第23話
「錬金術って何?」
アビエル救出事件の後は、狩りをする気分にならなかったので、二体のオーガを解体して町へ帰ってきた。
帰り道で、つまめるものと飲み物を屋台で適当に買ってから、『森のこりす亭』の私の部屋で、まったりとアビエルの自己紹介を聞こうという計画で。
主に錬金術のこととか。
「魔力で魔導具とか、色々なものを造る人だよ」
「魔導具!便利だよね!」
「そうでしょ!こんなのあったらいいなっていうものを試行錯誤して作るのが好きなんだ」
「すごいね!」
「そうでしょ!リリも何か作って欲しいものがあったら言ってね」
アビエルはご機嫌さんだ。奴隷に堕ちたばかりなのに。天然か。
「うん!魔法のかばんが欲しい!」
実はね、アビエルってば、職業もファンタジーなんだけど、持っていたんですよ、アレを。
小さいのに無闇にたくさん入るかばんを!
「かばんかぁ。あれ僕一人では作れないんだ。魔力の高い時空魔法が使える人に協力してもらわないと」
時空魔法!
どんどんファンタジーになっていく!漲る!
「とりあえず、予備のかばんをあげるね」
「いいの?!」
「僕のご主人様だしね」
「ありがとう!嬉しい!」
時間が止まるとか、無限大に入るとかのチート機能はなくて、見た目は、手持ちかばんサイズの巾着だけど、四畳半一部屋くらいの荷物が入るらしい。後で試してみよう。
「帝国には、このようなものが存在していたのか…」
アビエル救出事件の現場で、アビエルの魔法のかばんを見てから、レオンは頻りに感心していた。
「あ、このかばんは市販されてないからね。僕の試作品で、世界中で姉上の関係者くらいしか持ってない」
激レアか!
「そうなんだ。それじゃあコソコソと使った方がいいね?」
「そうだね。権力者が持つならともかく、リリみたいな一介の冒険者が持つものではないし、量産したら色々とバランスが変わるよね」
バランスというのはパワーバランスということだろうか。物資の輸送関係で、戦争の時の軍隊の機能がすごい変化しそう。
でもアビエル、ぼんやりしているように見えて、国家間のバランスについて考える人だったのか。侮れないな。侮ってないけど。
うん。異世界生活初心者の私が、侮っていいはずない。すみませぬ。
「アビエルって、ひょっとして只者ではない?」
すごい人だったりする?
レオンもうんうんとうなづいている。
ちなみに、森のこりす亭の私の部屋は、ベッドと、小さなテーブルと椅子が一つずつしかないので、アビエルが椅子に座り、私とレオンがベッドに座っている。ちょっとせまい。
「僕は、ただの錬金術師だよ。勿論、腕に自信はあるよ」
こうして話してみると、アビエルはどこかの良いところのお坊ちゃんのように見える。
あまり手入れはされてなくて伸び放題にしてるけれど、プラチナブロンドの髪にブルーの瞳。鼻筋もシュッと通ってる優男。
イケメンといえなくもないかな。
まあでも、18歳くらいから30歳くらいまでの男子って、みんなイケメンに見えるんだよね。
服装は、この世界で一般的な、アオザイのような詰襟のストンと膝下までの長さのワンピースの下に、アンダーのズボンを合わせて着ている。色は地味だけど、布地の素材がどう見ても良さげ。
声も柔らかく言葉遣いも丁寧で、冒険者には見えない。
あと、屋台のつまみを食べたり、飲み物を飲む仕草が、なんとなくきれい。
その辺の町民ではないのだろうなと予想をつけるも、何処ぞの誰であると名乗られたところで、全くわからないから追及はしないよ。
面倒くさいもん。
「その優秀な錬金術師さんは、なぜ一人でオーガ二体と戦ってたの?一人で狩りは危ないよ?」
魔法のかばんに色々武器が入っていたのかもしれないけれど、腕には武器が握られてなかったし、周りに落ちてもいなかったから、武人ではないのだろう。
「どうしてもオーガの素材が欲しかったんだ。最初は一体だけだったよ?戦っているうちに、もう一体が現れた。
なんとか一体は倒せたんだけど、腕と足を持っていかれてね。本当に死ぬかと思ったよ」
うん。たしかに死にそうだったよ。
「魔法で戦ってたの?」
「いや、僕はあまり攻撃魔法は得意じゃなくてね。土魔法と闇魔法が使えるんだけど、土は即効性の攻撃的な魔法がないし、闇は魔力の消費が激しくて使い勝手が悪いんだ」
闇魔法!あると思ってた!
光があるんだから、闇もあると思った。
「だから魔導具で戦ってたんだよ」
「戦闘用の魔導具もあるんだね」
「むしろ造られたのは戦争用の方が先だし、生活用の魔導具は、戦闘用の応用だよ」
わー、なんかどこかで聞いたような話。
どこの世界も人間って、同族殺しに情熱を傾ける生き物なんだね。




