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幼馴染たちの挽歌(エレジー) ~幼馴染たちは、幼馴染の心を幼馴染から取り戻す!~  作者: 朽縄咲良
俺のラブコメの今は何章目くらいだろう(終章です)
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第三百七十八訓 相手が納得できるようにきちんと説明しましょう

 ――そんな事があってから十日後。


「はぁあああ~……」


 天ぷら鍋の中で油に浸かってジュワジュワパチパチと音を上げている唐揚げの肉をボーっと見つめながら、俺は大きく息を吐いた。


「どうしたの? さっきから浮かない顔で溜息ばっかり吐いて」


 そんな俺に訝しげに尋ねてきたのは、俺の隣でキャベツを刻んでいた母さんだ。

 ――十二月の第二日曜日の今日、俺は実家に帰っていた。

 本郷家では、十二月が誕生月の母さんの誕生日会と早めのクリスマス会を兼ねたパーティーを開催するのが毎年恒例となっている。

 今年は第二日曜日の今日がパーティーの開催日と決まり、長男の俺も当然のように出席するよう呼び出され――なかば無理やり台所に駆り出されて慣れぬ料理を手伝わされていた。

 その最中に、暗い顔で何回か溜息を吐いていたのを目敏い母さんに見咎められたようだ。

 俺は、内心で(マズった……)と思いながら、素知らぬ顔で首を横に振る。


「……いや、別に何でもない……よ」

「はいウソ。絶対なんかあったでしょ」


 俺の答えを瞬殺で看破した母さんは、口元にいたずらっぽい笑みを浮かべた。


「察するに……ルリちゃんの事でしょ?」

「……」


 思わず、「キッショ。何で分かるんだよ」と言いながら頭蓋を外したくなりつつ、俺は無言で油の中で泳ぐ唐揚げをひっくり返す。

 問いに答えない俺の反応で自分の推測が正しい事を確信したらしい母さんは、興味津々といった様子で更に問いを重ねてきた。


「どうしたの? まだ付き合い始めたばかりなのに、もうケンカでもした?」

「……ケンカってほどじゃないと思うんだけど」


 少し辟易しながら首を左右に振った俺は、もう一つ溜息を吐いてから、「実はさ……」と続ける。


「クリスマス……バイトが入っちゃってさ。ルリちゃんと会えなくなっちゃったんだよ。で……この前それをLANEで伝えたら……」

「ルリちゃんが怒っちゃった?」

「いや、そこまでは……」


 母さんの言葉に、俺は自信なくかぶりを振った。


「その……多分怒ったりしてる訳じゃないと思うんだけど……やっぱり何となく不機嫌になっちゃったなーっていうのが、言葉の端々から薄々察せられて……」

「そりゃそうでしょ」


 俺の答えを聞いた母さんが、呆れ顔を浮かべる。


「だって、付き合い始めてから初めてのクリスマスでしょ? いっしょに過ごしたいに決まってるじゃない。それなのに、仕事を優先したから会えないって言われたら、そりゃ機嫌が悪くもなるわよ」


 そう言うと、母さんはリビングの方に声をかけた。


「ねえ、ミクちゃんもそう思うでしょ?」

「……え? なんですか?」


 リビングの窓の横に設置したクリスマスツリーの飾りつけをしていたミクは、母さんからのいきなりの問いかけにキョトンとした表情を浮かべた。


 ――実は、ミクも今日の誕生日会兼クリスマスパーティーの参加者である。俺の幼馴染という事で、本郷家の“名誉家族”として、毎年欠かさず参加してくれている。

 ……いずれはミクも、“本当の家族”としてパーティーに参加してくれるようになる――と、去年までの俺は何の疑いも抱かず、そう信じ込んでいたのだが……彼女には藤岡さんという彼氏が出来て……。


 おっと――閑話休題。


「ごめんなさい、真里さん。私、話聞いてなくって……」

「あぁ、いいのいいの。大した話じゃないから」


 クリスマスツリーのてっぺんに付ける星型の飾りを持ったまま、申し訳なさそうな顔をして謝るミクに苦笑しながら手を横に振った母さんは、俺の顔を指さして続ける。


「颯くんが、クリスマスにバイトの方を優先したせいで、ルリちゃんの機嫌を悪くさせちゃったんだって」

「えぇっ?」


 母さんの説明に目を丸くしながら驚きの声を上げたミクは、責めるような目を俺に向けた。


「そうちゃん、それはダメだよ! クリスマスに会わないなんて、そりゃルリちゃんも怒るし、悲しむよ!」

「そ、そんな事言っても!」


 ミクの剣幕にたじろぎながら、俺は慌てて弁解する。


「しょ……しょうがないんだよ! クリスマスの日は、かつ……社員さんが希望休を入れてて人がいなくて、バイトの俺が出ないと売り場が回らないんだもん!」

「いや、そこは社員さんの方が出るべきでしょ。なんでバイトの颯くんの方が休みを譲ってあげなきゃいけないのよ?」


 俺の言葉を聞いた母さんが、不満げに口を尖らせた。

 それに対し、俺は慎重に言葉を選びながら答える。


「で、でも……その社員さんは社員さんで、その……どうしてもクリスマスに休めない理由がありまして……」

「あら? どんな理由なの?」

「いや、それは非常にデリケートでプライベートな事なんで、俺の口からはちょっと……」


 返答に困って、歯切れ悪く言葉をぼかす俺。

 それに対して、「だったら、別に言わなくてもいいけど」と言ったミクが、じっと俺の顔を見つめながら尋ねる。


「――その理由って、ルリちゃんは知ってるの?」

「あ……うん、もちろん」


 ミクの問いかけに、俺は小さく頷いた。


「クリスマスに休めなくなったことを伝えた時に、ざっくりだけど一通り話した。それで、『そういう事情ならしょうがないね』って納得してくれたんだけど……」

「納得……」


 俺の答えを聞いたミクは、訝しげに首を傾げる。


「……本当にしてるのかなぁ、ルリちゃんは?」

「う……っ」


 ミクが口にした疑問に答えを返せず、俺は言葉を詰まらせた。

 ……なぜなら、それはルリちゃんの返事を聞いた時から俺自身も気になっていた点だったからだ。

 でも……その後、何となく連絡を取るのが気まずくなってしまってしまって、結局今日に到るまで確認できずじまい……。


「……まったく」


 押し黙った俺を見て色々と察したらしい母さんが、真顔で諭すように言う。


「だったら、ルリちゃんにもう一度説明してあげなさい。今度は“ざっくりと”じゃなくて“しっかりと”ね」

「う……うん」

「誠心誠意しっかりと説明して、きちんと納得してもらえたら、クリスマスの分まで埋め合わせできるような提案をしてあげる事が大事よ。いいわね」

「わ、分かりました……」


 俺は、いつになく真剣な母さんの口調に圧倒されながら、ぎこちなく頷いた。


「じゃあ……後でルリちゃんに連絡してみるよ。それで、何とか納得してもらえれば……」

「あぁ、別に連絡はしなくていいと思うわよ」

「……は?」


 俺は、母さんの意外な返事に思わず当惑する。


「連絡しなくていい? で、でも、『ルリちゃんにきちんと説明しなさい』って、ついさっき言ってたじゃん」

「ええ、言ったわね」

「い、いや、だったら連絡取らないとダメじゃん」


 訳が分からず、ますます混乱する俺。

 そんな俺をよそに、母さんとミクは互いの顔を見合わせ、意味ありげにくすくすと笑い合う。


「うふふ。颯くん、私たちに感謝しなきゃだね」

「そうですね。ふふ……」

「はぁ……?」


 ふたりの反応の意味が分からず、更に困惑を深める俺。

 ――と、


 ピ~ン ポ~ンッ!


 唐突に玄関のチャイムが鳴った。

 次の瞬間、


「はいは~い!」


 と黄色い声を上げながら、母さんがドアホンモニターの元に駆け寄る。

 そして、「あー、あなたが! はじめまして~」とドアホン越しに二言三言話をした後に俺の方へ顔を向け、おもむろに玄関を指さした。


「颯く~ん。お客様が来たから、中にお通しして~」

「え?」


 突然母さんから指示された俺は、思わず訊き返す。


「は? 何で俺が? 母さんの方が玄関に近いじゃん」

「いいから! 颯くんが出て!」

「いや、だから何で?」


 有無を言わせぬ口調の母さんに違和感を覚えて首を傾げながら、俺は目の前の天ぷら鍋を指さした。


「っていうか、俺、今唐揚げを揚げてるからここを離れられないんだけど?」

「そうちゃん、私が変わるからだいじょうぶだよ」


 そう言いながら俺が持っていた菜箸を取ったミクが、満面の笑みを浮かべてみせる。


「だから、そうちゃんが出迎えてあげて」

「えっ? いや、だから何で……?」


 ミクから背中を押されながら、俺は更に当惑しながら尋ねた。

 だが、そんな俺の問いかけにもふたりは答えず、とにかく俺を玄関に向かわせようとする。

 これ以上押し問答をしても埒が明かないと思った俺は、諦めてふたりの言う通りにした。


「はいはーい……今開けますよぉ」


 首を傾げまくりながら玄関に行った俺は、そう言いながらドアを開ける。


「こんにちは、本郷くん。久しぶりだね」

「え……っ?」


 ドアの前に立ってにこやかに挨拶をしてきた相手の顔を見た俺は、思わずポカンと口を開けた。


「ふ、藤岡……さん?」


 想像もしなかった来客の正体に、俺は状況が掴めず、ただただ唖然とする。


「え、ええと……何で藤岡さんが俺の実家に……?」

「君のお母さんに、未来ちゃん経由で招待されてね」


 苦笑しながら俺の問いに答えた藤岡さんは、チラリと自分の背後を見た。


「……実は、僕以外にもうひとり居るんだ。いっしょにお邪魔していいかな?」

「え……もうひとり?」


 彼の言葉を聞いた俺は、当惑しながらドアの向こうに注目する。

 ……確かに、誰かがドアの陰に隠れるようにして立っていた。


「ほら、そんな所に隠れてないで、出てきなよ」

「……」

「本郷くんに会いたかったんだろ?」

「……」


 本郷さんに諭された“誰か”は、少し躊躇する様子を見せてから、おずおずといった感じでドアの陰から姿を現す。

 その気まずそうな顔を見た瞬間、俺の心臓は一際大きく跳ねた。


「る……ルリ……ちゃん……!」

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