表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/378

第二十九訓 役割は適材適所で分担しましょう

 『第25回・最高のカップルは誰だ? チキチキ! 走って答えてクイズ大会』に参加する、俺たちを含んだ三組のカップルの紹介が終わり、それに続けて、司会のお姉さんの口からクイズのルール説明が行われた。


 それによると――このクイズは、


 ふたりの内のひとりが“解答席”に座り、出題されたペンギンに関するクイズの答えが分かったら、机の上に置かれた解答ボタンを押す。

 ↓

 その傍らに置かれたランニングマシーンが連動して動きだし、その上に乗ったもうひとりが二百メートル分を全力疾走し、走り切ったらそこで初めて解答権を得られる。

 ↓

 クイズに見事正解すると1ポイント獲得。

 ↓

 先に5ポイントを獲得したカップルが優勝。


 ――というルールらしい。

 というか……何だか、某人気バラエティ番組の名物コーナーで、よく似た形式のクイズを見たような気がするのだが……。

 俺と同じようなデジャヴを感じた人は他にもいるようで、詰めかけた観客たちの間から、「それって、あの番組の……?」「東フレのアレじゃね……?」「たわしのやつだ……」「パジェ〇……!」というひそひそ声があちこちから上がった。


「はーい! クイズの説明は、これでおしまいでーす!」


 司会のお姉さんも観客席からの声を耳にしたのか、心なしか少し上ずった声を張り上げて、居合わせた人々の注意を引く。

 そして、俺たち参加者たちの方にニッコリと笑いかけると、発泡スチロールのボードで粗末なデコレーションを施した三卓の机と、その傍らに置かれた三台のランニングマシーンを指さした。


「では、チャレンジャーの皆さん! クイズに答える方と走る方を決めて頂いたら、早速解答席へどうぞ~!」


 司会のお姉さんの声に、俺たち三組のカップルたちは、思わず互いの顔を見合わせる。

 俺も、戸惑いの表情を浮かべながら、未だガチガチに顔を強張らせている立花さんの方に顔を向け、おずおずと尋ねた。


「えっと……ど、どうしよっか? どっちが解答する?」

「そりゃあ……決まってるでしょ?」


 俺の問いかけに、立花さんはさも当然そうに解答席を指さし、言葉を継ぐ。


「――あたしが解答席。あんたは走る方だよ」

「……デスヨネー」


 彼女の答えを聞いた俺は、僅かに頬を引き攣らせた。

 すると、目ざとくそれに気付いた立花さんが、眉間に皺を寄せる。


「何よ? 何か不満でも?」

「あ……いや、そういう訳じゃないんだけど……」


 彼女に睨みつけられた俺は、タジタジとなりながら首を横に振り、「ただ……」と続ける。


「いやぁ、俺、最近マジに走ってないから……。それでいきなり二百メートル走らされるって、脚とか大丈夫かなって思ったり思わなかったり……」

「何、オッサンみたいな心配してんのさ?」


 俺の言葉に、立花さんはジト目で俺の顔を見上げながらそう言うと、はあと大きな溜息を吐くと、小さく頷いた。


「まあ……別に、あたしが走る方をやってもいいんだけど。――あんたが、あたし以上にペンギンの事を知り尽くしてて、出題されるクイズを完璧に答えられるって言うのなら、ね」

「う……」


 立花さんに痛いところを衝かれ、俺は言葉を詰まらせる。

 彼女は、そんな俺に冷たい目で向けながら、低い声で「その代わり……」と言葉を継いだ。


「万が一……クイズに答えられずに、優勝を逃すような事があったら……どうなるか分かってるよね?」

「……喜んで、馬車馬のように走りまくらせて頂きます!」


 俺は、自分に向けられた立花さんのジト目の奥に身の危険を感じ、慌ててピンと背筋を伸ばしながら叫んだ。

 彼女は、そんな俺に向かって大きな溜息を吐くと、

 

「はじめっから、そう言いなよ。まったく……」


 と言い捨て、ぷいっと顔を背けると、解答席に向かった。


「……」


 俺も彼女と同じように大きく嘆息してから、ランニングマシーンの方へと向かい、軽く屈伸運動をしてから、黒いランニングベルトの上に乗る。

 チラリと横を見ると、他の二組も、男性の方が走る方向で話が纏まったようだった。


「オナシャース!」

「あ……よろしく」


 視線に気付いたふたりからにこやかに挨拶された俺は、コミュ障っぷりをいかんなく発揮しながら、ペコリと頭を下げる。


「あ……よ、宜しくオナシャス……」


 ……微妙にSAY☆YAさんの口調が移ってしまい、バツ悪げに頭を掻きながら、照れ笑いを浮かべる俺。

 そんな俺の事を見て、弦田さんとSAY☆YAさんも相好を崩した。

 と、その時、


「ではッ! 早速第一問っ!」

「は、早ッ!」


 司会のお姉さんの元気のいい声が耳に入り、ルームランナーの上で慌てて体勢を整える俺たち。

 そんな俺たちにも構わず、視界のお姉さんは手にした紙に書かれた問題を読み上げる。


「――現在、地球上に生息しているペンギンの種類を、()()答えて下さい!」

「……え、ええええええっ?」


 出された問題を聞いた俺は、思わず驚愕と当惑が入り混じった声を上げた。

 ……いや、『地球上のペンギンの種類を全部答えろ』って。第一問から随分と難易度高くねえか……?

 てっきり、『ペンギンが棲んでいるのはどこでしょう?』みたいな、ファミリー向けの緩い問題が出題されるとばかり思ってたので、完全に虚を衝かれた。

 ――もっとも、それは俺だけじゃなかったらしい。

 弦田さんもSAY☆YAさんも、解答席に座る弦田さんの奥さん美沙姫さんも……いや、会場に居合わせた観客たちのほとんどが、ペンギン……もとい、鳩が豆鉄砲を食ったような顔をして、目をパチクリとさせている。


 ――ただ一人を除いては。


 “ピンポ~ン”


 唐突に、お馴染みのチャイムの音が会場に響き渡った。

 それと同時に、俺が乗っていたルームランナーがゆっくりと動き始める。


「う、うおおおっ?」


 突然動き始めたルームランナーの上で、完全に油断していた俺はバランスを崩し、素っ頓狂な悲鳴を上げた。

 その時、


「――何やってんの! 早く走って!」

「アッ……ハイッ!」


 隣から飛んできた鋭い叱咤で我に返った俺は、慌ててルームランナーの横の手すりを掴んで、全速力で走り始める。

 そして、ルームランナーの操作パネルに嵌め込まれた液晶の表示がどんどんと増えていき、やがて『200』になった。

 と同時に、司会のお姉さんの弾んだ声が上がる。


「ハイッ! 本郷さんチーム、解答権獲得です! 答えをどうぞ~!」

「ぜえっ! ぜえっ! ぜえっ……!」


 急な全力疾走で、すっかり息が切れた俺は、ルームランナーの手すりに寄りかかりながら、傍らの解答席に目を向ける。

 そして、真っ直ぐに前を見つめている立花さんの真剣な横顔を見ながら、(本当に答え分かってるのかな、この娘……?)と少し不安になった。

 もし不正解なら、今の俺の体力と努力がまるまる無駄になる訳なんですが、それは……。

 そんな俺の心配をよそに、立花さんは大きく息を吸い込むと、それから一息で捲し立てた。


「――はいっ! エンペラーペンギン・キングペンギン・アデリーペンギン・ジェンツーペンギン・ヒゲペンギン・ガラパゴスペンギン・ケープペンギン・フンボルトペンギン・マゼランペンギン・フィヨルドランドペンギン・シュレーターペンギン・スネアーズペンギン・マカロニペンギン・ロイヤルペンギン・キタイワトビペンギン・ミナミイワトビペンギン・キガシラペンギン・コガタペンギンの全十八種類ですッ!」

「……ッ!」


 一切の言い淀みも無く、まさに立て板に水を流すように答えた立花さんに、会場にいた全ての人々が驚きの眼差しを向けた。もちろん、俺も例外ではない。

 そして、全員の注目が、正否を告げようとする視界のお姉さんの口元に移る。


「え~…………………」


 司会のお姉さんは、会場を焦らせるように、溜めに溜めた末に――


「……ハイッ! 見事正解で~っす!」


 と満面の笑みを浮かべて、両手で大きな丸を作ってみせた。


「「「「「「おおおおおおお~っ!」」」」」」


 それを見て、観客たちが大きくどよめきながら、手を叩いて立花さんを喝采する。


「マジか! 当たりだってよ!」

「あのおねえちゃん、すごーい!」

「ペンギン全種類の名前なんて知らねえぞ、普通……!」

「え、えへへ……」


 観客席から上がる称賛と驚嘆の声を受けて、立花さんは照れ笑いを浮かべながら、ペコペコと頭を下げているのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ