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第八十八訓 借りはキチンと返しましょう

 結局、財布を忘れて来た立花さんに代わって、俺が全額を出してパピポとビッグチョコモナカを買った。

 その後、俺たちはレジ横に設置されたイートインコーナーに向かい、窓際のテーブルの前にあるカウンターチェアに腰を下ろす。

 一番夜が短い時期だとはいえ、今の時間はまだ午前四時前。日の出にはまだ早く、外はさすがに真っ暗なままだ。

 大きな窓の外から見える一車線の道路には、歩く人はもちろん、車の姿も見えない。

 そんないつもと違う街の景色に新鮮さを覚えながら、俺はさっき買ったアイスの封を開けた。

 そして、袋から半分だけ取り出したチョコアイスモナカに口を付けようとした――その時、


「――はい。半分あげる」


 俺の隣に座った立花さんがそう言いながら、半分に折ったパピポを俺に差し出してきた。


「え、いいの?」

「いいよ。元々半分こ出来るようにって思って、パピポを買ったんだから」


 ビックリしながら尋ねた俺に、立花さんはさも当然だと言わんばかりの顔で答える。

 彼女がそんな風に気を遣ってくるとは思いもしなかった俺は、目をパチクリさせながら、差し出されたパピポを恐る恐る受け取った。


「ええと……サンキュ」

「ん」


 おずおずとお礼を言った俺に、小さく頷いた立花さん。

 と、彼女は、パピポを渡した手を伸ばしたまま、無表情でじっと俺の顔を見つめた。

 数秒の間、彼女に見つめられ続けた俺は、その視線の意味が解らず、狼狽気味に首を傾げる。


「ええと……な、なに? 俺の顔に何か付いて――」

「あたしにもちょうだいよ」


 俺の問いかけに、立花さんは憮然とした顔をしながら、俺が持っているジャンボチョコモナカを指さした。

 その仕草で、俺はようやく彼女の言っている事の意味が悟る。


「ああ……そういう事ね。だから、ガジガジくんじゃなくてモナカを買わせたんだな。半分ずつ分けられるように……」

「そゆ事。二種類のアイスを食べられるんだから、お得でしょ?」


 俺の言葉に得意顔で頷いた立花さん。

 だが、すぐにその表情を一変させ、非難めいたジト目を俺に向けてきた。


「……ていうか、あたしに催促される前に、自分から進んで半分こしなきゃダメだって。そういうところで気が利かないと、女の子にモテないよ」

「へいへい。気が利かない男で大変申し訳ございません」


 小うるさい立花さんの“忠告”に生返事しながら、俺はジャンボチョコモナカを真ん中で二つに割り、袋に入った側を彼女の手の平の上に載せてあげる。


「はい、どうぞ」

「うん、ありがと!」


 俺からモナカを受け取った立花さんは、嬉しそうな笑顔を浮かべた。

 そんな彼女の反応につられて、俺も思わず顔を綻ばせる。


「じゃ、いただきまーす!」

「いただきます」


 俺たちは、示し合わせたようにそう声をかけ合った。


「ええと……」


 俺は、右手のモナカと左手のパピポを見比べ、どちらを先に食べようか迷う。

 だが、最初に先端部分を捩じ切る必要があるパピポは、両手が空いてないと食べられない事に気付いた俺は、まず最初にジャンボチョコモナカの方を片付ける事にした。

 モナカの端に口を付けて頬張った俺の口の中に、パリッとしたウエハースの食感と柔らかいバニラアイスの香り、そしてその中に挟まった板チョコの風味が広がる。

 ……うん、美味い。

 いつもならアイスはガジガジくん一択と決めているのだが、たまには違う物を食べるのも良い。

 俺はモナカの味をたっぷりと堪能して満足げに頷くと、更にもう一口齧り付いた。

 その時、


「……あとで返すから」

「ふぇ?」


 不意に横からかけられた声に、俺はモナカを咥えたまま、訝しげな声を上げる。

 そのまま視線と首を横に向けると、立花さんが窓に目を向けたままで言った。


「アイスのお金……帰ったらちゃんと返すからさ」

「……ああ、それか」


 立花さんの言葉を聞いた俺は、苦笑いしながら首を横に振ってみせた。


「そのくらい別にいいよ。どうせ三百円くらいだし」

「いや、ダメだよ!」


 軽い気持ちで断った俺に、立花さんは激しく首を左右に振る。

 そして、バツ悪げに目を伏せながら、おずおずとした声で言葉を続けた。


「だって……こんな真夜中にコンビニまでついてきてくれたお礼で奢ろうとしたのに、結局そのお金まで出させちゃって……。ソータに借りばっかり作ってるじゃん、あたし……」

「借りって……。別に、そんなに気にする事でもないって」

「でも……」


 何やら落ち込んでしまった様子の立花さん。

 俺は、そんな彼女を見て、思わず噴き出した。


「ぷぷっ……」

「……なに? 何がおかしいの?」

「あ、いや……ゴメン」


 怖い目で睨んでくる立花さんに、俺は慌てて謝る。

 そして、思った事を正直に言った。


「いや……君って、妙なところでマジメだよね」

「はぁ? バカにしてんの?」

「いや、してないって」


 ムッとして気色ばむ立花さんの剣幕に、俺は辟易としながら首を左右に振る。

 そして、苦笑しながら言った。


「バカにするどころか、むしろ褒めてんの。俺は良いと思うよ、立花さんのそういうキッチリしてるところ」

「……そうかなぁ?」


 俺の言葉を聞いた立花さんは、釈然としない様子で首を傾げながら、モナカを一口頬張るのだった。

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