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魔王軍に村を焼かれた俺、今日も元気に幼馴染勇者を後方支援~草をむしれば魔王が滅ぶ~  作者: 竜山三郎丸
勇者と薬売り

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目指したきっかけ

◇◇◇


 資格停止中は、とにかく本を読んだ。草を摘むことも調合することもできないが、学ぶことはできる。

 祖父が残した薬草や毒草、調合、道具の知識の詰まった本たち――中には古代文字や外国語で書かれたものも多かった。

 まずは、イズミがくれた古代文字の教則本から始める。やらないよりは、きっといい。


 イズミは毎日決まった時間に食事を持ってうちに来て、黙って本を読んで決まった時間に帰った。


 何か罪悪感のようなものを感じているのならお門違いと言ったところだが、自意識過剰のような気もするのでわざわざ口に出すことは無い。


 

「こうしてると子供の時みたいだね」


 5日目の昼時、イズミの買ってきた肉野菜炒め弁当を食べていると突然イズミはそう言った。イズミのお弁当は鶏肉の香草焼きだ。


 5日目と言う事は、同じ時間俺も言葉を発していなかったと言う事で、声を出そうとしたが最初は息しか出なかった。


「……ゴホン。あー、あっ!ああっ!」


 発声練習をする俺を見て眉をひそめるイズミ。


「何の物真似?」


「あー、あー。マーマーマーマーマー。真似じゃねぇよ。久しぶりに声を出したから声が出なかったんだよ。つーかお前は何で普通に声が出るんだ?」


「家では普通にハクと話してたもん」


 イズミに巻き付いている神獣・白蛇のハク。


 特に口を挟むでもなく、コクリとどこが首かわからない首を縦に振る。



「子供の頃って言うのは、カカポ村か?それともこっちに来てからか?」


「どっちも。分ける実益ある?」


 イズミの言いたいこともわかる。


 俺たちの生まれたカカポ村には山間の僻地にあった田舎町なので、年の近い子供は俺とイズミしかいなかった。なので丁度こんな風に二人で遊ぶ事が多かったし、この街で爺ちゃんに引き取られて最初の何年かイズミは足しげくここに通っていたのだから。


 イズミにとっては、それは両方……更に言うと今も同じなのかもしれないと思った。


 要するに、線を引いたのは俺なのだ。


 勇者前、勇者後、だ。



 俺は大きくため息を吐く。


「ないね。全くない」


 今まで考えもしなかったのが愚かにもほどがあるのだけれど、俺は勇者ではないイズミを知っている唯一の人間なのだった。


「ねぇ、シロウ」


 イズミを見ると、寂しそうな、どこか困った様な顔をしていた。



「私本当は勇者なんかじゃないんだよ」



「イズ……」


 ハクがイズミを呼ぼうとして何故か口をつぐんだ。


 イズミが言いたいことはきっと、私は『勇者イズミ』では無く、『カカポ村のイズミ』だと言う事なんだろうと思う。


 俺はコクリと頷く。


「分かってるよ。イズミはイズミだ」


 

 イズミは嬉しそうに笑う。


「ありがと」



 そしてまた鶏肉の香草焼きを切り始める。


 昼飯を食べて、また読書に戻り、夕方頃になるとまたイズミはふらりとお弁当を買いに行き、それを食べると家に帰る。


「また明日ね」


「おう」


 昨日までは完全に無言だったが、今日からは挨拶が追加された。


 どうやらまた明日も来るらしい。


 他の三人の四極天(しきょくてん)には悪いけれど、少し気持ちがお疲れのようだから休んでもいいんじゃないかと思う。


◇◇◇


 イズミ・キリガミヤの屋敷はシロウの住む街クズーリの高台に見える豪邸だ。


 勿論本人が望んだわけでは無く、国王から支給された使用人付の豪邸であり、別宅の扱いである。本宅は王都の高級住宅街の一等地にあり、そちらにも沢山の使用人がいる。

 

 王都の家にイズミが『帰る』事は年に数回あるか無いかなので、多大な国費の無駄使いと言える。


 クズーリのキリガミヤ邸は高台にあるので、歩いて向かうのは中々に骨が折れる。その為、街のどこいいてもイズミが呼べば馬車が来るようになっているのだが、イズミがそれを使うことはまずない。


「ただいま」


 入り口の門を守る門番にニコリと挨拶をするイズミ。


「おかえりなさいませ、キリガミヤ様」


 広い屋敷内を歩き、自室のベッドに寝転がる。


「ふー」


 白蛇のハクが心配そうな顔でイズミを見る。



「イズミ。今日は冷や冷やしたよ」


 イズミはベッドに顔を埋めながら答える。


「シロウは大丈夫だよ、絶対」


「僕だってそう思うよ。でも、ダメだ。少しでも君に危険が及ぶような事はして欲しくない。ま、勝手に何か分かった風に思ってくれてよかったけどさ、あのバカ」


 イズミはベッドから顔を上げてハクを睨む。


「シロウを悪く言わないで」


「はいはい、わかったってば」


「……魔物たちの動きはどう?」


「んー、今の所特段異常はないね。もう少し休暇を楽しんだらいいさ」


「そっか。ありがと」


「どういたしまして。心配しなくても大丈夫だよ、僕はずっと君の味方だからさ」


「はいはい、ありがと」


「……感謝が乏しいなぁ」


◇◇◇



 結局、俺の資格停止が終わるまでの間毎日イズミは俺の家にやって来た。


 それまでの間はほとんど口も開かずに互いに黙々と読書をするだけだったのだが、最終日は逆にずっと話をしていた。


「シロウは何で薬師になったの?」


「何で……って。忘れたよ、そんなもん。何となくだ。」


 と、言うのは嘘だ。


 本当は明確に覚えている。


 村が滅んで、この街で目が覚めて、傷だらけのイズミを見た時に思ったんだ。


 本当なら『俺が守る』とか思ったらよかったのかも知れないけど、『俺が治してやる』って。



 次第にイズミが怪我をする事も無くなり、その時の気持ちも薄れてしまっていたのかもしれない。


「……カルラに感謝だな」


「やめなよ、調子に乗るから」


「出発一日待てる?」


 イズミはチラッとハクの反応を見てから頷く。


「うん。……珍しいね、引き留めてくれるなんて」


 何故か少し照れながらイズミは言った。


「今日で資格停止終わるだろ?明日薬作るからさ、それ持って行けよ。……俺の決意表明ってやつだ」


 イズミは嬉しそうに大きく頷き、元気よく返事をした。


「うん!」



 何年もイズミが怪我をした事なんてない。


 でも、だからと言って俺が薬を作らない理由になんかならないはずだ。


 薬と、ポーションと、後は湿布でも作ろうか。


 何だか楽しくなってきたな。


 





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