志村不比等 0
「ふひっ――ふっくくくくくく! やったぞ、ついに幸運の切符を僕はつかんだんだ――!」
カケラロイヤルとかいう異世界転生の仕組みについて一通りの説明を受け終えた俺は、快哉を叫んだ。
「いつも運がなくて一発逆転できなかった僕の人生に、最後の最後でデカい波が来たんだ――!」
思えば、不運な人生だった。
手元にいくらかまとまった金もあれば、資格を取るための学校に通えたし、まともな仕事に就いて陰口を叩かれ続ける三十過ぎてのバイト暮らしにも終止符が打てたというのに、そのたかだか数十万の金がないせいで、僕の人生は悲惨なものだったと言っていい。
資格を取るための元手を作るべくパチスロに行っても、他の客は出しまくっているというのに、僕が打つと鳴かず飛ばずでまったく出ない。たまに出たとしても大した量ではなく、数十万という目標額には程遠いので、少し浮いた金で別の日にまたパチスロをする。毎回勝てるのならそれで良いのだが、勝った翌日もまた勝てることは稀である。何度も打つうちに、軍資金はあっさり溶けてしまって素寒貧になる。
そして、また翌月の給料日を待ち遠しく思いながら、子供でも出来るような仕事を黙々とこなす日々に逆戻りだ。
「でもね、その僕の不運はね、異世界転生っていうデカい当たりを引くための投資だったってわけなんだな。毎月毎月、どういうわけか僕だけが勝てずにいたのも、理不尽にも僕が死ななきゃいけなくなったのも、すべてはこの日に死んで異世界転生するための下準備だったってわけだったんだ。納得が行ったんだな」
内からこみ上げてくる笑いをこらえきれず、ふひっ、と僕は笑った。
妙に醒めた目をしている神様は、そんな僕を見て小さなため息を吐いた。
「まあ、お前の主観、お前の感性に思うところがないでもないが、それは置いておこう。質問があれば受け付けるし、そうでないなら取得する特典を決めてくれ。異世界でお前が何をやりたいか、どう生きていきたいのかを念頭に置いて、今度こそ悔いのないようにな」
異世界で何をしたいのか、という神様の言葉に、僕は我に返る。
(そうだ、僕は手に入れたんだ)
金と力を手にして、異世界で好きなように生きていっていいのだ。
日本の社会が今まで僕を縛り付けていた、ありとあらゆる法という鎖が音を立てて崩れ落ちていった。
座ったパチスロ台の出玉が爆裂しているような全能感が僕を包んでいる。
いま、僕は自由だった。
「ふひっ――そうですよね。もう今までの僕じゃあないんだ。金と力があれば何だってできる。もう自分を戒める必要なんてないんだ。特典を貰って好き放題できるってわけなんだな――」
(金と力を手に入れて何をするかって――?)
そんなものは決まりきっている。
女だ。
女とやりまくりたい。僕の言うことを何でも聞く女を何人も囲って、ありとあらゆるプレイを試すのだ。
そのために、奴隷を買おう。現実の女と来たら、うるさいし面倒だし我がままだし、僕のことを影でこそこそ悪口を言い合うようなゴミばかりだが、その点、奴隷というのは都合がいい。
まず、僕の言うことを何だって聞く。その上、奴隷になるぐらいなんだから、どうせ悲惨な境遇で育ってるんだろうし、ちょっと甘やかしてやるだけで僕からの厚遇に感謝して忠実な雌になってくれること請け合いだ。
「いや、まてよ」
強姦というのもいいな。
あのお高く気取った、頭の中が空っぽな癖に声と態度ばかり大きな女たちを組み伏せ、泣き叫ぶところを思う様に犯してやったらどんなにスカッとすることだろう。
先ほど一覧をちらと見た限りでは姿を隠す特典スキルみたいなものもあるようだし、証拠の隠滅も容易そうだ。
「そうと決まれば早く特典を選ばないとな。まずは姿を隠す隠身スキルと、奴隷を買うための金――金を稼ぐための手段もいるな。生産系のスキルも捨てがたいが、警察みたいなものから逃げるために素早さっぽい特典は欲しいし、魔物を狩ってお金も溜められるし戦闘系のスキルを取ると一石二鳥か――おっと、精力強化スキルも取得しないと。ふひっ、楽しみだなあ」
僕の人生において、これほど脳内麻薬の出まくった楽しい時間が果たしてあっただろうか。
第二の人生に向けて特典を厳選していくという作業は、パチスロなんかとは比べ物にならない楽しさである。
なぜなら大金どころか最高の人生が手に入るというのだから、このカケラロイヤルというものの射幸心の煽り方はギャンブルの比ではない。
「これをこうして――これを取るとポイントが足りないから――これに変えて」
僕が特典選びに夢中になっている間、神様はそっぽを向いて煙草をくゆらせていた。視線を合わさない無表情は、僕が話しかけたときの女たちの顔にそっくりだ。少し怒っているように見えるのは僕の気のせいだろうか?
「待たせちゃってすいませんね、神様。何せ僕にとって大事な選択ですから。もう少し待っててください」
「いや、いいよ。ゆっくり選びな」
気怠そうに煙を吐き出す神様を横目に、僕は特典の吟味を繰り返す。
いくらかの時間が過ぎたころ、僕は満足して破顔した。
「できた――これでお願いします、神様」
【取得特典一覧】
ウェポンマスター:20
隠身スキル:7
ステータスマスター:25
初期レベル増加:10
健康体:5
長寿:5
所持金選択:28
計:100ポイント
「長々と悩んでた割には、あっさりとまとまってるな」
「奴隷を買うためのお金や、飼っておくための家を買わないといけませんから、所持金選択に多めにポイントを振りました。お金が足りなくなったら、魔物を狩って稼ごうと思っています。転生先ではね、お金で苦労したくないんですよ」
「まあ、いいさ。これを反映させたお前のステータスが、こうなるな。これで良ければもう転生させちまうが」
《パブリックステータス》
【種族】人間(転生者)
【名前】フヒト・シムラ
【レベル】80
【カケラ】1
《シークレットステータス》
【年齢】31
【最大HP】210(+100)
【最大MP】21(+10)
【腕力】21(+10)
【敏捷】38(+19)
【精神】21(+10)
【習得スキル】
斬術
刺突術
殴打術
射術
隠身
《身体能力強化》
《視力強化》
《精力強化》
《健康体》
《長寿》
【アイテムボックス】
6t
「ばっちりです。考えるための時間はまだ残っていたと思いますが、もう転生させても大丈夫ですよ」
「そうか。じゃあな」
名残を惜しむという感情がないのか、神様はごくあっさりと僕を転生させることにしたようだ。
神様が指を鳴らした途端、僕の視界は暗転していった。




