ジーオ
◇◇◇
「――誰かな?」
イズミの連れている神獣・白蛇のハクの開いた異空間に入ると、その先は別の場所と繋がっており金髪のイケメンが涼し気に微笑んでいた。
「あ、俺は――」
と、自己紹介をしようとした矢先にイズミが俺の前に割って入る。
「ジーオ」
金髪のイケメンに目をやり、イズミは冷たい声で呟く。
「剣から手を放して。この人は敵じゃないわ」
このイケメンがジーオか。名前だけはイズミからよく聞く名前だ。
言われてみて初めて彼の右手が腰に下げた異国の刀の柄を握っていることに気が付いた。
「勿論わかってるよ。ただの冗談さ」
ニコリとほほ笑むイケメンを冷たく睨むイズミ。
「あっそ。随分つまらない冗談ね」
「やれやれ、まったく。僕にそんな事を言うのはこの国で君くらいのものだよ」
「あっそ。それもどうでもいいわ。それより幻獣は?見つかった?」
またイズミが冷たくジーオに答えると、彼の後ろから黒蛇が頭をもたげて、ジトッとした目でイズミを睨む。
「はぁー?勝手に帰って勝手に戻ってきて何を勝手なこと言っているのかしら、このメスザルは?」
「こら、ノワ。やめないか。イズミにもきっと急な事情があったんだよ」
「急な事情?世界の危機より?男連れで戻ってくるのが?」
見たところノワと言う黒蛇はイズミに対してあまり好意的では無いようだが、イズミは全く気にも止めていない様子。
「ねぇ、ハク。お仲間が何か喋っているみたいだけど通訳……出来る?」
「あぁ。イズミが戻ってきて嬉しいってさ。勝手に居なくなると寂しいから止めてって」
「ふふ、そう」
「ハク!あなたどっちの味方なの!?」
「僕はいつだってイズミの味方だよ」
「まぁまぁ、その辺にしておきなよ。それで?彼は?」
ノワを撫でながらジーオが俺を見て、イズミが俺を紹介する。
「うん、彼はシロウ。私と同じカカポ村の生き残りで、今は街で薬売りをしているの」
俺はジーオにペコリと頭を下げる。
「シロウ・ホムラです。この度はご迷惑をかけました」
なんと説明したらいいのかよく分からなかったので漠然とした謝罪になってしまった。
イズミが俺のせいで――、違うな。偉そう。
俺のせいで――、は違うな。イズミのせいなのは間違いない。
幼馴染のイズミが――、何か嫌だな。
「あぁ、気にしないでいいよホムラ君。そもそも勝手に帰ったのはイズミだし、君は関係ないよ。謝らないで、頭を上げてくれないか」
ニコニコと彼はそう言うが、何となく角が立つ言い方に聞こえたのは自意識過剰だろうか?
「だってさ。シロウ、ジーオは気にしなくていいって」
「……いや、お前が言うなよ」
そんなやり取りをしていると、イケメンはニコリと微笑み側に置いてあるテーブルの椅子を引く。
「他にあと2人いるんだけど生憎今は眠っていてね。どうだろう?みんなが起きるまでイズミの昔話でも聞かせてもらえないだろうか?」
「嫌よ」
むっとした顔でイズミが答える。
「はは、今はイズミには聞いていないよ?どうだい、ホムラくん」
「ん~、本人が嫌と言っているものを俺が話すのもなんだかなぁっすよね。と、言っても大体昔からこんな感じっすよ」
「指ささないでよ、もう。あっ、そうだ!みんなが起きるまでこの辺り案内してあげるよ。シロウ基本街から出ないから新鮮でしょ?」
「え、つーかここどこなの?そもそもどうやって来たのかの説明も聞いていないんですけど」
イズミは悪戯そうに笑う。
「あれ、そうだっけ?まぁいいじゃん。あっちのほうに珍しい草とかもあるよ」
「まじか。行くわ」
◇◇◇
「ほら、シロウ。この草とか。トルイの森には生えてないでしょ?」
ウキウキと手を広げてシロウに植物を紹介するイズミと、顎に手を当ててその植物をまじまじと見つめるジーオ。
「ははぁ。これはシズニギスだね。本来はディニアム大陸にしか自生していないはずなんだけど……多分僕らのような冒険者の靴に種がくっついてきちゃったのかな?」
「なるほど。それを環境破壊と捉えるか、人間も自然の一部と捉えるかって事っすかね。つーかここどこなんすか?」
「ここ?シュゲール高地さ。あ、植物が好きならこっちはどうかな?自生地だと水生植物なんだけど、何故かここでは地上に根を張ってるんだよ」
「まじすか、見たいっす」
二人にくっついてきたジーオは植物に造詣が深く、イズミを放ってシロウと盛り上がっている。ウキウキとジーオにくっついて移動したシロウを見てムスッと頬を膨らませるイズミ。
「なにそれ。バカ。草バカ」
ハクもうんうんと頷いている。
「まぁジーオは何でも知ってるからね。基本いいやつだしね、家柄もいいし」
「バカ。蛇バカ」
「え、僕?」
イズミは二人についていくのを辞めて手ごろな岩に座り天を仰ぐ。
空は端の方が少し白んできた。
「一緒に行かないの?イズミ」
「ん、行かない。折角シロウが楽しそうにしてるんだもん」
ハクは大きくため息をつく。
「ほんと、シロウはバカだよねぇ」
「うん、知ってる。でも、楽しそうだからいいよ」
イズミは口に手を当てると小さく欠伸をする。
少し離れた場所からやや興奮したシロウの声が聞こえる。
意外に二人は馬が合う様で、イズミも内心驚いているが悪い気はしない。
手枕で岩にごろりと寝転がり目を閉じる。
「少し眠るね」
「ここで?簡易コテージ空いてるんじゃないの?元々4人用なんだから」
「いいの。ここで」
「わかったよ、お休み」
また少し離れたところから聞こえる二人の楽しそうな声を子守唄代わりにイズミは軽い眠りに落ちた。




