陣内嵐太 0
「ぎゃは――ぎゃっはははははは! おいおいマジかよ、俺みたいなやつを生き返らせるとか、正気かお前? どう考えても地獄行き待ったなしだろ。俺が死ぬことを望んでたやつが何百人いると思ってんだ。なあ神様よう?」
それなりの悪党だった自覚はあったため、死後の世界というものがもし仮にあるのだとしても、ろくな扱いをされないだろうと予想していただけに、神様を自称するこの中年オヤジの説明に大爆笑する俺だった。
「自分の悪行を客観視できているようで何よりだ。ちなみにお前が転生することは確定だ。お前が嫌がろうがなんだろうが強制的に転生させる。なにか質問は?」
「死んだ後も罪を重ねろってか。ひでェ神様だなあ? あーあ、俺が転生したせいでまた何人が不幸になるのやら。楽しみでたまんねェぜ、くくっ、くけけ――質問なら山ほどあるが、まずは最初の一つだ。十六人の転生者ってのは、どういう基準で選んだんだ? 俺が選ばれたのはなぜだ? 頭のネジがぶっ飛んだヤツを集めて殺し合いでもさせるつもりなのか?」
「いんや、思想とか性格で選んだわけではないな。転生者の選定基準は、まず異世界転生という概念を知っていること。予備知識のないやつを送り込んだところで、何をしていいかわからず観賞に耐えないのでは意味がないからな。本でも漫画でも映画でも何でもいいが、一度でも転生について知ったことがある人間を対象にしている。ライトノベルの読者層から選ばれることが多いんじゃないかと俺は思っていたが」
「あァ? んなもん読んだことはねえよ――待てよ、そういやクラスのデブから取り上げた本が、そんな内容だったかもしれねえな。あんまりにもキメぇから、空き教室に呼び出して粗チンの撮影会してやったっけ。組織の女どもの息抜きになって受けが良かったから覚えてたんだが――ぎゃはっ、そのおかげで俺が生き返れたんなら、もう少し手加減してやっときゃ良かったかな。俺はイジりに飽きてデブから取り上げた本を暇つぶしに読んでたが、女どもは粗チンにボールぶつけたり落書きしたりとやりたい放題だったからなあ。自分でオナらせたところを撮影されて、動画をバラまかれたせいで学校に来なくなったんだっけな、あいつ」
「ずいぶんな外道だなあ、お前は。神様もドン引きだよ」
「その外道を生き返らせるって決めたのはお前だろ。それともやめておくか? 今なら間に合うぜ?」
「同じ日に死んだ人間で、老境でも幼児でもないやつからランダムで選んだからなあ。まあ選定された以上、どんな悪党だろうと転生はさせるけどな。お前が優勝したら、望みだってしっかり叶えてやる」
「ぎゃはっ――あんたも大概ぶっ飛んでると思うがね、神様。仮に俺が優勝してよ、
世界中の人間が俺に逆らえなくすることだって出来るのか?」
「できるぞ。ついでにお前が今してるような妄想だって全て実現できる。なになに、自分が強姦しても罪に問われない法律の制定。大々的な薬物農園の製作。絶対服従の家臣団の設立。サンドバッグがわりにする奴隷たちの確保、殺し合いを見世物にして金を取る闘技場の建設――いやあ、清々しいほど外道だな、お前は。もちろん全部実現可能だ」
「ぎゃはっ――ぎゃはははは。いいねえ話がわかるよ神様。要はやりたい放題するために頑張れってことだな。一応聞いておくがよ、あんたのことだから、カケラロイヤルをクリアするための条件なんて付けねえよな? 何人ブチ殺してようが、目的さえ達成すればいいんだろ?」
「その通りだ。現地の法をいくら犯そうとも関係ない。カケラを十六個集めた時点でそいつが勝利者となる」
「いいねえいいねえ。やる気が出てくるよ。あンた、散々俺のことを外道だって言ってるが、そんな俺を転生させようっていう神様が一番外道だと思うけどな。いつだって本当の悪党は表舞台にゃ出てこねェもんさ――さて、どうせなら俺ならではの手段で世界征服してやりてえな」
俺は特典一覧を読みつつ、考え込む。他の人間が考えもつかなかったような方法で、一気に世界をシメる方法。
「なあ神様よォ。さっき、レベルを上げるための経験値を手に入れるには、生物を殺せばいいって言ったよな? 魔物じゃなくて、人間を殺してもいいのか?」
「手に入るぞ。殺した生物のマナをすべて吸収すると、相手のレベルに等しい経験値が得られる。レベルアップに必要な経験値は、自分のレベルと等しい。要するに、自分と同レベルの生物を殺すと、レベルが一つ上がるってわけだな」
「そりゃいい。もう一つだ、誰かを殺したときに、近くに俺以外の人間がいたらどうなるんだ? 殺した人間にだけ経験値が入るのかよ?」
「いいや、近くにいた人間で頭割りされる。生物が死後にマナを発散させるのは二、三分ぐらいだから、その間に死体の近くにいれば、殺害に関与してない第三者でも経験値を得られるな。もっとも、死体から最も近くにいる生物に向かってマナは流れこむから、相当近づかない限り横取りなんてことにはならないと思うが」
「よし、それなら行けるな。必要な特典は、これと、これか。もう一つ神様よ、質問いいか? 威力が高くてでっけえ魔法ってあるか? 俺を中心に効果が出るとなおいい。準備に時間がかかったりしてもいいから、とにかくデカくて強いやつがいいんだが」
「ふむ。各魔法の最上位である終級は、たいていどれも広範囲かつ高威力だが。お前が望む条件に最も合致してるのはこのへんかな」
神様がふわりと手を振ると、属性魔法の説明文が拡大された。
【氷】氷姫セレニアスの属性。
作級:冷却
矢級:氷礫
色級:氷結
範囲級:睡眠
召還級:氷侍女
属性級:輝く白
終級:絶対零度
【土】地母神ドロレスの属性。
作級:作食
矢級:毒化
色級:魔鎧
範囲級:念動
召還級:土造魔
属性級:岩槍
終級:大地の咀嚼
「この二つの属性の終級魔法が、自分中心の広範囲攻撃だな。火属性や風属性は目標を指定するタイプだから自分の近くで発動すると自分も巻き込まれてしまうから除外、光属性と水属性は攻撃魔法じゃないから除外、闇属性は状態異常魔法だから殺傷力はほとんどない」
「氷と土、どっちも似たような魔法なんかよ? その終級ってのは」
「いいや。氷属性の絶対零度は、範囲が狭いものの、威力と行動阻害効果が高い。
土属性の大地の咀嚼は、広範囲かつ即死攻撃だが、いわゆる地割れに飲み込む攻撃だけに、空を飛んでると食らわない。違いはこのへんだな」
「じゃあよ、俺は土属性魔法を取ることにするわ。でもよ、なんか攻撃魔法っぽいのが少ないんだけど、この岩槍ってのは強いのか?」
「いいや、とても弱い部類に入る。土属性の中で唯一対象を指定できる攻撃魔法ってところに意味があるわけで、単純な威力とかを求めるなら同じ級の魔法でも他の属性に負けるだろうな。同一人物が詠唱したとして、火属性の色級である火弾と、土属性の岩槍でちょうど同じぐらいの破壊力だと思うぞ」
「ふむ。そンじゃあ、他の属性も取った方がいいんか。それとも、剣術みたいなんを取って殴り合いを強くしておいた方がいいんかよ?」
「そこらへんは個人の好みだが、レベルアップ時に増強されるステータスのことも考慮に入れておくといい。魔法ばっかり使ってレベルを上げると、主に精神が強化されるから、武器を振ってもあまり威力は出ないぞ」
「あァ、なるほどなあ。魔法剣士みたいなのは中途半端になっちまうのか」
「まあそうだな。どんなスキルでも使い方次第で輝けるようには設定してあるつもりだから、俺としては各人の創意工夫も見たいし、あまりアドバイスはしたくない。スキルの詳細は聞いてくれれば答えるが、どうするのがお勧めか、みたいな質問はよしてくれ」
「いや、もういいぜ。大体決まったから。これでいい」
俺は神様が寄越してくれた電卓にスキルを入力していく。
【取得特典一覧】
火属性魔法スキル:7
土属性魔法スキル:7
メイジマスター:20
ステータスマスター:25
ピュリフィケーションマスター:20
『レベル成長促進』:20
所持金選択:1
計:100ポイント
「特典ポイント1につき、500,000ゴルドを所持しての転生になるな。これらを反映させたお前のステータスがこうだ」
《パブリックステータス》
【種族】人間(転生者)
【名前】アラタ・ジンナイ
【レベル】30
【カケラ】1
《シークレットステータス》
【年齢】14
【最大HP】80(+40)
【最大MP】14(+14)
【腕力】8(+4)
【敏捷】8(+4)
【精神】14(+14)
【習得スキル】
火属性魔法
土属性魔法
魔力抵抗
魔力貫通
《魔力量上昇》
《身体能力強化》
《視力強化》
《精力強化》
《レベル成長促進》
『痛覚耐性』
『毒耐性』
『麻痺耐性』
『睡眠耐性』
『石化耐性』
『気絶耐性』
【アイテムボックス】
1t
「いいぜ。MPは60確保しておきたかったが、まァしゃあねえな。魔法とかを使う慣らしの期間も必要だし、初期レベル増加も取りたかったが諦めるわ」
「ふむ、これでよければ転生させるがいいか? 他に何か質問があれば受け付けるが。後は名付けなんかも希望があればやってるぞ、いるか?」
「あァん、名付け? どういうこった?」
「親の代わりに、現地の名前っぽいのを俺が考えて付けてやるって言ってるんだ。違う名前を名乗りたいって希望が他の転生者からあったから聞いてみただけだ」
「ほォ? まあ気に入ったら使ってやるよ、試しに言ってみな」
「そうだなあ。残忍な性格と飽くなき上昇志向、手段の選ばなさあたりと、お前の本名から――ジンってのはどうだ。チンギスハーンから取ったんだが」
「誰だっけそれ。焼肉を発明した中国人だったか?」
「全然違う。歴史上、最大レベルの広さを持つ帝国を築いたモンゴルの英雄だ。今はロシアと中国に挟まれてあまり話題に登らない国だが、当時でいえば常識外の国土だったんだぜ。倒した敵将の目の前でそいつの妻を犯すことが男として何よりの幸福だって言い切っちゃうような人で、小さな部族から大帝国を築き上げた、人類史上トップクラスの成り上がりでもある」
「しかも苗字の陣内とかぶってるってわけか。いいじゃん、妙に親近感が湧くな、そいつ。貰っといてやるよ、ジンって名前」
「うむ。では頑張ってくれたまえ、ジンよ」
「ああ、いつでも送ってくれ――ひゃはっ、こんなに興奮するのはいつぶりだろうな。女にも、金稼ぎにも、悪事にも飽きてきて、後は死ぬまでヤク決めるぐらいしか楽しいことなんざ残ってねえと思ってたが。楽しくなってきやがった」
「それではな。また会えるといいな、良き人生を」
神様がぱちんと指を鳴らすと、俺の意識は暗転していった。




