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第百二十六訓 あれこれ思い悩む前に行動しましょう

 「むぅ……」


 リビングで遅い昼食を摂る俺は、お粥をよそった茶碗の傍らに置いたスマホに目を落とし、難しい顔で唸り声を漏らした。


「むぅ……」


 もう一度唸りながら、スプーンで茶碗の中の粥を掬った俺は、左手の指でスマホの側面にある電源ボタンを押す。

 そして、スリープ解除されて明るくなった液晶画面を見下ろし、大きく息を吐いた。


「むぅ……」


 三度唸った俺が見つめているのは、LANEのトーク一覧画面だった。

 ずらりと……と言うほどの量は無いものの、一覧画面に並んだ数個のアカウントは、トークが新しく届いた順に並んでいる。

 一番上にあるのは、さっき開いた一文字のアカウントだ。トーク画面を開いたので、それまでアイコンの横に付いていた新着バッジは既に消えている。

 そして……その一段下の行にある、新着バッジが付いたままのアイコン。

 それは――。


「何を送ってきたんだろ、立花さんは……」


 俺は、仄かな不安を抱きながら、“RULLY(立花さん)”のアイコンにくっついている緑色の新着バッジを見つめた。

 新着バッジには“2”という数字が入っている。それはつまり、立花さんが二件のメッセージを俺に送ってきたという事だ。

 そのうちの一件がスタンプなのは確定だ。なぜなら、一覧の『RULLY』というアカウント名の下に小さく“12:26”という時間と『RULLYさんがスタンプを送信しました』という文言が書かれているからだ。

 ここには、そのトーク画面での最新の履歴が表示される。つまり、今日の十二時二十六分に立花さんが俺に宛ててスタンプを送信したという事だ。

 ……だが、このホーム画面で分かるのはここまでだ。立花さんが、その前のメッセージに何と書いてきたのかは分からない。

 だから、それを確認する為には、RULLY(立花さん)とのトーク画面を開かなければならないのだが……ぶっちゃけ、開けるの怖い。

 十中八九、内容は昨日の件に関しての事だろう。だが、肝心の“昨日の件”を覚えていない以上、メッセージの内容が肯定的(ポジティブ)なものなのか、それとも否定的(ネガティブ)なものなのかの判断がつかない……。

 頼みの綱は、立花さんと一緒にその場に居合わせていたらしい一文字なのだが……さっき俺が送った『あざす』という簡素なお礼のメッセージの返信に、『既読』の文字は未だ付いていない。

 未読スルー……とは考えづらい。あいつの事だ。俺が返信をした事に気付いたら、速攻でトーク画面を開いて、即座にさっきのアレのような超長文メッセージを返してくるに違いない。

 なのに、返信どころか既読すら付いていないという事は、一文字は今、スマホの画面を開けない場所にいるか、スマホから離れた場所にいるかのどちらかだろう……。


「まったく……一文字の野郎、肝心な時には役に立たねえんだから……」


 俺は、この場に居ない一文字へ、多分に八つ当たりが入った文句をぶつけ、大きな溜息を吐いた。

 結局、まず昨日の顛末を知る為には、頭のどこかに残っているはずの記憶を何とか引っ張り出すしか無いらしい。

 ……そう考えて、何とか思い出そうとさっきから一生懸命頭を捻ってはいるのだが、すっぽりと抜け落ちた記憶は全然蘇ってこなかった。

 よく、マンガやドラマや歌の歌詞などで描かれる「飲み過ぎて、その時の記憶が消えてしまう」というシチュエーション。てっきり、あれは完全なフィクションか、実際だとしても、大げさに誇張してるんだと思ってたけど……どうやら、極めて現実に忠実な描写だったらしい……。


 こうなったら、昨日、俺の部屋で何が起こったのかを知るには、三つしか選択肢が無い。

 すなわち―、


 一.一文字が俺の返信に気付くまで待って訊き出す。

 二.立花さんのトーク画面を開いて、彼女に訊く。

 三.ミクから訊き出す。


 の三つだ。

 ……だが、


「三……は、無いな」


 俺は、選択肢の一つを即座に切り捨てた。

 昨日の俺が何をやらかしたのか皆目分からない状況で、そのやらかしたであろう対象に直接訊くのはリスクが大き過ぎる……つか、シンプルに訊くのが怖いし……。

 じゃあ……ここはやはり、一の選択肢が無難か……?

 そう思いかけた俺だったが、


「……いや」


 と、すぐに首を左右に振って考え直した。

 ぶっちゃけ、昨日の事が気になって、今すぐ俺がやらかした事の内容を確認したいという強い欲求が、さっきから胸の中でどんどん大きくなっている。


「結局、二の選択肢しか無いか……」


 そう悟った俺は諦めて、大きな溜息を吐いた。

 そして、茶碗に残ったお粥の残りを全部掬って喉に流し込むと、スマホを手に取る。


「よ、よし……」


 覚悟を決めた俺は、心持ち腕を伸ばして目とスマホの間の距離を開けた。そして、無意識に顔を背けながら、“RULLY”のアイコンを恐る恐るタップする。

 一覧画面から“RULLY”とのトーク画面が開く数秒の間を、俺は不安で胸をざわつかせながら待った。

 そして、ようやく開いたトーク画面を、薄目を開けて覗き込む。


「ええ……と」


 最初に目に入ったのは、コタツの上で丸まった、ちょっと生意気そうな顔をしたネコのキャラに『おつかれニャン』という吹き出しが付いたスタンプだった。


「……なんか、立花さん本人みたいだな」


 ぶすっとした顔のネコのイラストを見た俺は、思わず口元を綻ばせる。

 何となく、同じスタンプでも、出刃包丁を振り回した鬼が『万死に値するぅ!』とか『見敵必殺ッ!』とか叫んでいるような系統の、攻撃力高めなスタンプが貼られていると思っていたので、予想に反したほのぼの系スタンプに、思わずホッと和んだのだ。

 ……だが、


「……え?」


 そのひとつ前に送られていたメッセージに目を移した俺は、思わず当惑の声を上げる。

 立花さんから送られてきたメッセージが、至極簡潔なものだったからだ。

 ――それは、たった四文字。


「ど……『ドンマイ』って、どういう意味……?」

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