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第三百四十四訓 出かける時には移動時間も考慮しましょう

 ……そんな感じで、

 ルリちゃんも割と乗り気で、一時は“体験版デート”の行き先は鹿野川(かのかわ)シ―ワールドで決まりかと思ったが――そうは問屋が卸さなかった。


「う~ん……これはちょっと厳しいなぁ」


 ふと、自宅のある赤発条から鹿毛川までどう行くのか気になって、乗り換え案内のサイトで検索してみた俺は、出てきたシビアな検索結果に頭を抱える。


「鹿野川までだと、赤発条(ここ)からでも三時間半以上もかかるぞ……」

『え、三時間半? マジ?』


 俺の言葉を聞いたルリちゃんが、驚いた声を上げた。


『カノシーって、千葉県にあるんだよね? 東京の隣なのに、そんなに時間かかるの?』

「まあ、隣には違いないんだけど……」


 ルリちゃんの問いかけに、俺はサイトに表示された地図を横にスクロールしながら答える。


「鹿野川は千葉の先っぽの方で、更に太平洋側だから、結構遠いみたい。……その上、東京と違って、通ってる路線も電車の本数もそんなに多くない上に、海に沿ってグル~って回り込むルートしか無いのもあって……」


 そう言いながら、俺は到着時刻を鹿毛川オーシャンワールドの営業開始の九時に設定して時刻表検索をかけた。


「……遅くても、五時一分の電車に乗らないとオープンに間に合わないね。それでもギリギリだけど」

『ご、五時ぃ?』

「しかも、これは俺ん家の最寄り駅の赤発条駅から乗った場合の乗車時間だから、君の家からだと、もっと早い時間に電車に乗らないと間に合わないよ」

『えぇえ……?』


 俺の説明を聞いたルリちゃんが、絶望の響きに満ちた嘆声を上げる。


『五時一分よりも早く?』

「まあ……そうなるね。えーと……正確には、四時二十八分だね」

『うええぇ……ヨジニジュウハップン? マジデイッテル?』

「マジで言ってます。……って、なんで片言やねん」


 まるでアニメのテンプレ外国人みたいな口調になったルリちゃんに吹き出しかけながら、俺はツッコミを入れ、それから小さく息を吐いた。


「……それから、四時間以上も電車に乗らないと着かないってなると……正直結構厳しいかもね」

『……そうだね』


 俺の言葉に、ルリちゃんも同意する。


『行く時に四時間かかるって事は、帰る時も四時間かかるって事だもんね……。移動時間で八時間は、ちょっと……いや、だいぶキツいなぁ……』

「だよなぁ……」


 と、ルリちゃんの声に頷きながら、俺は(車があればなぁ……)と思わざるを得なかった。

 もし、電車じゃなくて車で鹿野川まで行ければ、もっと短い時間で着けるかもしれない……。

 でも、俺……車どころか免許もまだ持ってないしなぁ……。

 こんな事なら、運転免許を取れば良かったな。

 ――藤岡さんみたいに。


『……どうしたの? 急に黙りこくっちゃって』

「あ……い、いや、何でもない。ちょっと考え事してただけ」


 不思議そうな声でルリちゃんに尋ねられた俺は、慌てて返事をし、それからおずおずと彼女に確認する。


「じゃあ……カノシーはやめとこっか」

『……そだね』


 俺の問いかけに、ルリちゃんが残念そうな声で答えた。


『さすがに片道四時間は、行くだけで疲れちゃいそうだしね。……早起きするの苦手だし』

「ミートゥー……」


 彼女の言葉に頷きながら、俺は開いていたカノシーのホームページを消し、再び水族館マップの上にマウスカーソルを動かす。


「そうなると、他には……」


 “海沿いで”、“そんなに遠くなくて”、“ペンギンがたくさんいて”、“オウサマペンギンもいる”水族館……それだけの条件を満たす水族館……。

 そんなところがあるのかと半信半疑になりながら、俺は地図を南の方角にスクロールし――、

 ひとつのアイコンに目を止める。


「『……百景島シーユートピア……」」

「『――えっ?」』


 奇しくも、俺とルリちゃんの声がハモり、ふたり同時に驚いた。


『……ソータも見つけた?』

「……ルリちゃんも?」

『うん』


 ルリちゃんの返事を聞いて、ふたりの思考がリンクした奇跡に改めてビックリする俺。

 偶然と同時に必然を感じながら、俺は『百景島シーユートピア』のホームページを開いてみた。


「えーと……まあ、百景島くらいのデカい水族館なら、ペンギンがいるのは当然として……オウサマペンギンはいるかな……?」


 期待と不安で胸を高鳴らせながら、ホームページに目を配る俺だったが――その答えはすぐに判明する。


「――百景島シーユートピアにいるペンギンは、イワトビペンギン、ジェンツーペンギン、ケープペンギン、アデリーペンギンに――オウサマペンギンも!」

『やったあっ!』


 少しもったいをつけて俺が答えを告げるや、間髪を入れず、スピーカーの向こうから歓声が上がった。


『オウサマペンギンもいるんだ! いいじゃん!』

「あと……日曜日には、ペンギンが園内をパレードするのが見れたり……」

『ぱ、パレードっ?』

「あ、事前予約でペンギンに餌をあげたり握手したりできる“ふれあいイベント”もあるみた――」

『ふっ、ふふふ、ふれあいイベントおおおおおおぉっ?』


 興奮したルリちゃんが、俺の声を遮るように絶叫を上げる。


『ほ、ホントっ? え、餌をあげたり……そ、それに、あ、あああ、握手まで……っ?』

「あ、ペンギンとツーショットで写真撮影もできるって!」

『ま、ま、マジでええええええっ?』


 “隙を生じぬ二段構え”とばかりに俺が付け足したトドメの一言に、ルリちゃんはいつもの彼女からは考えられないような奇声……もとい、()声を上げたのだった……。

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