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陣内嵐太 生前

 陣内嵐太じんないあらたの死に方は、日本では珍しいものである。銃殺であった。

 


 彼は、不良である。それも、ファッションの一環としての軽薄な不良ではなく、筋金入りの悪党であり、聞く人が聞けば震え上がってしまうほどに名の売れた外道であった。


 若干十四歳で死去するまでに、彼の犯した罪は多い。

 ざっと列挙しただけでも、窃盗、脅迫、傷害、薬物、強姦、殺人教唆、殺人幇助など、調書を作成するとしたら一冊の本が出来てしまうほどである。


 しかし彼には、前科はない。補導歴であれば山のようにあるが、両手に錠を付けられたことはない。彼の最終学歴は在校中の中学三年生であったが、これは義務教育故に不登校であっても退学にならないだけであって、実質は中学一年の終わりごろから学校に顔を出したことなど数えるほどしかなかった。


 そんな彼がなぜ逮捕されなかったかというと、頭が良かったからである。言い換えれば狡猾であった。

 彼は学校の勉強には興味を持たなかったため、小学校高学年の問題を解けるかも疑わしかったが、しかし悪事に関しては才能を発揮した。少年法を始めとした刑法を独学で学び、法の網と警察の目をくぐり抜ける技術を磨いた。


 彼は、自らを頭とした組織を作った。

 十四歳の少年が組織を作ると聞けば、普通の大人は子供がままごとをしているように感じるだろう。

 その実体が、ヤクザも顔負けの犯罪集団だと一体何人が予想できるだろうか?


 彼らのシノギは、違法薬物の販売仲介と、脅迫行為の二つである。

 まだ少年少女で、学生だという身分を最大限に利用してのマーケティングと、美人局や痴漢冤罪などの下半身に直結する脅迫は、彼らの得意とするところだった。


 出会い系サイトを利用して匿名性を高め、万が一にも足が付かないように立ち回る上に、ピラミッド式の上下関係を構成することで情報の漏れも防ぎ、末端の構成員は薬漬けにして言うことを聞かせる。

 知人の暴力団員から綿密な助言を得た上で作り上げた組織は、大人顔負けの強固なものであった。


 彼は十五歳、言い換えれば高校に入学できる年齢になったら、本格的にヤクザとして組に入り、盃を貰うことが決まっていた。庇護してくれる母体の組、いわゆるケツ持ちに多額の上納金を払っている彼は、組長からの覚えもめでたく、いずれ稼ぎ頭の一人となるだろうと見なされていた。


 もっとも、嵐太としては、毎月払う上納金は安いものだと思っていた。

 組との繋がりを作ることにより土台が安定するだけでなく、薬物の入手経路を増やし、顔を売ってコネを広げることにも繋がるのだ。嵐太は権力が欲しかったわけではなく、面白おかしく悪事を為せていればそれでよかったのだが、悪党として生きていくなら地盤が必要だとも考えていた。


 そんな彼の人生を終わらせたのは、数発の鉛弾である。

 母子家庭で育った彼は、ろくに家に帰ってこない母親とともに生活していた。


 夜遅くに無人の自宅に帰ってきた彼は、玄関のドアを開けようとした瞬間に背後から拳銃で乱射された。血を吐きつつ、振り向き様に彼が見た最後の光景は、以前から痴漢の冤罪をかけて金をむしり取っていた中年の会社員が逃げ出す後ろ姿だった。

 嵐太の住む北九州は、ヤクザの多い土地である。あの会社員も、どこかの組から拳銃を購入したのだろう。


 死の間際にあって、彼の心の内には怒りも後悔もなかった。

 やりたい放題にやった結果、恨みを買う。ごく当たり前のことだった。


 大往生とは言わないが、自分らしい人生だったと、大の字になって夜空を眺めつつ、彼は絶命した。


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