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花咲侠者 4

「あっはっはっはっはっはっは。ショタぶるのは面白いなあ」


 巨大なベッドの上で笑い転げる俺を見て、ムームーがぐっと親指を突きたてた。サムズアップである。


「さすがご主人様です。私もすっかり騙されましたからね」


 先ほど、ヤハウェ君とソアラ嬢を交えた三者会談を終えて来たばかりである。

 三日に一度の定例となった会合は、まだ発足したばかりということでホットな話題が多く、

ヤハウェ君の屋敷で開催されたそれは実に有意義な時間だった。


 ショタぶると俺が言ったのは、自分の口調のことである。


 年齢退化の特典を選んだ俺は、肉体年齢と外見は十二歳であるが、前世は三十四歳のおっさんである。

 別に三十四歳ということを隠すつもりはなく、頃合を見て言い出そうかなとも当初は考えたのだが、

先輩ぶってリーダーシップを取るべく頑張っているヤハウェ君が微笑ましかったので、

ちょっとしたイタズラ心で見た目相応の振る舞いをしてみたのだ。


「性格が悪いと我ながら思うんだけどね。言い出すきっかけ、なくしちゃったからなあ」


 ムームーには実年齢を教えてあるが、定例会のメンバーには何となく言い出すきっかけがなく、

年齢詐称をしたまま今日に至っているのだ。


 深く考えてショタっぽく振舞ったわけではなく、「その方が面白いんじゃね?」ぐらいの軽い気持ちからであったが、

ジョークで済ませられるほど短い期間の嘘でもなくなってしまったし、よくよく考えたら気を許しあえる関係でもないので、

それはそれでいいかと思っている。年少ということで油断を誘えるかもしれないし、心の壁を作られにくくはなるだろう。


 瓢箪から駒というか、ジョークのつもりが大掛かりな嘘になってしまったが、致し方あるまい。

いくら仲が良くても、一線を引かなければならない間柄というのは社会に出ると往々にしてあるのだ。

特に彼らに対しては、裏切りを警戒しなければならない。


「因果な商売だよ、カケラロイヤルってのは」


 ヤハウェ君とソアラ嬢のどちらかが腹に一物隠しもっていて俺を騙そうとしているかどうか、

俺は全く疑っていない。ヤハウェ君はまず大丈夫として、ソアラ嬢も恐らく大丈夫だろう。


 前者は、将来的にリーダーシップを取ってカケラロイヤルを勝ち抜きたいという魂胆が透けすぎているので

警戒の必要はない。本人が実際にその通り申告してもいるので、善性の人物である。


 後者も、恐らくは大丈夫だ。恐らくはと言ったのは、女性を侮ってはいけないという観念が俺に染み付いているせいだ。

女性は時として、凄まじく冷酷かつ怜悧になる生き物だということを、俺は知っている。


(疑ってはいないんだ。疑ってはいなんだけど――)


 しかし、彼らに対して裏切られてもいいやとばかりに気を許すつもりはない。

 一言でいってしまえば、リスクマネジメントである。

 

 基本的に、このカケラロイヤルという競争には命が懸かっている。

 俺が死ぬと、ムームーが路頭に迷う。

 

 隠し事のない友情なんてものが成立するのは、利益が絡まないうちだけである。

今回の場合、万が一裏切られた場合、俺だけでなく家族にまで悪影響が出るので、彼らには悪いが気を許せない。


(ソアラ嬢に対しては、気を抜かないようにしておくか)


 間違いなく彼女は、善人だ。

 会話の端々から、心根の明るさが伝わってくる。

 厳しく踏まれた麦がそれでも力強く育つような、逆境に耐えてきた人々特有の強さが彼女にはあった。


(それがおかしいといえばおかしいからね)


 彼女は十四歳だと言っていた。


 あの年齢でそんな境地に達している若人がいることは、素直に驚きであった。

 恐らくは前世で何かしらの苦労をしたのだろうが、まだそこまで内面に踏み込んだ話ができる仲でもない。

一から十まで完全に読みきれるヤハウェ君と違って、彼女が内心に何かを隠していた場合、俺では看破できないだろう。


 ちなみに、俺と同じように年齢を詐称している可能性だけはないと言い切れる。


(伊達にハーレムマスターじゃないぜ)


 俺は女性の顔を一目見れば、男性関係がどうなっているかはすぐにわかる。


 処女かどうか、男慣れしているかどうか、いま男がいるかどうか、片思いしている相手がいるかどうか、

最近の生活において性的に満足しているかどうか、このあたりは一瞬でわかる。二言三言会話できれば、

身なりや仕種から大まかな性格や好みの男性の傾向までわかる。


 なお、俺の看破精度は他人より高い方だと自負しているが、そこそこ女性と接したことのある男性ならば、

似たようなことは誰でも出来る。相手の女がつがいかどうか嗅ぎ分けるのは雄としての本能だ。


 その本能が、彼女が年齢の詐称をしていないと告げている。ならば、そこに嘘はない。

自分のセンサーに、俺は絶対の自信を持っている。


「む。ご主人様、他の女のことを考えていますね?」


 寝巻き――というか、下着姿のムームーが、俺にジト目をよこす。

 この世界の下着は、履くタイプのいわゆるパンツではなく、布を巻きつけるだけのシンプルなものだ。

ブラも同様に、布を巻くだけである。よくそれで胸が垂れてこないものだと思うが、

ムームー曰く「いい巻き方があるんですよ」とのことである。


 巻き方を工夫しただけで胸を潰さず、しっかりと支えることができるのか疑問に思うが、

それなりに大きいムームーの胸は確かに見事な形状を保っていた。とりあえず偉い偉いと撫でておく。胸を。


「確かにまあその通りだが、色気のある話じゃないよ」


 俺は苦笑で返す。

 なお、ムームーとしても本気で嫉妬しているわけではない。俺のハーレム願望については元々伝えてあるし、

そもそも娼婦のような出身であることを若干気にしてもいるので、仮に俺が新しく女を作ったところで

上手くやっていこうと彼女は努力するだろう。


 要するにじゃれ合いであり、そんな軽口を叩けるまでに気を許してくれていることを喜ぼうではないか。


(まあ、アレが効きすぎたせいもあるんだろうけどね)


 俺が見事彼女を口説き落とした翌日の晩。

 いわゆる初夜であり、要するに彼女と初めてヤる段階になって、彼女は張り切っていた。


「ムームーの技術、見せちゃいますよー。これでご主人様も私に骨抜きです」


 などとドヤ顔を決めて攻めてきたので、圧倒的な実力差で返り討ちにした。

 本当はもう少し穏やかに、ムードを大事にしてイチャつくだけに留めておこうと思ったのだが、

そのように挑まれてしまっては性豪として捨ておけぬ。


(そもそも、今の俺って完全体だしなあ)


 まず、前世の俺は三十四歳だった。そして、交際中も含めて九人の恋人がいた。

彼女たちを満足させるのは大変である。


 若いころと違い、三十も半ばになると精力は落ちる。具体的には勃ちにくくなる。

連射が効いていた若年の頃と違い、チャージまでに時間がかかってくるのだ。


 彼女たち全員と豊かな性生活を送るために、俺はそれなりに努力をしていたのだ。


 まず、ローテーションを組む。たまに一晩で複数を相手にすることもあるが、

基本的には女性は一対一でされたい生き物である。よって毎日一人ずつ相手をする。

相手によっては一晩で二、三回することもあるので、精力の強化は必須である。

 

(メシにまで気を使ってたんだよな、あの頃は) 


 亜鉛を多く含む食品――牡蠣や牛肉、あるいは山芋などの滋養のある食べ物は食卓に欠かせなかった。

キツいときはサプリメントまで使って頑張っていたのだ。

 

(んで、今はというと――)


 まず、肉体が若返っている。十二歳の肉体の精力は、それだけでほとんど底なしだ。

あまりの絶倫さに、「ああ、若いころはそういやこんなだったなあ」と感傷に浸ってしまったぐらいだ。


 さらに、特典で俺は精力強化を取ってしまっている。

 元々はこの世界でもハーレムを作ろうと意気込んでいたので取得した特典であり、

そんなにがっついていない今となっては無用の特典となってしまったが、

若い肉体と精力強化が合わさってしまうとどうなるかというと――


(フルチャージ状態で、永遠にヤっていられるわけだ)


 たまに絶頂を迎えはしても、すぐにリチャージされる。

 それに加え、自分の持ち物だけに頼らない超絶技巧をマスターしている俺は、まさに完全体だ。


 そんな俺に対して、無謀にも挑んできたムームーがどうなったかというと――

まあ、詳細を語るのは野暮であろう。あえなく撃沈、返り討ちになって寝室内での序列が

はっきりしてしまったというわけだ。


 もっとマイルドにやろうと思っていたのに、無謀な挑発をするからである。口は災いの元なのだ。


 あれ以降、ムームーは心底から俺に懐いたように見える。

 快感に負けたとかそういうアホな理由ではなく、純粋に俺という存在に感服したようだ。

得意分野で負けたからなのだろうか、裏表なく俺の嫁だということを納得したらしい。

なんというか、不良同士がタイマンを張り、負けた方が勝った方を認めるというか、そんなノリだ。


「転生者同士の会合でね。女の子の思考は読みにくいからなあって話」


「例の、異世界から来た敵になるかもしれない方達のことですね。会合で会う女性というと、

ソアラさんて娘でしたっけ?」


 彼女には、すべて話してある。生前のことも、転生者のことも、カケラロイヤルのことも。


「そうそう。まず問題ないと思うんだけど、女性の言うことを鵜呑みにすると

痛い目見るからなあって話」


「ご主人様なら最悪、ベッドの中で躾けちゃえばいいんですよ。私みたいに」


「おいおい」


 苦笑しつつ、俺はムームーの衣服を剥ぎ取っていく。布を巻きつける下着という性質上、

お代官様の帯くるくるプレイが毎回楽しめるのは良いことだ。 


「結構真面目に言ってますよ? 話を聞く限りだと、他の転生者よりご主人様が圧倒的に優れてるとこ、

夜のテクニックぐらいじゃないですか? 武器は使わないと損ですよ」


「まあ、違いない」


 魔物を狩りに出てはいるが、あくまでたまに、である。全転生者の中でも、俺はレベルの低い方であろう。


 俺が他の転生者より劣っているところがあるとすれば、それは取得した特典や能力の問題ではなく、

俺自身の熱意だ。


 そもそも、カケラロイヤルを真面目に勝ち抜こうとするのであれば、他のすべてを捨てなければならない。

一心不乱にレベル上げをし、出会った転生者に対しては即座に第二の人生からご退場願うべく襲いかかる。


 それぐらいしないと、恐らくは勝ち抜くことはできないだろう。

 今の俺のように、マイホームを手に入れて嫁とイチャつく時間など取る暇はないはずだ。


 慈善事業でもしつつ女作るか、ぐらいの軽い気持ちで生きている俺がカケラロイヤルを勝ち抜くことはないだろう。


「前も言ったと思うけど。ムームー、突然俺がいなくなったらごめんね?」


 彼女の身体を撫でつつ、俺は詫びた。


 強大な力を持つ転生者と出会った場合、俺はすぐさまカケラを渡して降伏するつもりでいる。


 しかしその後、あるいは出会うまでの過程で命を奪われないとも限らないし、

カケラロイヤルの勝利者の願い事が俺たちの身に危害が及ばないものであるという保証はどこにもない。


「ヤです」


「あひん」


 情けない声を出したのは俺である。ナニをきゅっとされたら誰だってこうなる。

 

「私、ご主人様のことが好きになりました。だから死なないでください」


 俺の顔を見つめながら告白してくるムームーに、俺の股間は熱くなる。


「いいじゃないですか。そのソアラって娘だって誰だって私みたいにコマして生き延びましょう。

ご主人様ならできますよ」


「初めての子を仕込むのは、骨が折れるんだけどなあ」


 この世界に来て一人目の嫁からベッドヤクザを推奨されていることに、俺は苦笑する。


「でもまあ、人間死ぬときは死にますからね。最悪、置いてかれても私は何とか生きていきます」


 ぐっとガッツポーズを取りながら宣言するたくましい我が嫁であった。


「だからせめて、子供だけは残してってください、ご主人様」


 耳元で囁かれて、俺の股間は盛大にいきり立つ。

 ムームーが昂ぶっているのが伝わってくる。俺も、彼女を攻め始める。


「前の世界の奥さんみたく、私もご主人様の子供、育てていきますから。

だから、死なないでくださいね」


 ああ、と答えつつ、俺は彼女に覆いかぶさった。

 

 生前の嫁たちが子供を守っていってくれると宣言してくれたのが嬉しかったと彼女に語って以来、

ムームーは同じことをするのだと張り切っていた。


 もし俺が死んだ場合、子供を守って生きていきますと、力強く言い切った。

 もちろん、嬉しかった。


(後先考えずにカケラロイヤルに参加できるほど、もう俺は若くない)


 残された人々がどうなるかまできちんと面倒を見なければ、安心できない。

 俺が死んだ後、ムームーが自立できるようにしておかなければならないのだ。


 家は建てた。


 首都西門を出てすぐの、開拓されたばかりの新しい土地に、大工スキルを使って一晩で広い家を建てた。

他人に目撃されないように、あらかじめ現場に木材を積み上げておいて、深夜に一気に組み上げる。

 

 さすがに家を一軒丸ごと建てるには俺のMPが足りなかったので、一回目は土台、

二回目は柱、三回目は屋根、というように何回かに分け、MPが回復し次第スキルを使って一晩で作り上げた。

 

 最低限、この家があればムームーは路頭に迷うことはない。俺がいなくなってからも、

この家に住むなり売り払うなりすればいい。できれば、手に職も付けてあげたいから読み書きぐらいは覚えさせたい。


(貯蓄もいくらか必要だな)


 もう少し、魔物を狩ってお金を稼ぐ頻度を上げなければならないと、俺はムームーと絡み合いながら思った。 

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