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花咲侠者 6

「あっ。この前のイイトコの子じゃん。よく来たね、歓迎するよ!」


 暇な平日を見繕って再びヘリオパスル教会へと赴いた俺を出迎えてくれたのは、土で汚れた前掛けをした快活な少女と、トーガ姿のシスターの姉妹だった。


 確か少女がシーリィ、姉の方がセレスと言ったはずだ。


「こらシーリィ、お客人に失礼でしょう。フェリオ神父に怒られますよ――申し訳ありません、こちらの者がご無礼を」


「それは構いませんが――イイトコの子?」


い所の子。金持ちの息子って意味。私とそう変わらないぐらいの歳に見えるのに、もうお妾さんを囲っちゃうなんてやるじゃない!」


「ああ、そういう意味か」


 俺は苦笑する。肉体年齢が特典で若返っている俺は、十二、三歳ぐらいの外見に見える。そんな歳で嫁を一人作り、大金をぽんと寄付する少年――確かに資産家のボンボンだと思われても仕方ない。


「そういえば、フヒトさんが死んだって話、マジなの? 確か、キミが知らせてくれたんだよね――ええと、名前なんだっけ?」


「キョーシャ・ハナザキ。キョーシャでいいよ」 

 

 転生についてはぼかしながら、フヒト氏が死んだことはほぼ間違いないであろうことを伝えると、少女は落胆の表情を作った。


「ちぇ、せっかくの金蔓が」


 ずいぶん率直な表現である。教会で聞くにしては生々しい台詞であった。


「シーリィ、あなた何てこと言うの!? 死者を辱めるのはやめなさい!」


「はいはい、すいませんでしたっと」


 たしなめるを通り越して本気で怒っている口調になったが、そんな姉の叱責もどこ吹く風の妹である。

 

「前回連れてきたお妾さん、今日はいないんだね――ちょうどいい、ちょっとこっちへ。姉さんは来ないでね、もし来たらこの人連れて全力で逃げるから」


 歳は変わらないとはいえ、さすがにこの少女より俺の方が身長が高い。

 そんな俺の肩を抱え込み、強引に教会の敷地外へと引っ張っていく彼女である。


「さて、説明も二度目になると面倒だし、さっくりと言ってしまおう」


「ほうほう」


 もちろん腕力で抵抗しようと思えば今からでも彼女を振り切って教会に戻れるが、俺はというと、少女に半ば拉致されるというこの非日常な経験をちょっと楽しんでいた。


 通路の角からひょいと顔を出し、姉が追いかけてきていないか確認しつつ少女は用件を告げた。 


「教会の経営がヤバい。囲ってくれるご主人様募集中」


「あっはっはっはっは」


 素直に俺は笑った。そこそこ過激な内容をドヤ顔の少女から端的に説明されるという、この摩訶不思議な状況もそうであるし、ムームーに続いて早くも二人目の女性との縁ができそうになっている点も笑いの一要素である。

 

「む、何よ、本気なんだからね。なんかこう、油ぎったおじさんじゃなくて歳が近い子にこんなことを頼むこっちも変な気持ちなんだから、笑わないでよ」


「さて、どうしたものか――」


「焦らすことないでしょ。悩むことでもないわ、男はみんなケダモノだって言うじゃない。さ、すぱっと囲っちゃいなさいよ」


 また零れそうになる笑みを気合で押し殺す。


 もちろん囲うかどうかを悩んでいるのではなく、どう断ればこの少女が傷付かないかを考えているのだ。


 見たところ、歳は十一、十二といったところであろう。土汚れたエプロンをしていることからもわかるように、袖の短い肩口から覗く腕や顔は小麦色に日焼けして健康的ではあるのだが、いかんせん色気はまだない。


 それもそのはずで、黒みの強い茶髪の後ろをばっさりと刈りあげているところは姉と同じであるものの、まだ若いために髪の量が足りておらず、姉をショートヘアと呼ぶならば妹は角刈りと表現せざるを得ない。

 身体もまだ丸みが足りず、第二次性徴が始まっているかどうかも疑わしい。この子に欲情する男がいればロリコンの烙印を免れ得ないであろう。


 さすがに幼すぎて守備範囲外ではあるのだが、俺自身が特典でほぼ同年代に見えるというこの状況は、「君はまだ若すぎる」という当たり前の拒否理由を潰してしまうので、この際とても困る。


「ええと、俺は年上が好きなもんで」


 結局、ぶっちゃけた理由でお断りすることにした。理由を考えるのが面倒になったのである。大丈夫、俺の見た目も子供だ。返し方に気が利いていなくても許されるだろう。


「ん、姉さんの方がいいの? 姉さんはまだ説得してないし、それに事情を説明してもわかってくれない気がするなあ。ちゃんと責任持って最後まで面倒見てくれるなら、人けのないとこに連れ出したり、飲み物に薬盛ったりするぐらいはするから、それでお金貰えないかな?」


「すごいね君。躊躇なく姉を売ろうとしたね」


 キョーシャ君びっくりである。


「それだけこっちも必死なんだから。お金持ってて、財布の紐が緩そうで、そんでもって女の子にそんなひどい扱いしなさそうな人、滅多にいないもの。フヒトさんを狙ってたんだけど、なんか死んじゃったらしいし」


 予定が狂ったわ、と言わんばかりにむっすりするシーリィである。


「それに、多分だけど――近々、うちの教会に入りたいって言ってくる子、増える気がするんだ」


「どういうこと?」


「どうもこうもないよ、あの貴族(・・・・)のせいだ。金に目が眩んだ貴族がこっち――庶民の稼業に足踏み入れてきたせいで、仕事を奪われた大人が増えてるんだよ。暗黒龍シンの災いあれだ、コンスタンティ家め!」


 俺は驚いた。


 呪詛を吐き捨てながら怒るシーリィの剣幕にも驚いたが――彼女の口から、コンスタンティ家という単語が出てきたからだ。


 そこは、ヤハウェ君の実家である。


「――まあ、君に言っても仕方ないことか。あの揚げ鳥(チキン)売りのことなんて」


 彼女の言葉の続きに、俺は自分の不明さを恥じた。

 恨まれているのは、コンスタンティ家ではない。ヤハウェ君()恨まれているのだ。


(そりゃ、考えてみたら、そうか――)


 煮炊き用のかまどを家の中に持っていない人々は、多い。

 だからこそ、外食産業は市場規模としては大きく、そこに従事して日々の糧を得ている大人も多いだろう。

 そこに、フライドチキンのチェーン店が黒船さながらに現れて、市場の利益を掃除機のように吸い上げている。

  

 結果として、小さな屋台や店の主が、客が減って黒字を維持できなくなり――商売が成り立たなくなっているのだろう。


 ムームーを例に挙げるまでもなく、この世界の人々は、貧しい。貯蓄がなく、日々の糧を得るにも精一杯だという人も多い。そんな家庭が職を奪われたらどうなるか――当然の帰結として孤児が増え、教会を頼らざるを得なくなる。


(そこまで、この子は考えてたのか!)


 弱肉強食、市場競争の原理と言ってしまえばそれまでだが――俺はそのヤハウェ君の知己である。

 次の会合のときにでも、彼に何かしらのアドバイスをすべきかもしれなかった。


「なので、教会の先行きはすごく暗いんだよね。最近また家族が増えたんだけど――アリアって子ね、今度紹介するよ――一人増えたのとは比べ物にならないぐらい、そのうち行き場のない人で溢れてくると思う。多分ね、ちょっとやそっとの稼ぎじゃ、追いつかなくなってくると思うんだ。だからこそ、フヒトさんには期待してたんだけど、死んじゃったって言うし」


 内心で、俺は少女への評価を改めた。 

 彼女は、現状をとても正確に把握し、そして将来的な展望まで予測した上で、まとまった金を欲しがっているのだ。なんと頭の良い子だろうか。


「そこに現れた第二の優良物件、そうキョーシャ君、キミだ。これを逃したら次いついい後援者パトロンに巡り合えるかわからないもんね!」


 ばしんと俺の両肩をつかみ、逃がさないぞと言わんばかりに詰め寄ってくるシーリィであった。顔が近い。


 異性への距離感が近すぎるあたり、やはり男を知らない子供なのだ。

 そんな子が、身売りをしようという話を、ここまで必死に持ちかけてきていると思うと、妙に俺は悲しくなった。


「一つ、質問があるんだけど。なんでそこまでして、教会の経営を気にするんだい? 多分だけど、君一人だけでいいなら、普通に働くだけでも食べていくことぐらいはできるよね?」


 この少女は快活で、表情が明るい。人に好かれる性格の典型だ。

 その上に、会話の端々からも感じ取れるように、頭の回転が早いようだ。


(日本にも、貧富の差はあったけれど)


 最低限度の生活という点で比べてしまうと、食うに困る子供たちが溢れているこの世界は、やはり貧しい。法のあたたかな手が飢餓から掬い上げてくれる日本とは違い、この世界での底辺とは、つまり奴隷なのだ。

 どうしても食っていけなくなり、身売りをして衣食住を確保するのが、いわば生活保護としての最後の手段なのだろう。


(しかし、だ)


 この子は、人として強い。生命力が強いと言い換えてもいい。


 どこに行っても食っていけるだろう、と思わせる人がしばしばいる。このシーリィという少女はその典型だ。ちなみにだが、俺もそのタイプの人種である。得意の舌先三寸と空気を読む(エアリーディング)能力でどんな修羅場だろうと乗り越えてきたのだ。


「そんなの簡単よ。教会のみんなは、家族だもの」


 何一つ天に恥じることはない、と言わんばかりに彼女は平たい胸を張った。


「セレス姉さんだけじゃなくて、教会のみんながそうって意味。フェリオ神父や、他の子供たちだってそうよ。最近新しく入ったアリアって子もそうね。私の肉親はセレス姉さんしかもう生き残ってないけど、血の繋がりはなくても教会のみんなは家族なの。こう見えてうちじゃ私は古株だから、いわばみんなのお姉さんなの」


 思わず口角が上がってくる。

 中学生にもなっていないような少女が大人ぶるのが可笑しかったわけではない。

 自分以外の誰かのために頑張ろうという姿勢に、素直に好感を覚えただけだ。


「そんなお姉さんの私が、みんなのために一肌脱ぐのは当たり前のことなのだ。私ね、神父や姉さんが常々言ってくる、慎みとか作法とか神に仕えることとはーとか、そんな小難しい理屈は好きじゃないの。でもね、汝の隣人を愛しなさい、って言葉は好きなの。要はみんな助け合って生きていきましょうってことでしょ? あの教会を離れて一人寂しく食い繋いでいくより、頑張ってみんなと畑を耕したほうが絶対楽しく暮らせるもの」


 物理的に一肌脱いで解決しようとしていたのは年長者として眉をひそめざるを得ないが、彼女の志には大いに共感するところがある。やはり、人間は賑やかな家族で暮らすことが何よりだ。


 そんな彼女が守ろうとしている家族ならば、手助けするのもやぶさかではない。その輪にムームーが加われたならば、それは素晴らしいことだろうから。


「まあ、今日はその用件のことで来たんだけどね。神父と話があるんだけど、中にいる?」


「いるけど――どういうこと?」


 怪訝そうな顔をする彼女に、まあ俺に任せておけと見栄を切る。


「本当に教会の経営をどうにかしたいんだったら、一時凌ぎだけじゃなく、根本的な解決をってね」









「これは、神徒キョーシャ――よくお出でになりました。本日のご用件は?」


「すぐにでも話し始めたいところですが、その前に茶を一杯頂けますか? できれば綺麗なお姉さんのセレスさんが淹れてくれると嬉しいなあ」


 別に、茶が飲みたくて頼んだわけではない。前回飲んだから知っているが、この教会の茶は、色の付いた湯である。


 恐らくは、茶葉を買う金がないせいで、ごくわずかな量の葉を、何度も湯にくぐらせて使っているのだ。香りすらほとんどしない、淡い色の付いた湯である。


 そんな茶をわざわざ要求した理由は、他でもない、姉のセレスだけをこの場から離したかったからだ。


「はあ――わかりました。シスターセレス、お願いします」


 フェリオ神父も、怪訝そうな顔をしながらも、俺の言う通りにしてくれた。

 シーリィも揃って茶を淹れに行こうとしたので、彼女だけは呼び留める。


「あ、ちょっとシーリィは残ってくれる? 話があるから」


「おっ。いいよいいよ?」


 喜色を浮かべながら戻ってくるシーリィである。恐らく、先ほどの身売り話を俺が神父に切り出すとでも思っているのだろう。残念、逆である。 


「単刀直入に言います。この教会の経営状況を改善させるお手伝いを、させて頂きたい」


 姉のセレスが去ってしまい、俺と神父、そしてシーリィの三人だけになったのを確認してから俺は切り出した。すでに口調はビジネスモードに切り替えている。


「経営状況、ですか」


 突然俺から切り出されて、神父は困惑顔である。

 しかし、俺は彼に対しては仮面を脱ぎ捨てるつもりでいる。そろそろ彼も現実を見るべきであろう。


「なぜ私がこんなことを言い出すかというと、先日もお話しした通り――ムームーを、この教会の一員に加えたいからです。しかし、率直に言わせて頂いて、この教会はいつ潰れてもおかしくない」


「確かに、資金繰りは火の車ではあります。しかし、どうしてそれをご存知なのでしょう? お客人にそれを気取られてしまうほど、もてなしがなっていませんでしたか?」


「シーリィから、身売りをしたいと申し出を受けました。教会の運営資金に充てたいそうです。ちなみに、私だけではなく、先日話題に上ったフヒト氏にもこの話を持ちかけていたようです」


 それぞれ別の理由で、フェリオ神父とシーリィは驚きで目を見開いた。

 前者は子供たちにそこまで思いつめさせていたこと、後者は身売り話をチクられたからだろう。


「神父、あなたは善人だ。しかし、経営者というのはそうであってはなりません。

清貧が美徳となるのは、自分が他人の責任を背負っていないときだけに限ります。

他人を疑わない人格は素晴らしいことです。だがそれ故に、あなたは子供たちの嘘を見抜けていない」


 司祭としては、彼は正しく、そして理想の姿なのだろう。

 私欲を捨て、他者に優しく、神の教えを守ろうと清貧に過ごす。


 だが――それが美徳であるのは、金の力に守られているうちだけだ。


「あえて厳しいことを言わせて頂きます。あなたの清廉さが、子供たちに負担を強いている。あなたの懐具合を推し量った子供たちに身売りを考えさせるなど言語道断です」


 何か口を挟もうとしてきたシーリィを、目力めぢからで黙らせる。

 

 フェリオ神父はというと、これだけ好き放題言われたというのに、怒るでもなく――むしろ、顔面を蒼白にさせて、わなわなと震えていた。

 無意識のうちになのか、胸元に掲げた七角形のペンダントを両手で握り締める。


「お待たせ致しました。お茶が入り――」


 ぱたぱたと軽やかな足音を立てて戻ってきたセレスは、場の状況を見て足を止めた。雰囲気が重苦しいことに気づいたのだろう。


「ありがと、綺麗なお姉さん。僕じゃなくて、神父に差し上げてくれるかな――フェリオ神父、ちょっと一息入れてください」


 額に浮かんだ汗を手の甲で拭いつつ、俺に言われるがまま、フェリオ神父は茶の器に手をつけた。


 最初にがつんと言っておいてから、緊張を緩めさせ、ちょっと優しい言葉で改善案を出す。セールスの基本話術の一つである。


「このままでは良くないというのは、わかって頂けましたか、神父?」


「ええ、ええ――本当に。まさか、子供たちにそこまで苦労をかけていたとは。私は、罪深い男です」


「神父、これを」


 俺は懐から布の小袋を取り出し、神父の前に置いた。

 中には、端数を抜いた俺のほぼ全財産である2,000,000ゴルドが金貨で入っている。日本円の価値に直して四百万。砂漠に降る大雨のように感じることだろう。


「これは?」


「保証金です。私がこの教会を騙したり、利用したりしないという証です。神父に預けますので、私の行動によって何らかの損を受けたなら、これを好きに使って頂いて構いません」


「これほどの大金を――」


「必要な金です。なぜかを説明します。私はこれから、教会の収入や支出を調べさせて頂き、なんとか教会が黒字になって単体で食っていけるように手段を考えるつもりです。できれば子供たちは働かせたくはないですが、おそらくそうは言ってられないでしょう――なので、今までとは違う仕事を子供たちにさせる可能性が出てきます」


 はい、はいとフェリオ神父は従順に頷いている。

 

「私は、子供たちを危険な仕事、あるいは悪辣な仕事――それこそ身売りとかですね――をさせるつもりはありません。それを信じて頂くための、保証金です。どれだけ子供たちを騙してひどい仕事をさせようと、恐らくこれ以上の額を稼ぐのは難しいでしょうから」


 シーリィ、いくらぐらいで売るつもりだった?と俺は問うた。

 もちろん身売りした報酬のことだが、姉の前なので、何を、とは言わない。 


「最低200,000ゴルドから、あとは交渉でどれだけ上乗せできるかだと思ってた」


 安いな、この世界の奴隷。

 労働力になりにくい女性だからか、それとも子供だからなのか。


「というわけで、全面的に私のことを信頼し、言うことに従ってもらうための保証金です。いつでも神父はこの金を自分のものにして、私を追い出していいのです。もちろん、子供たちがどこでどういう仕事をしているかは逐一見に来て頂いていいですし、働くかどうかも子供たちの意思を尊重します」


 神父は目を泳がせながら、何かを考え込んでいる。

 金欲に負けた目ではないので、俺の言うことに何かしらの罠がないかどうか、言い換えれば子供たちに害がないかどうか、必死に考えようとしているのだろう。

 経営者としては進歩であると言える。


 ここで保証金の大金が物を言う。

 俺が相手を裏切らないという意思表示である。


「一つだけ、よろしいですか? なぜそこまで、私たちにして頂けるのです?」


「最初に言ったじゃないですか」 

 

 俺は笑ってみせた。もう、相手を安心させていい段階である。


「私は、近々命を落とすかもしれません。それこそ、フヒト氏のようにね。なので、ムームーの家族を作っておきたいんですよ。私の提案がうまくいき、日々の生活が今より良くなったらで構いません。特別扱いはしなくていいので、ムームーを受け入れて頂きたいんですよ」


「そんなことでしたら、今のままでも構いませんのに」


「経営状況が思わしくないところに一人追加でねじ込むなんて真似、できませんよ。それにね神父。例え寄付で大金があったところで、使うだけだったらいずれ底を尽きます。減らないように稼ぐのが大事なんですよ」


 それとシーリィ、と俺は彼女の方に向き直った。

 突然矛先が向いたので、びくりとする彼女である。


「嫁にした経緯はあんまり違わないけど――ムームーは、お妾さんじゃなく、ちゃんとした正妻だ。次からはちゃんと、俺の伴侶として扱ってくれよ?」


 びしりと挙手をし、勢いよくはい!と返事をするシーリィである。

 む、何やら俺への態度が先ほどまでと違う。ちょっと薬が効きすぎてしまっただろうか。

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