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第二百訓 悔いのない選択をしましょう

 「告白するのが……怖い……」

「……うん」


 戸惑う俺の言葉に応えるルリちゃんの声は、微かに震えていた。


「ちょっと前まではさ……いつか絶対に告白するって思ってて、キチンと告白さえしたら、確実にホダカはあたしを選んで彼女にしてくれるって疑いもしてなかったんだけど……」

「お、おう……」


 ルリちゃんの言葉を聞いた俺は、(さすがにそれは楽観が過ぎるんじゃあ……)と考えながら、暗闇の中で頬を引き攣らせる。

 そんな俺の内心をよそに、ルリちゃんは「でも……」と言葉を続けた。


「ミクさんに直接会って、本当に優しくていい人なんだっていうのが伝わってきて……ホダカと楽しそうに話してるのを見て、あの人が本当にホダカの事を好きだっていうのを思い知ったり……」


 そこで一旦言葉を切ったルリちゃんは、深く長く息を吸ってから、掠れた声で続きを口にする。


「……ホダカも、ミクさんの事が心の底から好……愛してて、大切にしようとしてるっていうのが分かっちゃって……」

「ルリちゃん……」

「それで……なんか、悟っちゃった」

「……悟った?」


 俺は、ルリちゃんの言葉に思わず首を傾げた。

 そんな俺に、彼女は妙にサバサバした声で応える。


「……『ああ、多分、これから告白しても、ホダカはあたしの事を選んでくれないだろうなぁ』……って」

「ルリちゃん……」


 彼女の言葉に、俺は返す言葉に詰まり、それと同時に理解した。

 ――ああ、ルリちゃんもちゃんと理解(わか)ってるんだ、『キチンと告白さえしたら、確実にホダカはあたしを選んで彼女にしてくれる』という自分の願望が、ただの楽観に過ぎないっていう事を。

 ……そして、その事を悟った今の彼女が、どんな気持ちでいるのかも。

 実体験を経て、その気持ちが嫌というほどに解ってしまう俺は、彼女の事を気遣いながら、恐る恐る口を開いた。


「君は……それで――」

「……迷ってる」


 俺の言葉を途中で遮るように上がったルリちゃんの声には、逡巡の響きが見え隠れしている。


「初めから決めてた通り、ホダカにキチンと想いを伝えるか……それとも……」

「……それとも?」

「……このまま告白しないで、ホダカの“幼馴染”として、今まで通りに付き合っていくか……」


 そう言ったルリちゃんだったが、すぐに慌てた様子で、


「……って、ゴメン! そんな事――告白しないで終わらせるなんてダメだよね!」


 と、言い直した。


「だって……ソータだって、ダメだって分かっていながら、それでもちゃんとミクさんに想いを伝えたんだから……。同じ“恋人が出来た幼馴染を取り戻したい”仲間として、今までさんざんソータに協力してもらってきたあたしが、今更になって『無理そうだから逃げよう』だなんて……そんなのダメに決まってる」


 ルリちゃんは、半ば自分に言い聞かせるように呟く。

 そして、無理してる事が見え見えな声で、俺に向かって言った。


「だから……安心して、ソータ! ちょっと時間がかかるかもしれないけど、あたしも絶対ホダカに告白してみせるから――」

「……ルリちゃん」


 俺は、胸がチクリと痛むのを感じながら、ルリちゃんの声を遮る。

 そして、横になったまま首を左右に振りながら、静かに言った。


「ダメなんかじゃないよ」

「え……?」

「別に、傷つくのを覚悟した告白なんて、しなくてもいいんだよ」

「……!」


 暗闇の中で、ルリちゃんが息を呑んだ気配を感じながら、更に言葉を継ぐ。


「『絶対に自分の想いを相手に伝えなきゃいけない』なんて決まりはないよ。むしろ、そういう想いを胸に秘めたままでいる人の方が多いんじゃないかな?」

「で……でも、ソータは……ミクさんに告白したじゃん……」

「うん……そうだね」


 ルリちゃんの言葉に苦笑いを浮かべながら、俺は小さく頷いた。

 そして、暗闇の向こうにいる彼女に顔を向け、「でも……」と続ける。


「それは、そうするのが俺にとって一番いいって、俺自身が判断したからだよ」

「ソータ自身が……判断……」

「うん」


 小さく頷いた俺は、軽く目を瞑った。

 そして、頭の中で整理した自分の考えを舌に乗せる。


「……俺が知っている自分自身の性格や気性や考え方……そういうものを踏まえた結果、『たとえダメなのが解っていても、ミクにキチンと告白するのが一番いい』って決めたんだ。……まあ、万が一の奇跡が起こる可能性に賭けたのもあるけどね。――その結果、見事に玉と砕けた訳だけど」

「……」

「……それでも、さっきも言ったように、今のところ後悔はしてないし、これからもしないと思う」

「だったら、あたしもホダカに告白するべきじゃ――」

「……でも、それは()()()()だよ。あくまでも、ね」

「……!」


 ルリちゃんがハッとするのを察しながら、俺は更に続けた。


「君と俺は違うからさ。年齢も、性格も、今までの生い立ちも、置かれてる環境も……そもそも性別も、ね。だから、俺が採った結論が、君にとっても正しいものだとは限らないよ」

「それは、そうかもしれないけど……」

「別に、俺と同じ結論を選ぶなって言ってる訳じゃない」


 俺は、なおも言い淀むルリちゃんを諭す。


「どっちでもいいんだよ。藤岡さんに告白する事にしても、しない事にしても。……ただ、その前に、本当にそれが君自身にとって一番納得のいく結論なのかどうかを、自分で考えて決めなきゃいけないって事」

「自分で……考える……」

「だから……俺がどうのとか、俺が告白したからとか……そんなのは考えなくていいし、考える必要も無いんだよ。俺の恋と君の恋は全くの無関係……という訳でもないけど、まあ……別の話だからね」


 そう言って苦笑しながら、俺は「だから――」と続けた。


「藤岡さんに告白するかしないか……時間をかけてじっくり考えて。そして――君が後悔しないって確信できる決断をしてほしい。――それが、一足先に玉砕し(フラれ)戦友(おれ)の願いってヤツだよ」

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