表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
341/380

第三百四十一訓 夜更かししすぎるのはやめましょう

 『まあ……』


 ひとしきり笑った後、ルリちゃんが言った。


『そういう事なら、行く場所をどこにするかは、また後で決めよっか』

「そうだね」


 彼女の提案に、俺も同意する。


「その方が助かるよ。せっかくの初デートなんだから、変なところに連れてってしくじりたくはないし……」


 そこまで言いかけたところで自分の失言に気付いた俺は、慌てて「……って! ち、違う!」と叫んだ。


「は、“初デート”じゃなくって、“体験版デート”だったね! 大丈夫、そこはちゃんと分かって……弁えてるから!」

『……』

「……あれ? どうしたの? ひょっとして、電波悪い?」

『……聞こえてるっ!』

「……?」


 なんとなく、返ってきたルリちゃんの声にトゲがあるように感じた俺は、当惑しながら首を傾げる。


(あ……やっぱり、俺が“初デート”って言っちゃった事がイヤだったのかな……?)


 ふと、そんな推測が頭を過ぎり、俺は更に慌てて釈明と更なる謝罪をしようとした。


「る、ルリちゃん! ゴメ――」

『……ふわぁあ……』

「…………ン?」


 俺の声を遮るように上がったのは、紛れもなくルリちゃんのアクビだった。

 次いで、俺の耳に、少し恥ずかしそうなルリちゃんの声が届く。


『ゴメン……あたし、なんか急に眠くなってきちゃった……』

「あっ……」


 彼女の言葉を聞いて、俺はさっき交わした会話を思い出した。


「そういえば……昨日は全然寝てないって……」

『……うん』


 俺の問いかけに、ルリちゃんはフワフワした感じの声で答える。


『多分……何となくひと段落ついてホッとしたら、その拍子に昨日からの眠気が一気に来たみたい……ふわぁああ……』


 答えの最後にも盛大なアクビをしたルリちゃんは、申し訳なさそうに続けた。


『だから……今日はこの辺で終わりで……いい?』

「あ、も、もちろん!」


 俺は慌てて彼女の言葉に頷く。


「か、考えてみたら、もう夜中過ぎだもんね! 昨日もロクに眠れてないんなら、そりゃ眠くもなるよな……俺の方こそ、そんな事にも気付かなくって、ゴメン」

『ううん……』


 ルリちゃんは、俺の謝罪にそう答えると、ぼそりと付け加えた。


『本当は、もうちょっとソータと話してたいんだけどなぁ……』

「……!」


 少し呂律が回っていない感じのルリちゃんの一言を聞いた俺は、思わず息を呑む。

 やにわに胸の鼓動が早まった気がして、顔面の表面温度も一気に上昇したように感じた。


『……ソータ、どうかした?』

「あ……う、ううんっ、何でもない!」


 スピーカーからの怪訝な声に、俺は慌てて叫ぶ。

 正直、さっき耳に入ってきた発言の真意を問いただしたいところだったが……ひょっとしたら単なる空耳だったかもしれないと思い直して自重した。


「じゃ、じゃあ……詳しい話は明日以降にって事で……」

『…………うん』

「あ、行く場所だけど……もし、行きたいところがあるなら、遠慮なく言ってね。一応俺も考えとくけどさ」

『…………うん、分かったぁ』


 ルリちゃんからの応答が、地球の裏側と繋がった衛星中継のように一拍遅れて返ってくる。……どうやら、本当に意識レベルが限界のようだ。

 今にも寝落ちするんじゃないかと心配になりつつ、俺は言葉を継ぐ。


「……こんな時間まで待たせちゃってごめんね。明日も学校でしょ?」

『……うん……まあ……そだね……』

「だったら、早く寝ないとね」

『…………うんふわあぁあぁ……』


 遂に返事とアクビが混じった。

 うん、早めに切り上げた方が良さそうだ。


「じゃ、じゃあ、マジでそろそろ……」

『はあぁい……』

「また……明日LANEするね」

『りょーかーい……』


 ふわっふわしたルリちゃんの返事を聞きながら、俺は後ろ髪を引かれながらも、切話ボタンに指を伸ばす。


「じゃあ……おやすみ。……またね」

『……お……や……ふみぃ……』


 ……途切れ途切れなルリちゃんの声に少し心配を抱きつつ、俺は通話を切った。

 俺は、暗転したスマホの画面から目を離しながら、ベッドの上にゴロンと寝転がる。


「ふぅ……」


 天井をぼんやりと見上げた俺の口から、安堵と疲労と……少しの寂しさが混じった溜め息が漏れた。


「決戦は……二週間後の日曜日――か」


 ……妙な気分だ。

 その日が早く来てほしいような……来てほしくないような……。

 だって、その日は、ルリちゃんに会える日であると同時に、彼女から俺の告白に対する最終的な返事を聞く日でもあるのだ。

 つまり……『俺が二度目の失恋をする日』になる可能性もある日なのである。

 まあ――もちろん、『俺の“年齢=彼女いない歴”が途切れる日』となるかもしれないけど……正直、その可能性はほとんど――それこそ“微レ存(微粒子レベルで存在)”というくらいしか無さそう……。




 と、その時――、


 ――“ドォンッ!”


 突然、部屋の壁からけたたましい音が鳴った。


「う、うわあっ?」


 頭の中がネガティブな思考で覆い尽くされそうになっていた俺は、突然の激しい音にビックリして跳ね起き、慌てて周囲を見回す。


「ら、ラップ音? え、なんで? 最近は全然静かだったし……こんなに激しく鳴った事も無かっ――」

『ええいっ! 戦う前に負ける事を考える奴があるかあっ!』

「ひ、ひいぃっ!」


 唐突に、脳内で怒声が響き、俺は心臓が飛び出るくらいに驚いた。

 いくら見回しても姿は見えない。……が、カイゼル髭を生やした軍服姿の鬼軍曹が声の主だろうというのは、見えずともハッキリと理解(わか)った。

 ……脳内イメージの鬼軍曹は、苛立ちと憤怒の表情が浮かべながら、俺に向かって怒声を浴びせかける。


『そのような事では、勝てるものも勝てなくなるぞッ! ()る前に諦めるな! 最後の瞬間まで足掻くのだ! 「断じて行えば鬼神もこれを避く」と言うだろうがあっ!』

「りょ……了解であります軍曹殿ぉッ!」


 頭の中で百雷が落ちたかのような叱咤を撒き散らされた俺は、反射的に直立不動となり、ラップ音が鳴ったと思しき方向に向けて敬礼し――。




 ――昨夜の記憶で覚えているのは、そこまでだった。


「……むにゃ……?」


 間の抜けた声を上げながらムクリと身を起こした俺は、寝癖の立った髪を掻きながら、窓の方に寝ぼけ眼を向ける。


「……あれ? もう朝……?」


 カーテンの隙間から、明るい光が差している。

 枕元に転がっていたスマホで現在時刻を確認したら、ちょうど午前七時になったところだった。

 ベッドから立ち上がった俺は、さっき……いや、昨夜ラップ音が鳴った部屋の壁をぼんやりと眺めながら、ぽつりと呟く。


「夢……か?」


 ……普通に考えれば、もちろんそうだ。

 この部屋で時々原因不明のラップ音が鳴るのは確かだけど……それが隣の部屋で亡くなった人の亡霊によるものだとか、ましてやその亡霊に怒鳴りつけられたなんて……あり得ない。


「……」


 あり得ない……はずなんだけど……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ