第24話
「それで、奴隷である僕は、何をしたらいいのかな?」
魔導具のことなどを熱く語った後に、アビエルが質問してきた。
「ん?何かしたいこたあるならしたら良いよ?」
特にして欲しいこともないし?
「僕は一度命を失ったと思ってる。今生きているのは、リリのお陰で、命の恩人であるリリのために、これからの僕の人生を捧げたいんだけど…色々興味深いし」
重っ!
そんな決意、要らないから!
うちには既にレオンがいるから!
「えっと、捧げなくていいよ?」
「どうして?僕は奴隷になるのは初めてだけど、見たことはあるよ?契約形態は色々あるようだけれど、少なくともみんな使役されていて、主人に尽くしていた。
僕もリリに尽くすよ」
尽くすとかやめて欲しい。
私は、誰かに尽くされなくても充分、幸せに生きていける。
「や、私は、私の能力とか誰にも言わないでいてくれたり、私を攻撃したり陥れたり、不利益になるようなことをしないでくれたらそれでいいの」
「でもレオンはリリの側に仕えてる」
「レオンは、私の盾だもん」
なぜか、隣でレオンが嬉しそうにしている。
わんこが褒められてると思って、シッポをゆっさゆっさしてるみたいだ。
盾扱いで嬉しいのか。いい奴だ。
「僕もリリを守るよ」
アビエルはなおも食い下がる。
自由にしていいって言ってるのに。
「でもアビエルはあまり戦闘に向いていないから、かえって足手まといになるよ」
「それは、そうかもしれないけれど」
「アビエルを助けるためにレオンが死んだりしたら、私は私のことが許せなくなる」
アビエルを連れて行くと判断した自分に。
「そういう時は、僕を助ける必要はない」
「そんなこと出来ないし、自ら命をかけて盾になるのも許さない。もちろんレオンにもそれは許してないよ」
「…リリは厳しいな」
「厳しいよ。二人の主人だからね」
「じゃあ何をしたらリリは喜んでくれるのかな」
「何もしなくていいよ?自分のやりたいことをやってよ」
「リリの側に仕えて尽くしたい」
わー、話が一周して戻った。案外頑固だな。
「私は冒険者として生計を立てているんだけれども、私よりも体力が無く、私よりも狩りに必要な魔法が使えないアビエルは、正直、町の外に連れて行きたくない」
これ以上ないってくらい、はっきりお伝えする。
「じゃあ、リリの家を守って、リリの為に魔導具を研究する」
自宅警備隊かあ。
でも、自宅がないんだよね。
「今はこの宿に泊まってて、自分の家は持ってないよ」
「じゃあ、僕がみんなで住む家を探すよ」
一緒に住むこと前提か。
「ちょっと待って。アビエルはこの町に住んでるんでしょ?帰る家、あるんじゃないの?」
「姉上たちの家に居候させてもらってて、前々から出て行けって言われてたんだ。ちょうどいいし、引っ越しする」
「えー」
押し強いな!なんなのこの粘り強さは。
「どんな家がいいの?広さは?場所は目立ちたくないなら郊外?生活用の魔導具は任せて」
恐ろしいことに、話がどんどん進んでいる。
悪い感じはしないから、このまま乗っかっても良いのかもしれないけれど、今日初めて会った人と一緒に住むことに抵抗があるよ。
倫理的にどうなの。
でも奴隷契約してるんだからいいのか。
冒険者なんかは、年齢性別関係なく、自由に生きてるみたいだし。
「打ち合わせなどをする大きめの部屋の他に、台所や、食堂、あと各自に一部屋ずつは必要だろう」
なんでか、レオンが家の希望を答えている。
おい。
「レオンはアビエルと一緒に住むのに賛成なの?」
レオンの意見も聞いておこう。
「アビエルもリリの奴隷で、リリに尽くしたいと思っているのだから同じ家に住むべきだろう」
レオンは、当然と言った顔で答える。
そういうものらしい。
「そうだよね!で、リリの希望は?」
味方を得て、力をつけたアビエルを止める術はもうない。
「湯船にゆっくり浸かれる広めのお風呂と、臭くないトイレとか…。あと、お金や、高価なものを安全に仕舞っておける倉庫かな…」
「承知したよ。場所はどの辺りが良いの?町の北西は高級住宅街で、治安は良いけどいきなり冒険者は住めない。町の中は、商売やってる人が店舗兼住宅として住んでる地域。騎士団の奴らは、騎士団内部の寮に住んでいて、所帯持ちは、官庁街の住宅に住んでる人が多いよ。
あと、冒険者たちは、冒険者ギルドと正門の間にある家を借りて住んでる」
「へぇー、そうなんだー」
さすが、この町に住んでるだけあって詳しいな。
「治安はなるべく良い方がいいが、この町は全体的に悪くないので、場所には拘らなくて良いだろう。目立たない方を重視で。
あと、庭に木を植えるなどして道路からの視界を遮りたい」
なぜか住環境について、レオンが積極的だ。
普段あまり意見を言わないから、なるべく好きにさせてあげたいと思うのだけれども。
「そんなにお金ないから、家賃の高いとこは無理だよ」
いかんせん、先立つものがない事実には目を背けられない。
「金は、俺たちがもっと効率良く狩りに行けば稼げるだろう。魔法のかばんもあることだし」
「なるほど」
はいはい頑張りますよ。あるじ様だしね。
「少し心当たりがあるから任せて。明日、行ってくるよ」
「よろしくー」
あれ?いいのか?




