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二十八話 因縁深い二人の結末

 リリィは死んでもいいと思っている。

 むしろ、それこそが本望だといった体だ。

 カラールは、炎に包まれた地下で、黙ってかつて敵だった少女を見つめた。

 待ち望んでいた結末を受け入れようとしている彼女に対し、こみ上げてきたのは苛立ちだ。


「……お前はまたそうやって……僕を裏切るのか?」

「…………裏切る?」

「――僕は言ったはずだ。……生きて、僕を幸せにしろって。……あの時、お前はなんて答えた?」


 ゆるゆると、リリィの瞳が見開かれる。


「――この、大嘘つきの、裏切り者が……!」


 感情のまま吐き捨てて、カラールはリリィに腕を伸ばす。

 呆然としている少女を、そのまま抱きしめた。


「か、カラール?」

「誰が殺してなんてやるもんか。死なせてなんかやるもんか。……お前は、僕を裏切った報いを受けろ。僕のそばで、僕の気の済むまで、生かし続けてやる……!」

「…………っだ、だめだよ。だって、カラール、お仕事なんでしょう? わたしの事も、ちゃんと、壊さないと……あのちびっこに、怒られちゃうでしょう?」

「うるさい。僕はお前の指図なんて受けない」


 自分を裏切った女なんて知らない。 

 生きろといって、是と答えたくせに、あっさり反故にするような奴の話なんて、聞く耳持つものか。

 カラールはリリィを抱きしめながら、言う。


「任務を果たせない僕は、魔王様の元へ戻れない。お前は、帰る場所もないまま、延々と僕に引っ張り回され続けるんだ」


 戻れないなら、各地を転々とするしかない。

 リリィを殺せないカラールは、逃げ続けるしかない。

 グラマツェーヌにも顔向けできない行為だが……――。


「そうさせたのは、お前だ。……報いを受けろ」

「…………ごめんなさい」


 目が合うと、リリィはくしゃりと顔をゆがめた。

 紫の目からは、とうとう涙があふれ出る。


「今更謝ったって、許すもんか」

「違う……違うの……だって、わたし……嬉しくて……」

「……何?」

「カラールと二人きりでいられるなんて、嬉しくて……。帰れなくなったのは、わたしのせいなのに、こんなに嬉しくて……。だから、ごめんなさい……!」


 幸せすぎて、ごめんなさい。

 そう言って泣きじゃくるリリィに、カラールは眉を下げた。


「……今のどこに、うれし泣きする要素があったんだ」

「全部っ……!」

「……相変わらず、訳の分からない奴だ……」


 ため息を吐きつつも、カラールは抱きしめる腕に力を込めた。

 ――炎の中、悪趣味な研究室で、その上死体が転がっていて、惚れた女は血まみれ。

 自分の口からついて出た言葉も、最低で最悪だ。

 それなのに、泣くほどうれしがる少女は、全くもって意味不明。


 だが、それを悪くないと思っている自分に、カラールは気が付いていた。


(……僕も、大分毒されたか……)


 ――それでもいいと思った。

 これでいいと思った。


 どうしようもなく愚かな自分と、どうしようもなく歪んでいるリリィ。

 そんな自分たちには、こんな結末が似合いだ。

 カラールは、少女を腕に抱きながら、小さく笑った。

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