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魔王軍に村を焼かれた俺、今日も元気に幼馴染勇者を後方支援~草をむしれば魔王が滅ぶ~  作者: 竜山三郎丸
魔王と薬売り

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城の夜明け

◇◇◇


 逃げると言う選択肢は無かった。


 かと言って、抗うと言う選択も出来なかった。


 だから、彼女は何も選べずに考える事を止めて一人ベッドに潜り込んでいた。


 真っ暗な布団の中で小さくなっていると、9年前に村が襲われた時の事を思い出す。部屋の隅にあるクローゼットに隠れて震えていた7歳の頃を――。



 バンと勢いよく音を立てて部屋の扉が開く。


「魔王!覚悟!」


 その声を聞いてイズミは布団の中で落胆する。そして、有り得ないと知りながらも、あの日と同じ様に『誰かが』助けに来てくれる期待をしていた事に気が付く。


 暗い布団の中で自嘲気味に笑い、掌のコズミラを優しくなでる。


 次の瞬間、白銀等級の戦士ゲインの剣が布団を貫く。


 布団と枕に入った水鳥の羽がブワッと舞うが、既に中には何もいない。



 音も無く、窓辺には城を燃やす焔の灯に揺らめく魔王が立っていた。


 窓の向こうで燃える非現実的な色の焔に照らされた魔王は、その金色の瞳で入り口に立つ冒険者をジッと見据える。


「……何の用?」


 魔王イズミの問いにゲインは腹の底からの大声で答える。



「決まっている!貴様を殺し……世界を救いに来たんだ!」


 背中の盾から剣を二本抜き、イズミに飛び掛かる。



「あなたには無理よ」


 ゲインの二刀流による連撃をスイっと躱すと同時に、左の回し蹴りを腹部に叩きこむ。


 軽鎧の上からとは言え、一撃で決まると見たイズミの予想に反してゲインはその場に踏みとどまり更に剣を振るう。


 鬼の様な形相で歯を食いしばりながらゲインはイズミに襲い掛かる。


 魔王を殺す為に鍛錬し、研鑽し、旅をした。


 その目標が目の前にいる。



 対してイズミにはゲインを殺すつもりなど無い。


 意識を無くし、倒れてくれる様に、できるだけ怪我をさせない様に力を調節しながら無表情にゲインに攻撃を続ける。


 傍から見れば、それはただいたぶっている様にも見えるだろう。


 コズミラ達を手に隠しながら一方的にゲインを蹴り続ける。


 流石白銀等級と言うべきか、ゲインは何度イズミの攻撃を食らっても立ち上がり、剣を振る。


「返せっ!」


 食いしばった口からは血が滲むが、イズミの攻撃のせいで無く噛み締めた奥歯が砕けたせいだ。


「返せよっ!!」


 ゲインは何度もそう叫びながら攻撃を続けるがイズミにはかすりもしない。


 終始無言且つ無表情でゲインを痛め続けたイズミはつい口を開く。


「返せって……、何をよ」


 その答えが彼の逆鱗に触れた様で、鬼の形相でイズミを睨みつけて叫ぶ。


「命に決まってるだろうが!返せ……みんなの命を!」


 何本目かの剣を蹴り飛ばしながら魔王イズミは表情を歪める。



「……そんなの私に言わないでよ!」


「黙れ!」


 イズミの蹴りがゲインの頭を捉える。



 目を上転させて膝を付く。



 ――やっと終わった。



 薄れゆく意識の中で、歴戦の勇士は目の前の強敵がほんの僅かに気を弛めたのを見逃さなかった。


 既に砕けた奥歯をまた噛み締め、痛みと共に意識を取り戻して素早く背中に手をやる。


 これが殺し合いならば、この隙にゲインの首は撥ね飛ばされていただろう。


 だが、この戦いは殺し合いでは無い。


 そして、ゲインは攻防のさ中でも魔王が左手を自分から庇うように遠ざけながら戦っていたのも見逃さなかった。


 彼は左手で背中に背負った盾を取り、魔王に向ける。


 向けたのが剣であれば、ゲインは即座に昏倒させられていただろうか。


 

 イズミは向けられた盾にほんの一瞬躊躇した。


 身を隠すほど大きなその盾は、裏表に術式が刻まれた特別製だ。


「うあぁああぁあぁぁあ!」


 盾の内側には透過術式が刻まれており、身を隠しながら盾の向こう側が見える。


 そして、盾の外側には1発で豪邸2つは買える程の強力かつ高価な攻撃術式が刻まれていた。


 雄叫びと共に術式が起動する。



 盾に刻まれた術式から高濃度の魔力砲が放たれ、ゲインの観察通り魔王は咄嗟に手を庇う。


 そして、魔力砲を目くらましに右手は腰に提げた短刀に手をやる。


 ジーオから託された、魔王を封印すると言う術式が刻まれた短刀。


 自身でも驚く程冷静にゲインは短刀を抜き、死角からイズミに突き立てる。


 願わくば心臓を貫け、と。



 ズッ――。


 ピンク色の焔の灯に照らされて、赤い液体が宙に散る。


「……っ!」


 イズミは苦痛に顔を歪める。


 高い魔力を持つイズミの障壁を超えてその短刀は彼女の左側腹部を貫いた。


 心臓は貫けなかったが、手応えはある。ゲインはそのまま短刀を持つ右手にグッと力を入れる。


 グッと歯を食いしばり痛みを堪えながらゲインを睨むと、身を捻るよりも速く無意識にイズミの身体を黒い翼が覆う。その羽の一つ一つは漆黒の炎で出来ていて、ゲインの右手を容易く焼いて落とした。


「ぐあぁあっ!」


 右手を失い、熱か痛みかわからぬその感覚に叫び声を上げるゲイン。


 イズミは今にも泣きそうな顔でゲインを止める。


「もう下がってよ!あなたに私が殺せるはずないでしょ!?」


「ふざけた事を……言うな」


 翼を消せずに立ち尽くすイズミの腹部に刺さった短刀に手を伸ばそうとゲインは一歩足を踏み出す。


「俺が――」


 そして翼に触れると成す術(なすすべ)も無く黒い炭となり、その場にボトリと崩れ落ちた。



 イズミはズッと一度鼻をすすると、上を向いて息を吐く。そして、城内にいるだろう臣下の2人に声を掛ける。


「……シアン、ヴィクリム。無事?」


『無事……ですね、今の所。お友達、……かなりやるんですけど。殺していいなら何とかなりそうですが』


『加勢いります?』


『バーカ、要らないよ』


 遠すぎなければ空気中の魔力を伝播して会話をする事が出来るようだ。


「連れて来て」


『えっ!?』


「お連れは殺したわ。連れて来て」


◇◇◇


 シアンとヴィクリムに伴われてジーオはイズミの部屋へと案内される。


 ジーオはイズミの足元に転がる人型の炭を、イズミはジーオの右腕を見てそれぞれ眉を寄せる。


 少しの沈黙の後で、先に口を開いたのはジーオだった。


「……殺したのか?」


 余りに身勝手な非難に聞こえて、イズミはクスリと笑う。


「じゃああなた達は何をしに来たの?」



「世界を……救いに来た」


「言葉を変えないでよ。私を殺しに来たんでしょ?」



 イズミの金色の瞳は冷たくジーオを見る。


 その背中には黒い翼が見える。


 ジーオの言葉を待たずにイズミはヴィクリムに問う。


「他の人は?」


「ワタクシの所は腕が13本ありましたねぇ」


「私は2人。この人と、多分それ」


 そう言ってシアンは人型の炭を指差す。


 合計8人の決死行は残すところジーオ1人となる。


「そう」



 感情を出さずに短く返事をして魔王は頷くと、ジーオの失った右腕にチラリと目をやり口を開く。


「ねぇ、ジーオ。戻ったら世界中に広めてくれる?」



 イズミは初めて自分の意思で黒い翼を動かす。


 フワリと一度羽ばたかせると、その風は燃えさかる二色の焔を一瞬でかき消す。


 そしてズズっと音がしたかと思うと、イズミの部屋の天井が斜めに切断されて自重で地面へと落下していく。


 いつの間にか空の端から日は昇り、優しく城を照らしだす。



「もう二度と私に構わないで。それでも私を殺すつもりなら……、もう滅ぼされても文句は言わないでね」


 ニッコリと優しく、諭すようにイズミはそう言った。


 

「以上よ。戻してあげて、シアン」


「えっ!?正気ですか!?」


 驚きの声を上げるシアンに耳打ちをするヴィクリム。


「……伝えてって言ってるじゃないですか。殺したら伝達できないでしょうが」


「もうっ、わかってるよ!王都でいいかな?じゃあね~」


 グニャリとジーオの周りの空間が歪み、次の瞬間には彼の姿は消えた。



「……シアン、お城ごめんね?」


 自ら斬った天井と、焼け焦げた城を見て悲しそうにイズミは呟いた。


「そろそろお引越ししようかな、って思ってましたから。丁度良かったです」


 シアンはニッコリと微笑んだ。







 



 







  


 

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