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関兵太 生前

 関兵太は、普通の大学生であった。享年は二十一歳、大学三年生のときである。


 彼を一言で表現するなら、「普通」であった。

 

 進学校でもない普通の中学高校を卒業し、浪人もせずに大学に入学する。

 彼の通った大学は、偏差値のさほど高くない、人数だけは多い二流の大学であった。要は、普通の大学である。


 彼はそこで、何一つ不満のない順風満帆な大学生活とまでは言わないまでも、いくらかの友人を作り、少しずつ合コンにも慣れてきて、自由な時間の多い学生生活を楽しんでいた。


 刻一刻と近づいてくる就職期、つまり猶予期間モラトリアムの終了まで一年少々しかないという状況は彼を落ち込ませる理由として十分なものであったが、だからこそ今のうちに遊んでおけとばかり、青春時代の最後の残り火であるキャンパスライフを謳歌していたのだった。


 この普通の大学生という種族は、意外と少ない。


 もちろん日本人の持つ人生観としては、普通の人生とはと問われれば彼のような人生を想像しがちであるし、未だに日本人の多くが歩む最も太いレールであることは間違いないのだが、中学高校で落伍せず、非行に走らず、あるいは自分の歩みたい別の道を見つけてそちらへと逸れていくこともしない普通の学生というのは、意外なことに当初の数から比べるとかなり減ってしまうものであるのだ。


 院生に進むでもなく、中退して就職するでもなく、留年して奨学金の返済方法に唸ることもなく、何となく日々を過ごしていると、彼のような人生になる。もちろん、悪い意味ではないが。


 自由な時間を使ってバイトをして金を稼ぎ、単位のためにほどほどに学業に励み、彼女欲しいななどと思いながら友人たちと遊ぶ。同期や先輩や後輩に色々な奴がいて視野が広がり、社会というものに少しずつ近づいていく。大学生とはそんな期間であり、そんなどこにでもいるような大学生が彼であった。

 

 彼の死に方もまた、普通であった。交通事故である。


 アルバイトの帰り道に原付を走らせていた彼は、真冬で凍結しかけていた道路でスリップした対向車に撥ねられた。即死であった。

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