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魔王軍に村を焼かれた俺、今日も元気に幼馴染勇者を後方支援~草をむしれば魔王が滅ぶ~  作者: 竜山三郎丸
魔王と薬売り

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新たな勇者の物語

◇◇◇


「シロウ、起きなよ。朝だよ」


 薄ぼんやりとした意識の中で、イズミに起こされた気がした。


「……んが。……イズミ」


「寝ぼけてるんじゃないよ。朝だって。ジーオに呼ばれてるんだろ?」


 工房の机で目を覚まし、大あくびをして背伸びをする。


 目の前には白蛇のハクが呆れ顔で俺を見る。


 イズミは居ない。



「……眠るなら火消して寝ないと危ないよ」


「あー、平気。水も中に入ってるから」


 工房の宙には丸い風魔法の球が三つ浮かんでいて、ぐつぐつと夜通し煮込みを続けていた。


 ホムラ式真空二層式圧力釜魔法……、結局いい名前が思いつかず『ホムラ壱式』と登録してしまったがあまり後悔は無い。


 パチンと指を鳴らすと風、水、火の魔法が消えて抽出された液体だけが残り、そのまま下に置かれた容器へと落ちる。


 

 俺はもう一度欠伸をして、頭をかく。


「風呂入ってく」


「ならもっと早く起きればいいのにさぁ」



 白蛇の苦言を聞こえないふりをして、俺は浴室へと向かう。



 イズミが居なくなって1年が経ち、俺は明日16歳になる。



「なぁ、ハク知ってるか?俺明日誕生日なんだぜ」


 身支度をしながらハクに問うが、ハクはうんざりとした顔で俺を見る。


「知ってるよ。嫌と言うほどイズミに聞かされてるから。だから、君が思う以上に僕は君の事知ってると思うよ」


「え、マジで?他はどういう事言ってた?」


「それは本人に聞きなよ」


 イズミが居なくなったが、ハクはイズミについていかずに残った。ハク曰く、『シロウをお願い』って頼まれているそうだ。


 本来は、伝説のハクアの剣の封印と守護を司る神獣なのだそうだ。先代勇者と魔王の戦いの頃はハクの母がその任に就いていたそうで、神獣としては比較的若いハクはその頃の事を知らないらしい。


『イズミには、恩があるからね』と言い、ハクは一人訳知り顔で頷いた。


 俺はよく考えるとこいつの事をよく知らない。エビフライが好きなのか?くらいのものだ。


「準備できた?じゃ、行こうか」


「よろしくおねがいしまーっす」


 ハクは身体を輪にして神獣同士の繋がる異空間を出し、俺は手を伸ばす。



◇◇◇


 魔王の顕現により、世界情勢は一変した。


 事もあろうに『魔王』を『勇者』として認定・喧伝した各国の発言力は低下し、殊更イズミ達の母国であるクアトリア王国の威信は地に落ちたと言える。そんな中で、各国が魔王を討伐する為に自国の勇者を擁立したのは、魔王亡き世界の主導権を握ろうと言う魂胆も働いての事だろう。クアトリア王国もその例外では無く、新たな勇者の擁立を行おうとしていた。


「やぁ、お早う。いい陽気だね」


 爽やかな笑顔を向けるジーオをまぶしそうに目を細めてみるシロウ。


「おはっす。何の用っすか?」



 ジーオはジッと暫くシロウを見ると、言い辛そうに口を開く。


「遅ればせながら我が国も魔王討伐に向けた隊を編成する事になった」


 一瞬ムッとしたシロウだが、ジーオに怒ってもしょうがない事は分かっている。


「まぁ、そうなりますよね。別にジーオさんが悪いわけじゃないっすよ。今やどの国も勇者だなんだって乱立してますもんね。あ、じゃあうちの国は『元祖』とかって付けたらどうっすか?ははは」


「……君が望むなら、そう付けよう」


 へらへらと軽口を叩くシロウとは対照的に重い表情でジーオが言うと、シロウは自身を指さし首を傾げる。


「何で俺が?」


 ジーオは一枚の証書を取り出し、両手で開きシロウに見せる。


「議会で君を次の勇者にするとの承認が下りたからだ」


 シロウは明確に不服そうな顔をして、ジーオを睨む。


「もう一度言いますね。何で俺が?」


「君が伝説の光属性の持ち主であり、カカポ村の生き残りだからだ」


 はっきりと強い口調でジーオはシロウに告げる。



 シロウはハクをチラリと見た後で、大きくため息を吐き呆れ笑いを浮かべる。


「つまり、俺にイズミを殺せと?出来ると思います?実力的にも、心情的にも」


「……魔王は不死だ。殺すのではなく、封印する事になると思う。僕とカルラも支援をする」



「なるほど。四極天の二人が付いてくれれば心強いっす。あれ?ナシュアさんは?」


「ナシュアは四極天を降りたよ。防衛には協力してくれるけれど、積極的にイズミを追う気にはなれないそうだ」


 その結果、四極天として与えらえれた地位や財産は全て国に返上する事になったそうで、二人の引き留めにも頑として首を振らなかったらしい。


「で、俺はどうすればいいんすかね?」


 シロウの返事に安堵の息を漏らし、ジーオは口を開く。


「明日、広場で国民に向けて新たな勇者として所信表明の場を設ける。必要なら文面はこちらで用意する。どうか民の不安を(そそ)ぎ、希望を与えて欲しい」


「一応、確認しますね。……ジーオさんにとって、今のイズミは何ですか?」


 薄笑みを浮かべて問うシロウ。


「彼女は多くの民の命を奪った。……それ以上は言わせないでくれ」



 それを聞いてニッコリとシロウは笑う。


「了解っす。じゃ、文章考えて貰っておいていいっすかね」


「あぁ。君の決断に感謝する。今日は城に泊まっていくといい。最大限のもてなしをさせてもらおう」


「まじっすか?ありがとうございまーす」



◇◇◇


 折角なので、夕飯まで王都をぶらぶらと歩く。


 貴族たちが住む高級住宅街の一角は取り壊し中で、そこはかつてイズミの屋敷だった所だ。ほんの数日間だけ俺も暮らしたことのある豪邸が、比喩でなくある種の憎しみを感じさせる壊され方をしていた。壁には落書きや、汚物の後があり、窓はほとんど投石によって割れている。少しではあるが、焦げ跡がある事から放火されたのだろうと窺える。


「ひどい事するよねぇ」


 ハクは悲しそうに屋敷跡を見る。


「な。あんなに綺麗な屋敷だったのに」


 あの屋敷で働いていた人たちはどうなったのだろう?


 もしかすると、年に数度しか帰ってこないイズミの為に屋敷を整えてくれていたあの人らでも、イズミに対して石を投げるかと思うととてつもなく悲しい気持ちになった。今度来るときにはまたカカポ村の郷土料理を作ってくれるって話だったけれど、きっとその今度は来ないのだろう。



 俺とハクはしばらくの間屋敷を眺めていた。




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