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第六十五訓 食べ物はみんなで仲良く分け合いましょう

 スーパーでの買い物を終えた俺と立花さんは、少し遅れて会計を終えたミクたちと合流して、今度こそ俺の家へと向かう。

 その道すがら、ミクが興味津々といった様子で、俺に向かって尋ねてくる。


「そういえば……颯大くんたちは、何を買ったの?」

「え? ええと……」


 ミクに問いかけられた俺は、そのまま答えていいか迷って、立花さんの方をちらりと見た。

 藤岡の横に並んで歩いていた立花さんは、俺の視線に気付くと、小さく首を横に振って、代わりに答える。


「あたしがホダカの為に作る料理に使う食材です。あ、何を作るかは企業秘密ですので、ミクさんには教えられません!」

「あ、そうなんだぁ!」


 立花さんの答えに含まれた、自分に対する剥き出しの対抗心にも気づかぬ様子で、ミクはニッコリと笑いかけた。


「ルリちゃんも料理を作ってくれるんだね。ひょっとして、料理を作るの得意なの?」

「え? え、ええと……まあ、た、嗜む程度には……」


 ミクからの率直な問いかけに、立花さんは微妙に視線を逸らしながら、ぎこちなく頷く。……つか、なんだよ、「嗜む程度」って。

 ……だが、あからさまに自信無さげなリアクションにもかかわらず、ミクは立花さんの言う事をあっさりと信じ込んだようで、大きく見張った瞳をキラキラと輝かせた。


「そっか~! ルリちゃんが何を作ってくれるのか、楽しみ!」

「あ! い、言っておきますけど!」


 はしゃぐミクに釘を刺すように、立花さんが声を荒げる。


「あ、あたしは、ホダカの為だけに作るんで! ごめんなさいだけど、ミクさんたちの分はありませんから! 材料も、一人分しか買ってないし!」

「あ……そうなんだ……」


 立花さんの言葉に、ミクはがっかりした表情を浮かべた。


「食べたかったなぁ、ルリちゃんの手作りの料理……」

「う……」


 シュンとしてしまったミクを見て、立花さんの顔に仄かな罪悪感が浮かぶ。

 と、その時、おもむろに藤岡が口を開いた。


「あ。食べたいんだったら、僕が半分分けてあげるよ、未来ちゃん」

「えッ?」


 藤岡の申し出に、立花さんが上ずった声を上げた。

 一方のミクは、藤岡の言葉に嬉しそうな表情を浮かべたものの、困ったように逡巡する。


「ありがとうございます。でも……ルリちゃんは、ホダカさんの為にって言ってるのに、私が貰っちゃうのは……」

「そ、そうだよ!」


 ミクの言葉に大きく頷いた立花さんは、必死の形相で藤岡に訴えた。


「あたしは、ホダカだけに食べてほしいから作るの! ホダカが一番食べたいものをさ!」

「ああ、そうなんだね……」


 立花さんの訴えに困ったような苦笑を浮かべながら、藤岡は「でもね……」と言葉を継ぐ。


「せっかく、ルリが作ってくれた料理を、僕一人だけしか味わえないのはもったいないよ。だから、未来ちゃんたちにも是非食べてほしいんだけど……やっぱりダメかな?」

「う……」


 懇願する藤岡を前に、まんざらでもない顔になった立花さんは、すぐにエヘンと言わんばかりに胸を張った。


「しょ、しょうがないなぁ。そこまであたしの作った料理が食べたくてしょうがないって言うのなら、ちょっとだけだったらあげてもいいよ!」

「お、そうかい。それは良かった!」

「わあ、本当? ありがとう、ルリちゃん!」


 立花さんの言葉を聞いた藤岡とミクは、嬉しそうに顔を綻ばせる。

 その様子を見て満足げに頷いた立花さんは、次いで、すっかり会話の蚊帳の外に置いてけぼり状態の俺の方を向き、そこはかとなくイラっとするようなドヤ顔で俺に言った。


「じゃあ、()()()()()()、アンタも食べていいよ。一口分……いや、ひとかけら分くらいならね!」

「……『ついでだから』ってか……」

「なに? 文句ある?」

「……ワーイ、ウレシイナー」


 言い草に思わずカチンときて言い返しかけた俺だったが、ここはグッと堪えて嬉しがるフリをする。


「……ちょ! アンタ――」


 俺の、全く心が籠っていない棒読みの返事にムッとした表情を浮かべた立花さんが何か言い返そうとした。

 だが、それをいち早く察知した俺は、すかさず彼女から目を逸らすと、前方に見えてきた建物を指さす。


「あ、見えてきた。あそこっす、俺の家!」

「お、どこだい?」

「……!」


 俺の声に、藤岡が目を輝かせた。その横で、立花さんは憮然としながらも、開きかけた口を閉じる。


「あ、あそこかな? あの茶色い――」

「あ、そうっす」


 不満そうな立花さんの顔を見てほくそ笑みながら、俺は藤岡に向けて頷いた。

 そして、今度は苦笑いを浮かべながら言葉を継ぐ。


「……まあ、元々は白い外壁だったみたいなんですけどね。何せ築四十年のボロアパートなんで、すっかり汚れ果てて、ああいう茶色になっちゃったみたいです。もう、洗っても落ちないみたいですねぇ……」

「あ……ごめん」


 俺の言葉に、藤岡が申し訳なさそうな顔をして、俺に頭を下げてきた。


「本郷くんの住んでいるところに対して、とても失礼な事を言ってしまって……申し訳ない」

「あ、全然大丈夫っす! 実際、ボロいのは確かなんで! ははは……」


 藤岡に対し、慌ててフォローを入れ、自虐的な笑い声を上げる俺。

 ……まあ、心の中では、


(つか、俺ん家が事故物件だからって言ってウキウキで泊まりに来るのも、大概失礼なんだよなぁ……)


 と、思わないでもなかったんだけど……。

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