国境防衛戦 07
ハミィとアンジュの同時攻撃を――少女は、難なく回避する。
実力差、ステータスの格差からくる、暴力的な違い。二人の攻撃は鈍く、白髪の少女を捉えられない。
しかし、かと言って――圧倒的に劣る、という程でも無い。
息をも吐かさぬ連続攻撃により、白髪の少女も攻め手に掛ける状況であった。
「困りましたね。このまま時間を稼がれるのは、本位では無いのですが」
少女は言うと――不意に、指笛を吹く。
規則的なリズムでもって鳴らされた音に。周囲の――幼い少女兵たちが反応する。
「なっ!?」
驚きの声を上げるアンジュ。
それも当然の事。音に反応した少女兵達は――見事な連携を取りながら、アンジュとハミィへと目掛けて集まり攻撃を繰り出し始めたのだから。
しかも。背後から敵に狙われ、多くの兵が損耗していくにも関わらず。誰一人躊躇いなく、アンジュとハミィを狙ってくる。
「くッ……!! アンジュさんっ! これがこの敵達の厄介なところですッ!! 恐怖や常識といったものが存在しませんッ!」
「なるほど……なァッ!!」
ハミィ達が苦戦していた理由を理解するアンジュ。
二人は少女兵の動きに即応し、薙ぎ倒してゆく。
だが――これで白髪の少女が自由となってしまう。
「まずは貴方がた、お二人を始末させていただきます」
言うと。白髪の少女は――棒手裏剣をどこからともなく取り出し、アンジュとハミィを狙って投げる。
「――暗器使いかよッ!?」
アンジュは驚きながら、大剣で身を守る。
通常、暗器使いとは暗殺や諜報に適した職業であることが多い。
だというのに、こうして前線に出てきている白髪の少女。意外性のある相手であり、実際に二人の意表を突いた。
「うっ!」
一本の棒手裏剣を回避しきれず、ハミィが足を負傷する。
当然、ここを白髪の少女は狙って前に出る。
「させるかよッ!!」
咄嗟にハミィを守ろうと、迎撃に出るアンジュ。
「ですよね」
だが、それも白髪の少女の計算の内であった。
最初からアンジュが前に出てくることを想定していた結果――アンジュが完全に構えるより先に、暗器の鉄刺を使った一撃を、懐に入り込みつつ繰り出す。
「くッ!!」
アンジュはこの一撃を喰らい、脇腹を負傷する。
咄嗟に蹴りを放って白髪の少女を追い払う。が、結局アンジュとハミィ、二人共がダメージを受けてしまっていた。
「もう少し違えば、終わりでしたね」
淡々と、感想を述べる白髪の少女。その姿には、圧倒的な余裕があった。
だが――さらに戦況は変化する。
「――野薔薇隊ッ!! 援護する!!」
その掛け声と同時に、戦場に到着したのは――多方面を担当しているはずの、銀華苑の管理官、隊長格であるメル。
それに続き、副官のレイズ。そして他にも複数名の銀華苑の戦力が到着する。
「おや」
白髪の少女は、少しだけ驚いたような表情を浮かべる。
そして動きを止め――睨み合い。
やがて諦めたように口を開く。
「……少々ややこしい事態になってしまったようですし。私は撤退させていただきましょうか」
言うと――白髪の少女は指笛を吹く。
これにより、命令を受けた少女兵達が、近場の敵に向かって無差別に暴れまわる。統率など無い、完全な混戦状態が発生する。
「それでは」
そして。これに乗じて、白髪の少女は撤退してゆく。
「……くそッ!!」
アンジュはその背中を見送りながら、悔しげに地面を蹴りつける。
「アンジュ隊長。今はまだ、敵も暴れています。まずは――」
「ああ、分かってる」
ハミィに言われ、落ち着きを取り戻すアンジュ。周辺で暴れる少女兵の対処に向かう。
既に野薔薇には相応の負傷者も出ており、想定以上の被害を受けている状態である。
敵の指揮官を逃して。想定していた以上の数の騎士も逃して。さらに被害の拡大まで許したとあっては、面目が立たない。
「敗戦処理といくか」
苦い感情を押し込みながら。アンジュは少女兵の制圧に乗り出した。
この後――シルフィアとアレスローザの到着により、少女兵は完全に鎮圧されることとなる。
だが、無視できない被害を受けたこと。そして聖王国の騎士を数多く取り逃したこと。この二つの事実だけは、挽回しようの無い失敗となった。




