穢れなき人
穢れなき人
◇◇◇
魔王関係の何かの封印を解く材料として、我らが英雄『四極天』様方は、ここシュゲール高地にて幻獣モノケロースを探していた。
爺ちゃんが昔言っていたが、モノケロースとは古来ユニコーンを指していたようで、今回の情報のソースが古の伝承なのであれば納得と言ったところだ。
「おう、小僧。他に何か爺ちゃんが言っていた事はないだろうな?」
四極天の一人『武の極致』ナシュアが何故か腕を組み俺を威圧している。
「いや、爺ちゃん色々言ってるんでたくさんあるんですぐには思いつかないっすけど」
「かーっ、使えねぇ小僧だ」
「ナシュア」
イズミは威圧感を抑えずにジッとナシュアを睨んでいる。
「シロウへの侮辱は私への侮辱と捉えるわ」
「お……おう、以後気を付けるぜ」
「シロウ、ごめんね。気にしないで。彼うちの珍獣枠だから」
イズミはニコリと俺に微笑む。
「……珍獣枠ってなんだよ」
パンパンと手を叩き、場を纏めるジーオ。
「よし、それじゃみんなで手分けして早いとこ探しちゃおうか」
口々に『おー』とかそんな声を挙げ、野営の片付けを始めて探索の準備をする。
ん?そう言えば確かユニコーンって……。
「あ、ちょっといいっすか?」
「おおっ、来たね?お爺ちゃんの豆知識?」
寸胴を洗いながら黒衣の魔女風の出で立ちの『知の極致』カルラが笑う。
「確か爺ちゃんが言ってたんですけど……」
「あはは、爺ちゃん何者~?」
カルラがケラケラと笑う。
思えば草や薬以外の事もたくさん教えてくれていたんだな、と改めて思う。
街にずっといたら気が付かなかったかもしれない。
「ユニコーンって、確か……汚れなき乙女を好むって」
「汚れなきって――」
そう口にして首をひねったところでジーオは気付いたようで、賢明にも言葉を止める。
だが、次の瞬間その気遣いはナシュアの大声で意味を失う。
「処女か!」
シンと一瞬静まり返る一同。
そして、カルラの声がその静寂を破壊する。
「あ……あっ、あぁ!そっかぁ。じゃ私だっダメだね~。あはは、ごめんね~力になれなくて!あはは」
赤い顔でひきつった笑いを浮かべ、白々しくカルラは否定する。
「嘘くせぇ。……何に対してのアピールだよ、一体」
キッと赤い顔でナシュアを睨むカルラ。
「うっさい!ねぇ、シロウくん。汚れなき男性でもいいんじゃないの?男女平等だよ、男女平等。ナシュアでいいじゃん」
「るせぇ!」
「あ、慌ててる。まじっぽ~い」
武の極致と知の極致のやり取りを見て、あきれ顔でため息をつく技の極致ジーオ。
「まったく……、止めなよ二人とも」
ギャアギャアと罵りあう二人をジーオがなだめる。
そんな中『人の極致』ことイズミ・キリガミヤが赤い顔で俺の袖を引く。
「……わっ!私に任せて」
「ん?おぉ。気合入ってんな。汚名返上か」
横で白蛇のハクがため息をついたが、毎度の事なので特に気にしない。
◇◇◇
取り合えず、作戦としてはユニコーンを見つけたらイズミを呼ぶ、という形になった。作戦と言うほどのものでもないか。
「基本凶暴らしいんで、気を付けてくださいね」
俺の忠告を鼻で笑うジーオさん。
「僕が?」
「……いや、ユニコーンさんかわいそうなんで」
「私ほんっとあなたのそういうところ嫌い」
露骨に嫌そうな顔でイズミが言うが、ジーオは全く意に介さないさわやかな笑顔で手を振り探索に移る。
みんなそれぞれ探索に散るが、俺は安全上イズミと一緒だ。
2人になると途端に静かになる。
「……賑やかな人らだなぁ」
それを聞いてイズミもクスリと笑う。
「でしょう?あれで意外と頼りになるんだから」
「んー、なんとなくわかる」
「ふふ、私はラッキーだよね。周りには頼りになる人ばかりいるんだもん」
俺は腕を組んで訳知り顔で頷く。
「まぁそれもお前の人徳だよな、うん」
少しムッとした顔で俺を見るイズミ。
「シロウはさ、……ナシュアの事は全く覚えてないの?」
「あぁ。さっきも言ったけど俺気絶してただけだからな。気が付いたらベッドの上だったよ」
何日か経って目を覚ますと、ベッドの横でイズミが泣きながら座っていたのは覚えている。
「……ふーん。そっか」
「覚えてないけど、本当に感謝の気持ちで一杯だよ」
「あんまり言うとすぐ調子に乗るから程々にね」
「了解~」
◇◇◇
色々植物を眺めながら、森を散策する。
「シロウは動物には興味ないの?」
栗鼠のような小動物を眺めながらイズミは言う。
「薬の材料としての興味はあるけど、飼育とかは興味ねぇな」
「……あ、そう」
「ユニコーンの角俺にも少しわけてくれよな。何かに使えそうだから」
「うん、大丈夫だと思うけど……」
そんな話をしていると、何かの気配を察して急に振り返る。
――まさか!?
遠く離れた木々の隙間に微かに見える湖のようなきらめき。
俺には何も見えないがイズミには見えているのだろう。
「行こう!」
「おう!」
出来るだけ驚かさないように、ゆっくりと、でも逃がさないように速やかに。
幸い俺が視認できる距離まで近づけたが、ちょうどその辺りでユニコーンもピクリと反応をする。
これ以上近づくと逃げるのか?
「……シロウはここにいて」
イズミはそう言うと、一人でユニコーンに近づく。
ユニコーンはジッとイズミを見据えながら警戒を続ける。
「敵じゃないわ。少しだけ、角を分けて欲しいの」
イズミは近づく。
ある程度の距離まで近付いたところで両手を広げる。
「おいで」
すると、ゆっくりとユニコーンは近付いてきて、イズミの手に頭をすり寄せて鼻を鳴らす。
「あはっ、よしよし。いい子ね」
イズミはユニコーンの首を撫でる。
ちらっと俺を見てにこっと笑い小さくピースサインを作る。
ふーっと、大きく息を吐いた。
やれやれ、一安心だ。
「ごめんね、角少し貰って良い?」
ユニコーンが頷いたように見えたのは人間の勝手な解釈か?
だが、イズミも微笑んだのできっとそうなのだろう。
「ありがと」
そして、幻想的なその光景は次の瞬間消え去る事になる。
「あっ!馬もどき発見!おーい、いたぞ!」
ナシュアの大声が響く。
ユニコーンは急に立ち上がりイズミを払って駆け出す。
「あっ!……もうっ!ナシュアのバカ!」
「おっ、お前いたのか。がはは、ここは俺に任せとけ!首根っこ捻ってとっ捕まえてやるよ」
ユニコーンは嘶きながらナシュアに向けて猛烈な勢いで突進する。
イズミはユニコーンを心配して声を上げる。
「バカ!傷つけないで!」
「ははは、それはコイツの態度次第だ――」
ユニコーンはナシュアに近付くに連れて速度を落とし、ブルルッと鼻を鳴らしながらすり寄っていく。
「……は?」
俺もイズミも、ナシュアも呆気に取られる。
「あー……、清らかな……汚れ無き?」
「るせぇ!離れろ、馬もどき!」
「ふふふっ、早くカルラ呼ばなきゃね」
ナシュアが押しのけても、ユニコーンは何度でも身体をすり寄せていた。




