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魔王軍に村を焼かれた俺、今日も元気に幼馴染勇者を後方支援~草をむしれば魔王が滅ぶ~  作者: 竜山三郎丸
魔王と薬売り

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勇気を与える魔物の王

◇◇◇


「イッズミっ様ー、あっさでっすよー」


 寝室のカーテンを勢いよく開けられて、部屋に差し込む朝の日差しにベッドの上の塊がもぞりと動く。


 お姫様のような天蓋のついたベッドは年代物ではあるが、手入れが行き届いている。


 ベッドの上の塊は一度動いた後また動きを止める。


 百獣姫シアンは小さくため息を吐くと、左手をあげる。


「はいはい、生まれ変わっても変わらずお寝坊さんですね~」


 空間がぐにゃりと歪み、鶏が13匹現れる。


「せーのっ」


 オーケストラの指揮者の様に両手で合図を出すと、13匹の鶏の大合唱が起こる。


『コッケコッコー!』


 布団の塊は一瞬ビクッと動き、もぞもぞと迷惑そうな顔をしたイズミの顔が覗く。


「……おはよ」


「ご飯できてますよ」


「んー、行く」


 大きな欠伸をして手櫛で髪を梳かす。



「今日はこの子達の卵料理です」


 そう言ってシアンが鶏の頭を撫でると、鶏は短く一鳴きする。


 1年前、交易都市シャヤルから消えたイズミは、それからずっと人里から遠く離れたとある秘境にある百獣姫シアンの居城に居候している。


 かつての魔王の居城は、300年前の決戦の後各種封印がなされ魔族不毛の地となっているようだった。



「おはようございます、イズミ様。今日もお変わり無くお美しい。ウヒヒヒヒッ」


 すっかり給仕として板についた獄殺卿ヴィクリムが朝食のテーブルセッティングを行っていた。


「はいはい、ありがと。おはよ」


 まだ寝ぼけ眼のまま獄殺卿のひいた椅子に座る。


「今日の朝食は時計鶏の卵のオムレツと季節の野菜のサラダでございます」


 両手を合わせて、『いただきます』と声にする。



 シャヤルでの暴走から1年、イズミは自分でも不思議な程魔物たちとの暮らしに馴染んでいた。



◇◇◇


 最初の3ヶ月の間、イズミはずっと部屋に閉じこもり水も食べ物も一切摂らなかった。


 不死である魔王がそんな事で死ぬはずが無い事は分かっている。だが、何を食べる気にもならなかったし、それにより自分が人間で無いことを再確認しようとしたのかも知れない。


「イズミ様ー、お食事置いておきますよー……」


 毎日毎日、扉の前には作り立ての温かい食事が置かれているが、それに手が付けられる事は無かった。やむにやまれず人から離れはしたが、魔物に肩入れをするつもりも慣れ合うつもりも無かった。


 自身がどういう状態なのかもわからない。人間なのか、魔物なのか。


 これからどうすればいいのかも何もわからず、ただ与えられた部屋にずっと閉じこもっていた。


 叶わぬ口約束とは知りながら、『迎えに行く』と言ったシロウの言葉だけが唯一の支えだったが、近くにいればいる程その者の命を食らってしまうその身体で、どう迎えられたらいいのかもわからない。

 

 

 イズミは一歩も部屋から出ず、シアンは日に三度決まった時間に毎日毎日食事を運び続けたが、冷たくなった食事を下げて、温かい食事と交換するだけの日々が続いた。



「うーん、どうしたものか」


 ある日、シアンが献立に頭を悩ませているとえらく上機嫌なヴィクリムが街から戻る。



「ウヒヒヒッ、シアン!見つけましたよ、これ!この新聞記事!」


「新聞~?引きこもりのお子さんへの献立特集とか言ったら追い出すよ、あんた」


 汚物を見る様な視線をヴィクリムに向けるシアン。


「何ですか、そのピンポイントな特集は。そんなんじゃありませんよ。ホラ、これ!昔のイズミ様の特集記事!」


 交易都市シャヤルでの一件より前に発行されたその古新聞には、イズミのインタビューが載っていた。


『最近はうちのギルドで委託販売している特製ポーションにハマっています。市販の物より後味がすっきりしててお勧めですよ。あっ、でもあんまり皆が買うと……私の分が』


「これだ!」


 

 数日後、食事と台車一杯のポーションを載せてイズミの部屋を訪れるシアン。


「イズミ様~、元気が無いときはポーションに限りますよ~。あっ、なんとたまたま!クズーリの街のギルドで買ったポーションがたっくさん!早いもの勝ちですよ~!」


 少しでも気を引こうと元気に声を上げるが、返事は無い。


 シアンは大きく溜め息を吐く。


「もーいーですよ。全部飲んじゃいますからね!いっただっきまーす!」


 そう言って一本瓶を開けると、ゴクゴクゴクと一気に飲み干す。


「ぶはー、おいしいっ!次はこの新商品ての飲んじゃいますからね!遠慮会釈無く!一本残らず!」


 今まさに瓶を開けようとしたその時、キィと微かな音を立てて少しだけ扉が開きイズミの目だけが見えた。


「イズミ様!」


「……別に、ポーションに釣られたわけじゃないから。ずっと閉じこもっていても、何にもならないから」


 シアンは満面の笑みでポーションの瓶を差し出し、嬉しさを抑えきれずにハイテンションで言葉を連射する。


「理由なんて何でもいいんです!イズミ様が出てきてくれれば!早速ご飯にしましょう!あっ、その前にお風呂ですかね!?だって三か月間も入っていないですからね!とっても臭……あれ!?臭くない!さすがイズミ様!あはは」


 魔王四天王と言う大仰な肩書きにそぐわない無邪気なシアンにイズミも困惑する。


 ほんの3か月前までは、彼女らを殺し、自身も死ぬ覚悟で旅をしていたのだ。


 


「……あなた達は、何で人間を殺すの?」



 子供の様に真っすぐで、単純な疑問が口を付いて出た。


 シアンは困った顔で首を傾げる。


「まだ理解してもらえるかはわかんないですけど、多分人間達が動物を殺す感覚に近いと思いますよ?」


 食べる為に、危害から、侵略から守る為に。


 勿論カカポ村を襲った四天王ジギと同様に、愉悦や快楽の為に殺すものもあるとシアンは言ったが、言い訳の様に『それは人間も同じですよね?』と申し訳なさそうに言った。


「誤解の無いように言っておきますけど、私ら別に人間を滅ぼそうなんて思っていませんからね?つまんないじゃないですか、いなくなったら」


「でも、サラスラットでは殺したわ」


「夜はいいんです」


 悪びれずにシアンは笑顔で言い、イズミは眉を(ひそ)める。


「何よ、その勝手なルールは。誰もそんな事言って無いわ」



「言いましたよ。人間達が語り継いでいないだけじゃないですか」


 むっとした様にシアンは言い、言葉を続ける。


「かつて魔王様と人間の王が決めたんです。互いに相容れぬなら、人間と魔物で世界を半分に分けよう、と。昼と夜、その二つの世界に分けようって。だから私達は基本的には昼間は人間に干渉しません。勿論降り注ぐ火の粉は払いますけど」


 シアンが言うには、もう千年以上前に決めた盟約だそうだ。


「もし、イズミ様が望むのなら――」



 魔王四天王の一人、百獣姫シアン跪き真っすぐにイズミを見上げる。


「今後一切、魔物は人間を攻撃しない事も約束させられます。己が身に火の粉が降りかかろうとも、我が子が目の前で八つに裂かれていようとも」


 真っすぐなその瞳をイズミは直視できず目を逸らしてしまう。


「う……嘘よ。そんな事したら一方的に殺されるだけだわ」


「あなたがそれを望むなら」


 はっきりとした口調で、シアンはそう言い切った。



 イズミは言葉を継げなかった。


 シアンはニコリと笑い、ペコリと頭を下げて廊下の先を手で示す。


「今じゃなくても、いつだっていいんです。お風呂、行きましょ」



「待って」


 部屋を出る前に、イズミは言葉を振り絞る。


「……私は魔王じゃないわ」


 驚いた顔もせずに、シアンはニッコリと満面の笑みを見せる。


「知ってます。でも、生まれ変わりなんです。私達の大好きだった、魔王様の」


 シアンは俯くイズミの顔を覗き込む。


「イズミ様は好きな人いたことあります?」


 驚いた顔をした後でイズミはコクリと頷き、シアンも満足げに頷く。


「同じです。想像してみて下さい、イズミ様が長生きしてその人の生まれ変わりに出会った時の気持ちを」


 言われるままに想像すると、ツッと頬を涙が伝った。


「えっ……あっ!すいません、どうしたんですか!?変な事言いました!?」


「うっ……ううん!何でもない!……何でもないの」



 イズミは袖で涙を拭い、部屋から一歩足を踏み出す。


 この日から、魔物たちとの暮らしが始まった――。

 


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