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幼馴染たちの挽歌(エレジー) ~幼馴染たちは、幼馴染の心を幼馴染から取り戻す!~  作者: 朽縄咲良
俺のラブコメの今は何章目くらいだろう(終章です)
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第三百七十四訓 愚痴や秘密は信頼する人だけに話しましょう

 それから――

 俺とルリちゃんの“体験版デート”から一ヶ月ほど経った、ある日の夜。


「はぁあ~……」


 あちこちから酔っ払いの陽気な笑い声と乾杯の音頭が聞こえてきて(やかま)しい事この上ない居酒屋チェーン店『烏義賊』の座敷席に、この日何十回目かの溜息が上がった。


「いやぁ、マジで帰りたいよ。ホンゴーちゃんたちと一緒に仕事してた頃にさぁ……」


 そうぼやいて、ジョッキに半分ほど残っていたハイボールを一気に飲み干したのは、今日の主役である四十万さんである。

 今日は、新店へ異動した四十万さんの送別会だ。

 主役である四十万さんが新店の準備で忙しくてなかなか時間が取れなかったり、俺たちの都合が合わなかったりで、一ヶ月以上も延び延びになっていたのだが、今日ようやく開催できたのである。

 久しぶりに会った四十万さんは、一見ウチの店にいた頃と変わらない調子だったが、酒が入ったら抑えていたブレーキが吹っ飛んだらしく、今日までの間に溜まりまくっていたらしい異動先での仕事の愚痴をこぼしまくって――今に到る。


「し、四十万さん……もうちょっとペースを抑えた方が……」


 荒ぶる彼女におずおずと言ったのは、俺の隣に座るスーツ姿の葛城さんだ。

 俺も、彼の言葉に同調して頷く。


「そうっすよ。明日は仕事なんすよね? 新店準備で大変なんですから、あんまり飲み過ぎない方が……」

「だーっ! ふたりともうるさいなぁっ!」


 俺たちの忠告に、四十万さんは苛立たしげに声を荒げ、ぶうと口を尖らせた。


「楽しく飲んでるのに、水差さないでよぉ」

「い、いや、『楽しく』って……なんか、さっきから延々と仕事の愚痴を吐いてるだけのような気がするんすけど……」

「なによぉ? 愚痴ってるのが楽しくて何が悪いのよぉ?」

「ま、まあ……本人が楽しいと言うのなら、別にいいんですけど……」


 開き直る四十万さんに辟易しながら、俺は口ごもる。

 そんな俺を、彼女は酔いが回ってトロンとした目で恨めしげに睨みつけた。


「特にホンゴーちゃんっ! せっかく私が久々の飲み会で羽を伸ばしてるのに、明日も新店準備(クソ仕事)があるなんて嫌な事を思い出させないでよぉ~!」

「そ、それは……すみません」


 膨れっ面の四十万さんにビシッと指を突きつけられた俺は、内心では(絡み上戸(じょうご)めんどくせ~……)と思いながらも、しぶしぶ頭を下げる。

 それを見て、少しだけ機嫌を直したらしい彼女は、傍らのタッチパネルで追加の注文をしながら、「まあ……」と続けた。


「確かに、さっきからずっと私が喋りっ放しだったね。ごめんごめん」

「あ、いや……」


 急に四十万さんから素直に謝られた俺は、思わず隣の葛城さんの方を見る。

 俺と目が合った葛城さんも、当惑混じりの困り笑いを浮かべていた。

 そんな彼に向けて、コクンと首を傾げながら肩を竦めてみせた俺は、カシスオレンジが入った自分のジョッキを手に取り、一口啜る。

 ――と、


「じゃあ、今度はホンゴーちゃんの話を聞こっか」


 そう言いながらテーブル越しに身を乗り出した四十万さんが、爛々と輝かせた目を俺に向けた。


「で――彼女ちゃんとは最近どうなの?」

「ぶ、ぶふぅっ?」


 興味津々といった声で四十万さんから問いかけられた俺は、思わず口に含んでいたカシスオレンジを噴き出す。


「な……な、なななな何をいきなり……っ? て、っていうか……なんでその事を知ってるんですかっ?」


 慌ててカシスオレンジまみれになった口元を紙ナプキンで拭きながら、俺は隣に顔を向けた。


「ま、まさか、葛城さんが……?」

「い、いえいえっ!」


 俺から疑いの目を向けられた葛城さんは、大慌てで首を左右に振る。


「わ、私は言ってません! ほ、本郷さんに『誰にも言わないで』と念を押されてましたから……」

「……ですよね」

「ふふ……マジメで律儀なカツラギくんに限って、ホンゴーちゃんが口止めした事をペラペラ喋ったりする事は無いわよ」


 俺の反応を見て、クスクス笑いながらそう言った四十万さんは、次の言葉であっさりと情報漏洩の犯人を答え(ゲロッ)た。


「檀ちゃんから聞いたに決まってるでしょ」

「やっぱあの人かあああぁっ!」


 半ば予想していた通りの下手人の名を聞かされた俺は、嘆き声を上げながら天井を仰ぐ。

 そんな俺に、四十万さんが呆れ顔で言った。


「他人の恋バナを知った檀ちゃんが、誰にも言わずにいられるはずがないじゃない。あの()に『彼女が出来た』って言っちゃったホンゴーちゃんのミスだね」

「いや、俺から言った訳じゃないっすよ……」


 四十万さんの理不尽な言葉に、俺は渋面を浮かべながら首を横に振る。


「なんか、俺の表情とか態度とかで感づかれたらしくて……それで、半ば誘導される感じでルリちゃんとの事を色々聞き出されて……」

「あー、そういう事だったのね」


 俺の答えを聞いた四十万さんは、苦笑いを浮かべた。


「まあ、しょうがないわね。檀ちゃん、店人事やってる事もあって、そういう他人の態度の変化とかにはやたら鋭いからね」

「なに、その『人事ならではの特殊スキル』の無駄遣い。……っていうか、他人(ひと)のプライバシーをペラペラ他に漏らすのって、人事担当としてどうなんすかね……?」


 四十万さんの言葉に顔を引き攣らせながら、俺は当店人事担当のコンプライアンスに激しい疑問を持つのだった……。

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