、私が欲しい魔法のバッグは、錬金術に時空魔法と闇魔法を混ぜないと作れないそうで、アビエルだけでは無理。
アビエルのお姉さんが使えるらしいので、機会があったら教えてもらいたいな。
ファンタジー定番の時間が止まる魔法のかばん作りたい。
出来立てのお料理を、湯気の出ているまま保存するやつやりたいです。
二人は庭の手入れも始めていて、草を抜いたり、木を動かしたり、植えたりしているようだった。
レオンは家庭菜園を始めるそうだ。
長年の夢だったらしい。良かったね。
騎士さんだから戦いが好きなのかと思ってたけど、そうでもないんだね。
食生活の向上のため、是非とも頑張って欲しいです。
***
「リリ、お願いがあるんだけど」
麦わら帽子をかぶって、庭に木を植えていたアビエルが、リビングでダラダラしていた私を庭に連れ出した。
「ここ、地脈も霊脈も良い感じでね。精霊樹が育つと思うんだ」
精霊樹?
「そんなレアっぽい植物、自分ちの庭で簡単に育てられるものなの?」
「ん?うん、それでね、リリはポーション作れるでしょ」
あれ?アビエルに話したっけ?
「そんな顔しないでよ。秘密にしてるんでしょ?誰にも話してないってば」
アビエルの見てるところでポーション作ったことあったか?んんん…
「前に、御守りだよってくれたポーション錠剤を分析して推理しただけだよ」
「むー」
研究熱心さんめ。
「怒ってる?」
アビエル、外で拾った時は、もっさいオッさんかと思ってたんどけど、家に引っ越して、髪を切ってあげたり、髭を剃ったり、清潔な服に着替えたりしたら、思っていたより若くて、それなりにイケメンさんなんだよね。
しかも、末っ子らしく甘え上手。
レオンは、ワイルド系ちょいイケだし、目の保養だね。俺得です。
「怒ってない。許してはいないけど。それで何?」
アビエルは、にっこりと笑う。許してないんだからね。
「ここに毎日、最上級のポーションをかけて欲しいんだ」
そうして連れてこられたのは、家から少し離れた前庭の少し西寄りのあたり。
引っ越してきた当時は、雑草がたくさん生い茂っていた場所だ。
今は、きれいに引っこ抜かれて整地されている。
「わかった。これで良い?」
言われた場所に、無言でエクスポーションをぶっかける。特にエフェクトなどはない。
「うわ、何もないところからポーション作れるんだね。材料とかどこから調達してるの?錬金術師としては、リリを研究したくなっちゃうね」
む。
「人体実験とか、ダメだからね」
ひょっとしてアビエル、危ない人系か。
奴隷契約しといて良かった。
「…しないよ?」
「今の間、なに」
「大丈夫、さ、ごはんにしよ?」
アビエルは、喰えない笑顔で、私の手をとり、家へと導く。
何が大丈夫なのか教えてほしい。




