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魔王軍に村を焼かれた俺、今日も元気に幼馴染勇者を後方支援~草をむしれば魔王が滅ぶ~  作者: 竜山三郎丸
魔王と勇者

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関和 かつて、魔王様は (下)

◇◇◇


 ――光の勇者による第一次魔王城侵攻は失敗に終わった。



 破壊された地面から大の字に天を仰ぎ、6枚羽で浮かぶ魔王が泣いている姿を眺める勇者。


 胸に刺さった剣を抜くこともせずに、ポロポロと涙を流しては、その涙は黒い炎の翼によって蒸発していった。


 その胸に剣を刺したのは自分なのだと思うと、急に途轍もない罪悪感が勇者を襲う。


「貴方は今まで戦った人の中で一番強かったわ」


 フワリと魔王は勇者の傍らに立つ。


 痛みに顔を歪めながら剣を引き抜くと、傷は既に塞がっている。


 魔王は悲しい顔で微笑みながら勇者にハクアの剣を向ける。

 


「ちょっと期待しちゃったけど、……やっぱり無理ね」


 どれだけ強かろうと超速回復も無限の魔力も持たない人間である勇者は、魔力切れで傷だらけの動かない身体で魔王をジッと見る。


「……また来ます」


 魔王は一瞬目を丸くして驚いた後にクスリと笑って剣を勇者の左胸に突きつける。


「次なんて無いよ?今死ぬんだもの」



 勇者は自信なさげに引きつった笑みを浮かべる。


「死なないように頑張ります」


「あっそ」


 冷たくそう答えると、魔王の持つ真っ白な剣はズッと勇者の左胸に刺さる。


 顔が強ばり、血の気が引く。



 ――死が身体に入ってくる。



 但し、それは一瞬だった。


 ハクアの剣の切っ先を爪の先程刺したかと思うと、スッと剣を引いて魔王は悪戯そうに笑う。



「仕返し。痛かったんだから」


「え」

 

 事態が飲み込めず勇者は絶句する。


 そして、自身が魔王の心臓を貫いた事に対しての仕返しか、と思い至る。


「え、いや……仕返しって。俺普通に心臓ぶっ刺しましたけど、そんな軽い感じでいいんですか?」


 魔王は首を傾げる。 


「ん?もっとする?痛いのがいいの?変なの」


「いや、そう言うのじゃないっす……」



「シアーン、お客様お帰りよー。送ってあげて」


 勇者の言い訳を聞かずに振り返り、離れた場所で寝転がっているシアンを呼ぶ。

 

 戦いでボロボロになったシアンの傷はもう治っている。そもそもがヴィクリムやナギオウ程の怪我は負っていない。実年齢と強さはともかく見た目は幼女なので、無意識に手加減をされていたと思われる。



「はーい。マグマにでも放り投げます~?」


「ウヒヒヒッ、それなら女湯にしましょう」


「あっ、いいねいいね!そうしよう!」



 自分の知らないところで無責任な提案が無責任に受理され、勇者はぎょっとして声を上げる。


「全然良くないですよ!?一応俺英雄扱いなんでそう言うの止めてもらっていいですかねぇ!?」


 身体は動かない。声を上げる事しか出来ない。



「それじゃ、行きま~っす」


 グニャリと空間が歪む。


 勇者は歪む視界で魔王を見る。


「また来ます。……あなたを殺す為に」


 魔王は微笑み手を振る。


「期待しないで待ってるわ」


 シアンと勇者は歪みと共に消える――。



◇◇◇


 それから、勇者は何度も魔王城を訪れる事となる。


 但し、明確に魔王と戦ったのは最初の2・3回だけだった。


「……絶対身体には触らないでよね」


「えぇ、まぁ。俺だって死にたくは無いんで」


 そう言いながら隣に座り黒い羽を採取して調べる勇者。


 実際には羽は炎で出来ている為、魔王の身体の一部では無いので触れても『吸命(ドレイン)』の効果は発動しない。


 本来は近くにいるだけでも生命を吸われるのだが、魔力量の多寡は抵抗力の多寡と直結しているようだった。人間離れした魔力量を持つ勇者は一般人より高い吸命耐性を持つことになるが、その生命は確実に短くなってはいるはずだ。


「死にたくないならもっと離れてたらいいじゃない」


 困った顔で魔王は言うが、勇者は真剣な顔で魔王の観察を続けている。


「そうすっねぇ。できれば長生きしたいですねぇ」


 メモを取り、時折首を傾げ、質問をして、何事も無い日常会話をする。


 そして、3日程滞在すると城を離れる。


「また来ます」


 自信の無さそうな愛想笑いを見せながら手を振る勇者。


「……別に来なくていいわ」


「それじゃ行きますね~」


「ははは、お手柔らかに」


 グニャリと空間が歪み、2人は消える。



◇◇◇


 何度も勇者は魔王城を訪れた。


 世間は彼を不屈の勇者と称えもしたが、彼を見限る民や有力者もいた。


「お土産持ってきました~」


 だが、そんな風評は我関せずとへらへらと笑いながら、帝都銘菓を大量に持って今日も勇者は魔王城を訪れる。


「わーい、これおいしいんだよね~」


「ウヒヒヒヒ、お茶を淹れましょう」


「儂ァ食わんぞ」


「やった、じゃあ私もーらいっ」



 魔王は腕を組み呆れ顔で勇者を見る。


「あら、また来たの?」


「えぇ、懲りずにまた来ました」


「戦う?」


「やめときます。今日はお菓子持ってきただけなんで」


「あ、そ。お茶くらい飲んでいったら?」


「はは……じゃあ頂いていきます」



 現四天王の3人とは別のテーブルで魔王とお茶を飲む。


「随分評判落ちてるみたいじゃない、勇者様」


 挑発的な笑みを浮かべる魔王。自分で土産に持ってきたケーキにフォークを刺して愛想笑いをする勇者。


「まぁ、そうっすね。でもまぁ元々が過大評価みたいなもんなんで別に気にしてないですけど」


「過大評価にしっかり応えてこそ男が上がるってものじゃないの?」



 整った顔でニコニコと笑みを浮かべながら、ジッと勇者を見つめてカップを口に付ける。


「そういうものですかね~」


 試すような視線を愛想笑いでかわして、勇者もお茶を飲む。



 第何次かの勇者による魔王城侵攻も、そんな風に過ぎていく。


◇◇◇


 それから何年も時間が経つ間も、勇者は魔王を殺せはしなかった。


 そもそもそれが可能かどうかすら、魔王を含む誰にも分りはしない。


 何年もの時間の間に、人間達による魔王城大規模侵攻や、魔王との内通を疑われた勇者の投獄など色々な事があったが、それでも概ね平和に時は流れた。


 勇者では魔王を倒せないと、いつしか世界は諦め受け入れた。



 ――出会いから50年近い時間が流れたある日。



「すいません、やっぱりあなたを殺すしかありません」


 自身の愛剣の様に真っ白な髪になった勇者は、本当に申し訳なさそうにそう言うとゴホゴホと何度か咳き込んだ。


 年齢は70を超えるか超えないかと言ったところか。この時代の人々の平均寿命を大きく超える高齢になっていた。


 勇者もすっかり老いている。


 魔王は変わらず、絶世の美しさのまま。


 はっきりと目に見える訳では無いがわかる。生命の灯と言うものがあるのなら、風が吹けば消えてしまう程に弱くなってしまっている。


 きっと、もうじき勇者は死ぬのだろう。


 ――あぁ、なるほど。だからか。彼程の男でも命が惜しいのだ。私を殺せば、吸命(ドレイン)も止まり、もう少し余命が伸ばせるのだから。


 魔王は悲しみが顔に表れない様にいつも通り自信に満ちた微笑みを勇者に向ける。


「そうね。出来るものならずっとそう願っているんだけど」


「本当は――」


 老勇者は言い辛そうに口を開くと、また何度か咳き込む。


 

「――何十年も前に完成しているんです」


「えっ……」


 申し訳無さそうな顔で、彼は口を開く。


 光魔法で闇の権能を封じた瞬間に超々高火力の魔力で一気に滅する。


 言葉にすれば、たった一言。


 ひどく簡単な言葉に魔王は首を傾げる。


「……そんなのできるわけないでしょ?」


 老勇者は首を横に振り、自信に――いや、確信に満ちた瞳で魔王を見る。


「できますよ、俺なら」


 もう50年近くになる長い付き合いの中で初めて見た表情に魔王も困惑する。


「嘘よ。……百歩譲って本当にそんな事ができるなら、何で今になって言い出すのよ」



 少し言葉を選ぶように首を傾げると、照れ臭そうに笑う。


「あなたに死んで欲しくなかったんで」


 その表情も、初めて見るものだった。


 老勇者は言う――、理想は権能……出来れば『吸命』のみを封印する事だった。


 だが、それは彼女の生命と密接に絡みあっていて、どれだけ考えても調べてもその手立ては無かった。


 そして、彼も老いた。


 残された時間は少ない。


「俺は、あなたを殺します」


 

 何十年も悩みぬいた彼の言葉を疑ってしまった事がとても情けなく、恥ずかしかった。


 そして、老勇者が何十年も自身の事を考え続けていてくれた事が堪らなく嬉しかった。


 魔王は涙をこらえ、微笑みながら頷いた。


「あんまり痛くしないでね」


 老勇者は自信無さげな愛想笑いを浮かべて、頷く。


「……努力はしますが。あ、あとですね。あー、えーっと……」


 急にごにょごにょと口ごもり出す老勇者をいぶかし気に見つめる魔王。


「はっきり言ったら?殺害予告より言い辛い事ってそうそうある?」


 老勇者はピッと指を1本立てて、魔王の表情を窺いながら言い辛そうに口を開く。



「もし、……もしあなたがよかったらの選択的な補助術式なんですけど」


「いいから早く言ってよ」


 腕を組み、老勇者をジッと見て言い放つ魔王。



「……その後権能を封じたまま生まれ変わる事ができちゃったり、……するんですけど」


 魔王が老勇者を見る目が驚きに変わる。


「えっ……。出来るの?そんな事」


 ズイッと身を乗り出す魔王を制止しながら老勇者は言葉を足す。


「あっ、欠点の説明を先にしないと公平じゃないですよね!?一つ、4か所に術式の魔法陣を設置しなければいけません。二つ、権能を縛る関係上封印術を使った人物もほぼ同座標に生まれ変わります」


「それってつまり……、あなたも近くに生まれ変わるって事?」


「……申し訳ないですが。あっ、でも大丈夫です!生まれ変わると言っても当然記憶や姿は全く別なので!当然お互い気が付くわけも無いし、接点が無い可能性の方が高いわけですから!」


 早口で謎の言い訳をする老勇者を見て魔王はクスリと笑う。


「じゃあそれ、お願い」


 老勇者はやはり自信無さげな笑顔で頷いた。


「本当にわかってるんすかねぇ」


◇◇◇


 4つの術式のうち1つでも消えると、封印は弱まってしまう。どんなに丈夫なものに刻んでも何百年と保ちはしない。ヴィクリムの提案で、彼ら上位魔族にその術式を刻む事になった。


 寿命も長く、互い以外の誰にも負けない。


 ナギオウ、ヴィクリム、シアン。必要な術式は4つなので、1名足りない分はナギオウの推挙した若手有望の竜人ジギに施される事となる。


「魔王様、またね」


 シアンはポロポロと泣きながら魔王に抱きつき、魔王もシアンを抱きしめる。


「シアンも元気でね」


 別れの場には魔王と老勇者のほか、シアンとヴィクリムのみがいた。


「ウヒヒヒッ、えぇとワタクシにも抱擁を?」


 おどけて笑うヴィクリムを魔王はぎゅっと抱き締める。


「当たり前でしょ。またおいしいお茶飲ませてね」


「……これは、照れますなぁ」


 抱擁から離れるとヴィクリムはぺこりとお辞儀をする。


「ナギオウから言伝を預かってまして。……『今度は幸せになりんさい』、と」


「……うん。今度も、ね」



 魔王は目をゴシゴシと擦り、老勇者の元へと歩み寄る。


 老勇者は別れの邪魔をしないように音を殺して咳をしている。きっともう、時間はない。


「もういいんです?」


「うん、ありがとう」



 老勇者は目を閉じ、大きく息を吸い、長く長く息を吐く。


 真っ白な刀身のハクアの剣を抜く。


 残り僅かな命を燃やして、一撃だけ、一瞬だけ老いた身体に力を取り戻す。


「行きます」


 魔王はコクリと頷く。


 老勇者はその力と命の全てを剣に込める。


「うおおおぉぉぉ!」


 術式が発動し、シアン達の身体も仄かな光に包まれる。


 トッ、と魔王の胸をハクアの剣が貫く。


 血が噴きだし、次の瞬間魔王と老勇者の身体が淡い光に変わっていく。




「……ねぇ」


 光に包まれ、ポロポロと涙を流しながら魔王は老勇者に問い掛ける。


 返事はない。



 だが、魔王は両手を広げて言葉を続ける。


「抱き締めていい?」


 返事はない。



 構わず魔王は老勇者を抱き締めた。


 涙が止まらなかった。


「温かいね」


 返事は無い。



 頬を寄せて笑う。


「しわしわだね」


 返事は無い。



 既に、勇者の命の灯は消えている。


 魔王はポロポロと泣きながら老勇者を抱き締める。身体は光と化し、どんどん薄くなっていく。


「生まれ変わったら、私もしわしわになれるかな?その時はさ、あなたもそばに――」


 カラン、とハクアの剣が床に落ちる。



 ――その日、人の命を喰らう不死の魔王は光の勇者によって封印された。


 その勇者は、50年以上の長きに渡り幾度と無く魔王に挑み続け、世界を救う為に戦い、遂に自らの命と引き換えに魔王を封印した、と歴史には記されている。


 黒翼の魔王と、不屈の勇者の伝説――。



 


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