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婚約破棄と計画的逃亡及び強奪 14




 逃亡計画発令から十数分が経過。

 混乱する騎士達は対症的にベルスレイアへと戦力を投入する他無く、目的の阻害に注力する余裕は無かった。

 その影響もあったのか。リーゼロッテの尖塔周辺には、ただの一人も戦力が集結していなかった。


ベルスレイアは塔に近づき、スキル『潜影』を発動。塔の影から頂上へと登ってゆく。普段通り、天窓から侵入。

 室内では、リーゼロッテが窓から外を覗いているところだった。


「こんにちは、リズ」

「まあ、ベル!」


 部屋に降り立ったベルスレイアに、リーゼロッテは駆け寄っていく。


「今、向こうの方で凄い魔法が見えたんです!」


 興奮した様子で、リーゼロッテは言う。その魔法に、ベルスレイアは心当たりが有った。


「もしかして、炎と闇の魔法かしら?」

「そうです。ベルも見ましたか?」

「勿論。というか、アレは私が放った魔法よ」

「まあ! さすがベルですね。素敵な魔法でしたよ」


 些細な部分でもベルスレイアを讃えるリーゼロッテ。この反応にベルスレイアは満足する。が、今はそうした感覚に浸っている場合ではない。


「そんなことよりリズ。約束を果たしに来たわ」

「約束、ですか?」

「ええ。ここから連れ出してあげる、って言ったでしょう?」

「それは、本当ですか?」


 リーゼロッテは、驚愕に目を見開く。ベルスレイアは肯定に頷く。


「行きましょう、リズ」

「はいっ!」


 ベルスレイアが手を差し出すと、リーゼロッテはこれを取る。そして――ベルスレイアはリーゼロッテを引き寄せ、抱きしめる。

 そのまま窓を突き破り、地上へと飛び降りる。


「すごいです、お外なんて!」


 陽の光を身に浴びながら、無邪気に喜ぶリーゼロッテ。そんなリーゼロッテを見て、やはり連れ出して良かったと考えるベルスレイア。

 二人は尖塔の下に降り立ち、周囲を見渡す。騎士団は、既にシルフィアとルルによる殲滅が終了していた。数々の死体となった騎士達が転がっている。


「お待ちしておりました、ベル様」

「騎士団の殲滅は終わったよ。後は、面倒そうなのが二人」


 ルルが言って、視線を向けて示す。同じ方向をベルスレイアも向いて、理解する。


 そこには怒りの表情に染まったサティウスと、悲しげな表情を浮かべるミスティが立っていた。

 二人の姿を見て、ベルスレイアはため息を吐く。


「どうして殺さなかったのかしら?」

「言いたいことがあるみたいよ? ベル様に」


 ルルはサティウスとミスティを指差しながら言う。


「私に聞く理由が無いでしょ」

「どうせ殺すなら、あの二人はベル様の手で始末した方が良いかと思ったのですが」


 シルフィアもルルの判断を肯定する。ベルスレイアに、サティウスとミスティに直接手を下すよう促す。

 その言葉を聞いて、改めて考えるベルスレイア。


「そうね……まあ、アレは私の手で処罰する方が、いい気分で終われるでしょうし」


 幾度となく、ベルスレイアの機嫌を損ねる言動を重ねた二人である。ベルスレイア自身が直接裁くのも筋の一つと言えよう。

 それを思い、ベルスレイアは二人の従者の提案を尊重する。


「分かったわ。アレの相手をしてやりましょう」


 そう言って、ベルスレイアはサティウスとミスティの方へと歩み寄る。


「また、何か素敵なことをするんですか?」


 その腕に抱えられたまま、リーゼロッテが無邪気に尋ねる。


「この私の機嫌を損ねた者二人を裁くのよ」

「まあ、それは楽しそうですね」


 どこか壊れた会話を交わす二人。


 そして――二人と二人が対峙した。

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