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ヤハウェ 2

『転生者、ジンが死亡しました。転生者は残り十一人です(・・・・・・)


 無機質な女性の声が、脳内に流れる。


「なんだ、これ――」


 あっという間に更地になってしまった屋台広場の入り口で、俺は呆然と立ち尽くした。


「なんで、こんなことに」


 俺の本心であったが、呟いたのは俺ではなく、俺と同じように屋台広場の入り口を囲む民衆の中の一人であった。みな同じ気持ちで、残骸一つない更地と、入り口で横たわる一人の屍を魂が抜けたように見つめている。


 周囲の人々は原因すらもわかっていないだろうが、ここで何があったかは俺だけが知っている。

 

(転生者同士の、戦闘だ)


 恐らく、広範囲を攻撃する魔法を使い、レベル上げを目論んだのだろう。

 事を起こして逃げようとしたところを、忍者みたいな別の転生者が殺害し、逃げ去った。


 二人とも透明になっていたから交錯は一瞬だったが、俺には何とか一部始終を見て取ることができた。


(ここまでする奴らがいるなんて、予想外だ)


 今まで、俺の計画はとても順調だった。一週間という短い期間で、フライドチキンの製法を確立させ、コンスタンティ家の当主、つまりこの世界での俺の父親と面会してお墨付きをもぎとり、簡易ながら店舗を設置して人を雇った。


 予想通り、フライドチキンの売り上げは順調かつ好評で、近日中にも他の区域に二店舗目を作ろうかという計画まで出来ていたぐらいだった。


(くそっ、予定が大幅に狂ったな。何とか手を打たないと――)


 フライドチキンを売る俺の店は、先ほどの魔法の攻撃範囲外だったから、無事ではある。しかし、「殺人を躊躇わない転生者が多い」という事実は、しっかりと受け止めなくてはなるまい。


 思えば、もっと早く手を打つべきだった。


 以前、屋台通りで偶然出会ったフヒトという転生者が、すでに死亡している。

 彼が死んだアナウンスを聞いたのが、五日ほど前だ。

 

 それ以降、死人が出ていなかったということもあり、また、俺もフライドチキンの流通を軌道に乗せるべく忙しかったので、つい危機感を鈍らせてしまっていた。


 今までに四回、転生者が死亡したアナウンスを聞いていた。先ほど死んだジンという転生者で五回目だ。


(認識が、甘かったかもしれない)


 目の前で人が死ぬ光景を見たわけではないから、どこか対岸の火事だと楽観していた。カケラロイヤルを勝ち抜くために躍起になっている人物同士がぶつかり合って死者が出ているだけで、平和に商売をしている自分に火の粉が降りかかってくることはないだろうと。


(いや、現実を直視しよう。俺は、甘かった)


 思えば、すでに死亡しているフヒトという転生者も、他人に襲い掛かるような人物には見えなかった。おどおどしていたし、争いを嫌う性格だろう。


 ああいう人物でも死んでいるのだ。俺が襲われない保証はどこにもない。


(あの忍者、殺し慣れてた)


 魔法を使ったジンという転生者は死体となってそこに転がっているが、彼を殺害した二人目の転生者も、手際は良く躊躇など微塵もなかった。事が終わった後に、そつなく逃げ出してもいる。

 あんな暗殺者が、この首都ピボッテラリアに潜伏しているかと思うと、おちおち人々の前に姿を見せてもいられない。俺は金稼ぎに特化している特典だから、襲撃を防ぐ手段を持っていないのだ。


(あの暗殺者が、悪人だけを選んで殺しているっていうのが理想なんだが――)


 楽観してはなるまい。たまたま目についた転生者だから殺しただけかもしれないのだ。


「え――?」


 ずいぶん長いこと考え込んだような気がするが、時間にすれば一瞬だっただろう。そんな俺の思考は、まばゆい七色の光によって遮られた。


「え? え?」


 廃墟となった広場の方から、俺の目の前に七色の光が飛んできている。

 こんなにも美しい輝きだというのに、人々はその光のことを見ようともしなかった。まるで、彼らにはその光が見えていないかのように。


 すうっ、とその光は、俺の胸に吸い込まれて、消えた。


「なんだったんだ、今の――あっ!」

 

 弾かれるように、俺は自分のステータス画面を開いた。

 

「やっぱり、か」


 俺の推論は間違っていなかった。

 俺のカケラが、二つに増えている(・・・・・・・・)


(なんで、俺に――?)


 恐らくこのカケラは、死亡したジンという転生者の持っていたカケラだろう。しかし、なぜ彼を殺害したルンヌという忍者ではなく、俺のところへカケラが飛んできたのだろうか?


(死体から、一番近かったからか?)


 少し考えて、俺はそう結論を出した。

 恐らく「転生者が死んだ」と判定されるのは、死体から経験値であるマナが発散され終わったとき、つまり魔物でいえば死亡から二分が経ち、魔石を残して死体が消える瞬間なのだ。


 今回あのジンという転生者が実際に死んでから、加害者であるルンヌという忍者は死体を残してその場を去った。だから、死体がカケラを産み、譲渡される段階になって最も近くにいる転生者が俺と判断されたために、カケラが俺のところに飛んできたのではなかろうか。


(これは、ヤバい――!)


 俺は青ざめた。あのルンヌという転生者の目的がカケラの収集であり、カケラロイヤルを勝ち抜くことだったとしたら、カケラを横取りした形になる俺のことを見過ごしてはおかないだろう。近いうちに襲撃してくるかもしれない。


 俺としては悪目立ちしたくないし、標的となる可能性が高まるカケラなんて現時点では集めるつもりは毛頭ないのだが、先方の事情がそうであるとは限らない。  

(落ち着け、俺。慌てるんじゃない、何とかこの事態を利用して、有利な立場を作るんだ)


 禍福は糾える縄の如し、と言う。考えようによっては、俺は運がいい。

 殺された転生者が、俺の店を巻き込むように魔法を使っていた可能性だってあるのだ。死んだのはその他大勢の民衆だけで、俺に被害はない。カケラが増えてしまったのは誤算だったが、どうせいずれ集めなければならないのだ、手間が省けたと思えばいい。


 この状況を利用して、あの忍者、いやそれだけではなく、他の転生者も動きにくい環境を作ることはできないだろうか。


(状況が停滞すればするほど、俺は有利になるからな)


 なぜなら、俺はそのうち高レベルの兵士を金で雇えるようになるからだ。

 他の転生者がレベル上げに手間取れば手間取るほどいい。

 最終的には、金で雇った冒険者たちを率いて他の転生者を脅し、俺のレースクリアを支持すれば良し、さもなくば実力行使で同意させるというのが、俺の青写真なのである。


(父親に転生者の詳細を教えて、街の外での狩りを制限してもらうってのはどうだ?)


 ちょっと考えて、俺はすぐに首を横に振る。ダメだ。

 魔石は、すでに人々の暮らしになくてはならないものになっている。いくら首都を統べる父といえど、一存で狩りそのものを禁じることはできないだろう。そもそも、転生者というものの存在を知った父が、どういう行動に出るかが予想できない。

 なぜ俺が転生者のことを知っているか、ということを父が疑問に思えば、俺が転生者であるということも気づくだろう。ある意味で、俺は彼の本当の息子ではないのだ。

 そう知った父がどういう行動に出るかは未知である。転生者のことは隠しておくべきだろう。


(――おや?)


 屋台広場の跡地には、どんどんと人が集まってきている。衛兵なども到着し始めていて、野次馬の整理を開始していた。そんな中、同時に別方向から、息せき切って走りこんできた二人の人物に俺の視線は吸い寄せられた。


 片方の人物は、俺の横を走って屋台広場へと駆けつけた少年である。

 上着は絹のチュニックだが、この世界の人物としては珍しく、裾の閉じていないズボンを穿いていた。


 もう一人の人物は、俺たちとは反対側の入り口から、屋台広場の中へと駆け込んできた女の子である。みな何があったのかと遠巻きに見つめている中で、恐れずに更地となった広場へと脚を踏み入れたので人々の注目を浴びていた。


(二人とも、転生者か!)


 念のために少年のステータスを調べてみたところ、二人とも転生者だった。

 少年はキョーシャ・ハナザキ、女の子はソアラ・モチヅキという名前らしい。


(どうする、逃げるか?)


 幸いにして、近くにいる俺が転生者だとは彼らには気づかれていない。

 彼らがもし他者の殺害も辞さない転生者なのであれば、俺が転生者だとバレたら

襲われる可能性もあるではないか。


(いや、落ち着け、それはない――)


 まず、彼らは自分たちが目立つことを避けようとしていない。暗殺者や、殺しも厭わない転生者なら、こうまで目立とうはしないはずだ。


 それに、今は第三者の耳目もある。衛兵だっている。そんな中、俺を襲おうとはしないだろう。


(声を、かけるべきだ)


 彼らは、真っ当な転生者だと、俺は見当を付けた。

 レースの参加者という間柄であり、そのうち敵に回るかもしれないが、少なくとも今であれば、お互いに手を組み、レースの進行を有利に運ぶための同盟を組めるかもしれない。


 そうと決まると、俺の行動は早かった。まずは近くにいるチュニック姿の少年、

キョーシャ・ハナザキ氏に声をかけるべく近寄っていく。


「ちょっと、いいですか――?」









「ここが私の家です。くつろいでもらえれば」


「すごいね、この豪邸。特典で建てたのかな?」


「私はそれよりも、チキンの方が気になりますね。あの味をどうやって出しているのかが」


「ああ、客だったことがあるんですね。どうぞ椅子を」


 きょろきょろと室内を見回す二人に、着席を促す。


 無事、二人の転生者と話をつけることができた。二人とも連れを待たせていたらしいので、一時間後に我が家へと招待することにした。出来れば自宅の場所は教えたくはなかったが、どの道コンスタンティ家について調べればこの屋敷のこともわかってしまうだろうから、今は先んじて彼らを信用しているというポーズを示しておいた方がいいだろう。


「貴族の屋敷としては、最低限のものらしいですけどね。スキルではなく、所持金選択と家柄選択を組み合わせたんですよ。チキンは、料理スキルで作っています。料理器具と素材を用意してスキルを使えば、一瞬で大量の完成品が出来ますので」


 実際のところ、一羽分の鶏肉丸ごとと、塩胡椒、それに隠し味の昆布に、二種類の油。衣に使う小麦粉など、材料だけを一つの容器にすべてぶち込んで料理スキルを使えば、わずかなMP消費だけで大量のフライドチキンが完成品で出来上がる。


 料理する手間も、材料を混ぜる手間も、まったく必要ない。

 ほぼ原材料費だけで出来上がるので、安く売ってるように見えて儲けは大きい。


「やっぱりそうでしたか。例の地震騒ぎがある前に、お店でチキンを買ったんですけど、特典抜きでは真似できない味だって思いました。日本のファーストフードよりも美味しかったです」


「それは良かった、お買い上げありがとうございます。料理スキルを使う際に、海藻を材料の一部として使っているのが隠し味です。日本で言うところの、化学調味料みたいなうま味が出来上がった料理に付くんですよ。仕入れは、うちの執事が海の街出身だったので伝手もありましたし」


「いいんですか? そんな味付けの秘密まで教えちゃって」


 白桃のような血色のいい頬と茶色の瞳で、びっくりしたような表情を作る女の子が、ソアラ・モチヅキだ。化粧っ気のない肌と、ぶっきらぼうに後ろで長髪を結っただけのポニーテールが清楚さを感じさせて好感が持てる。なるべく印象をよくしておきたいものだ。


「自分の商売が真似されない自信があるんだと思うよ? 料理スキルを取るような転生者、少ないだろうし」


 俺たち三人の中で、最も幼く見えるのが、キョーシャ・ハナザキだ。

 年齢を聞くと、何と十二歳なのだという。幼さが色濃く残る童顔で、やはり彼も色白だ。イケメンというわけではないが、軽いあばた顔と天然パーマめいた短髪、それに人なつっこい笑顔も相まって、好奇心旺盛なイタズラ小僧のように見える。


 身長も174cmの俺より一回りは小さくて、弟がいればこんな感じだったかもな、と思わせた。日本にいたころ、俺は一人っ子だったから、兄弟がいる家庭がどんなものか知らないのである。


「さて、そろそろ本題に入りましょうか。彼は執事のミハイルです。転生について話してある上、口の堅さは保証するので、いないものと思ってくれて結構です」


 しばし談笑した後に、ミハイルが茶とお菓子を給仕し終わった頃合を見計らって、俺はそう切り出した。黙して一礼し、ミハイルは数歩下がって目立たぬように控える。


 真面目な空気を出してみたのだが、キョーシャはにこにこ微笑んでいるだけだし、ソアラに至っては早速紅茶を啜り、美味しいお茶だねえなどと縁側気分に浸っていて、内心頭を抱えた。

 これは、最年長者である俺が引っ張っていかなければダメそうだ。


 最も、俺に有利な協定を結ばせやすいというのは利点ではある。


「簡単に言うと、同盟を組みませんか? ということです」

 

 パウンドケーキを咀嚼しながら、同盟?と鸚鵡返しにソアラ嬢は聞き返した。


「はい。例の、忍者みたいな転生者を見ましたか? ルンヌという名前でした。少し前に死亡アナウンスが流れたジンという転生者が、恐らく広場をあんな風にした元凶でしょうが、その彼を一突きで殺害した忍者ルンヌは姿を消しました。あの忍者と対抗するための同盟です」


「躊躇なく他人を殺せるような忍者が、まだこの街にいるってこと?」


「そうなりますね。いつあの忍者が、人気のないところで僕たちに襲いかかってくるかわかりませんから」


「でも、ジンっていう悪い転生者を倒したのはその忍者なんでしょう? 悪者だけを倒す正義の味方なんじゃないですか?」


 もごもごとパウンドケーキを食い続けながら喋るソアラ嬢である。

 うすうす気づいていたが、この子はアホの子かもしれない。腹ペコキャラなのだろうか。


「そうかもしれませんが、対策を練っておくに越したことはありません。もし忍者の彼が見境なく転生者を襲っているのだったら、少なくとも俺とキョーシャ君では相手になりません。特に、見ての通り俺はレベルも低いし、戦闘系技能を持っていませんから」


 意外なことに、この三人の中で最もレベルが高いのはソアラ嬢である。

 

「私はまあ、自衛のために初期レベル増加に特典を振りましたし、たまに魔物を倒してもいますから」


 そこを指摘すると、照れたように頭をかくソアラだった。この娘は扱いやすい。


 次点でレベルが高いのは、大きく引き離されて俺の77レベル。現時点で最もレベルが低いのは、キョーシャ君の73レベルだ。


 料理を作るためのMPの確保と、宣伝を兼ねたパフォーマンスで浮遊を唱えるために、ここ一週間は暇を見つけては俺も魔物を狩った。そんな俺よりもレベルが低いのだから、キョーシャ君はレースに勝つ気はまったくないと言っていいだろう。

 

「先ほども聞きましたが、お二人はカケラロイヤルに参加――つまり、他人を殺してでも勝ちあがりたいわけではないのですね?」


 首を縦に振る二人に向かって、俺は話し続ける。ここで彼らを説得しきってしまえば、かなり俺の地盤が固まるはずだ。


「俺は、カケラロイヤルに勝つつもりでいます。といっても、平和的に、暴力に頼らずに、ですが。このペースのまま稼ぎ続け、店の数を増やしていけば、この世界に元からいた高レベルの兵士を雇えます。その抑止力を背景にして、他の転生者たちが暴発しようとしてもできない環境を作るのが目的です。最終的には、願い事を使ってこの街、のみならずすべての街に、平和な政治を布きたいと思っています」


 おー、と感嘆しつつ、キョーシャ君とソアラ嬢はぱちぱちと拍手をしてくれた。


「同盟というのは他でもない、その体勢が整うまで、二人には俺の護衛をして欲しいのです。もちろん、四六時中というわけではありません。俺だって自分で護衛は雇いますから。ただ、護衛の手に負えないような転生者が襲ってきたら、念話の指輪で連絡をしますので、駆けつけてきて欲しいのです」


 ことりと、彼らの前に俺は二つの指輪を置く。この指輪は、いわゆる電話のようなものだ。発動状態にしてから指輪に話しかけると、対になった指輪を持つ人物に声が届く。風属性の念話という魔法が篭められた、念話石テリングジェムが指輪に嵌まっているのだ。


 彼らが屋敷へと到着する前に、先ほど魔法ギルドで購入してきたのである。


「もちろん、ただでとは言いません。商売に余裕が出てきたら、装備を一新するための費用なども負担しますし、何より定期的に集まって情報交換が出来たらなと思っています。二人も、普段は俺のことを気にせず暮らしていてくれれば構わないので、あまり生活に影響は出ないはずです。同盟っていったのは、このことです。どうですか?」


「いいんじゃない? 僕は賛成だよ」


 間髪入れずに言ってきたのは、キョーシャ君だ。意見の後押しをしてくれる良い子である。


「私もその条件なら、同盟を組んでも問題ないですよー」


「ありがとう、嬉しいですよ。それじゃあ、皆さんに念話の指輪を渡しておきます。いつでもかけてきて構いませんので」


「携帯電話の番号を教えるみたいなものかな。何かあったらかけることにするね!

ありがとうヤハウェお兄ちゃん!」


 元気いっぱいにはしゃぐキョーシャ君を見て、俺も頬を緩める。

 無邪気な若い子というのは、裏表がなくていいものだ。ときおりすっと目が細くなって、真顔になっているような気もするが、年上の人間から見知らぬ場所に招待されているのだから内心警戒していても無理はない。


「特に何もなくても、週に一度は集まるようにしましょうか。また、お茶菓子を用意しておきますよ」


 お茶菓子、と聞いてソアラ嬢の目が輝く。


「お菓子もいいですけど、私はヤハウェさんの料理が食べたいです! 料理スキルの恩恵をもっと味わいたいです!」


 勢いよく挙手をするソアラ嬢に、用意しておきますと俺は苦笑しながら返した。彼女の、今日一番の喜び様である。


「また、俺たちと同じように、積極的に争い合いたくない転生者を見つけたら、仲間に加えていきましょう。より大人数になればなるほど、敵も手を出しにくいでしょうから」


 そう、この同盟の最も大きなポイントは、そこなのだ。

 より大人数で同盟を組めば、他人を殺してでもカケラロイヤルに勝ち抜きたい転生者への抑止力になる。そればかりではなく、こうしてリーダーシップを俺が取っておくことにより、俺の言うこと、決定に逆らいづらい空気を作っていける。


 この空気こそ、俺が最終的に勝者となるために必要なものだ。

 なんだかんだいって、誰だってどんな願い事でも叶えてやるといわれたら、欲が出るはずである。そんな中で、彼らを代表して俺が願い事を叶えるためには、反対意見を出しにくくなる土壌が必要だ。

 多数決で物事を決定している中で、一人だけ反対意見を出すのは難しいものである。しかもそれが、我欲のために反対していると見られる環境ならなおさらだ。


 こうして、俺が同盟を操っていけば、労せずしてカケラロイヤルを勝ち抜くのも難しいことではないだろう。


 まさに災い転じて福となす、だ。

 あのジンとかいう転生者は、俺に幸運をもたらしてくれたようなものだ。


 ほくそ笑みを気取られぬよう、余所行きの笑顔で表情を鎧う俺であった。

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