第75話 アズラン、取り替え作業
こちらは5人の人造人間を連れて、ターゲットたちのいるところへ戸別訪問中のアズラン。
クロカン車をテレビ局近くの駐車場に入れ、最初の一人、替え玉1号を連れてテレビ局の中に入っていく。替え玉1号は恰幅の良い大柄のじじいである。アズランはじじいの後ろから小声でじじいに指示を出して歩いている。その取り合わせが、妙にアンバランスなので人目を引く。しかもアズランの肩にはオブジェと化したフェアが座っている。
二人が出て行った後の車の中では残りのジジ・ババがシートベルトをしたまま会話することもなくおとなしく座っているところが、実にシュールである。
テレビ局の正面玄関を入ると見学者用のコースが設定されていて、外部の人間はそのコースを巡るようだが、ターゲットは当然そういった見学コース上にはいない。ターゲットの位置は、ターゲットに取り付けられた発信器からの情報を元にトルシェのサーバーで解析した結果を画像化したものがアズランの伊達眼鏡にリアルタイムで送られている。
それによると、ターゲットの現在位置は最上階の社長室だ。
ということで見学のコースの方には向かわず社員専用の通路に入っていく。もちろん社長と入れ替わる予定の人造人間1号がアズランの前を歩いているので、通りかかる社員たちは目礼して通り過ぎていく。人のいる場所でターゲットとばったり会ってしまうと対応が面倒になるが、ターゲットの現在位置が分かっている以上、そういったアクシデントは予防できる。
通路を歩いている一般社員は、首から社員証を下げていたが、社長が社員証を下げていないことを見咎める一般社員はいなかった。それはそれでセキュリティー上問題なのだろうが、人造人間1号が本物と入れ替わったら徹底していけばいいとアズランは心の中でメモを取った。これはダークンにはないアズランの特技である。
社員証をドア開閉用のカード読み取り機にかざさないとエレベーターを降りて各階の仕事場に続く通路への扉は開かないのだが、社長室のある最上階にはそういったものはないことは、以前下見に来た時に確認している。そういった扉を通る必要がある場合には、トルシェが作ってくれた万能カードキーで突破できるので安心だ。
万能カードキーには0から9までの数字が書かれており、今回の場合は最初のターゲットなので1と書かれた位置に指を当てると、ターゲットの会社内のサーバーから盗み出したしたターゲット情報のうちのカード情報が万能カードキーに書き込まれる仕組みになっている。すでにここ数日で入れ替えを予定しているターゲットのそういった電子情報もトルシェとアズランのコンビで入手している。
エレベーターで最上階に上がり社長室のある通路に入っていく。この会社の場合、最上階の半分は役員室が並んだ一画で、残りは社員食堂になっている。役員室の並んだ通路には赤いじゅうたんが敷かれており、足音はしないようだ。
役員室の並びの一番奥は会長室だ。この会社の会長は飾りのようなもので、ほとんど実権は今の社長が握っている。その手前が社長の部屋でターゲットはちゃんと部屋の中にいるようだ。
トルシェのサーバーから送られてきた情報によると、現在ターゲットは一人で部屋の中にいるようだ。これまでアズランは自分の知覚力だけでターゲットの状態を判断していたのだが、今回トルシェに作ってもらった眼鏡はことのほか便利なので、これから先、眼鏡に頼って自分の知覚力が鈍るのではと心配になるほどだった。
今のようにターゲットが一人で個室にいてくれた場合はもっとも簡単な状況なので、アズランが先になってノックもせずに社長室の中に入っていく。1号が後ろ手でドアをしめたところで、机の上に広げた書類を眺めていた社長が顔を上げた。
「うん?」
ノックもなくドアが開き、見知らぬ美少女と、身なりの良いおっさんが部屋の中に入ってきたことに、中にいた社長が不審な顔をして二人をじっと見る。不思議なことに身なりの良いおっさんの顔つきは自分の顔によく似ている気がする。
「きみたち、誰だ?」
アズランは何も答えず、
「コロちゃん、あのおっさんを食べちゃって。服はちゃんと残して食べてね」
すぐにアズランのベルトに擬態していたコロから不審な顔をしてアズランたちを見ている社長に触手が数本伸びて、ほぼ一瞬で社長はコロに吸収されてしまった。
「そういえば、対象の中に悪魔が恩恵を与えた能力者?がいるかも知れないってダークンさんが言ってたけど、一瞬でコロちゃんが食べちゃったから区別できなかった。
コロちゃん、どうだった?」
アズランがコロに尋ねたところ、ベルトに擬態中のコロがぎゅっとアズランのお腹を軽く締め付けたことは分かったがそれが何を意味するのかはアズランにはわからなかった。
「まっ、どうでもいいか」
今回コロは中身だけ吸収したので、ターゲットの衣服はスポンと取り残されている。すぐに人造人間1号は裸になってターゲットの着ていた衣服を身に着けた。1号の着ていた衣服はアズランが回収して収納キューブに収めている。
「1号、あとは任せたから」
「はい」
アズランはそのまま社長室を出ていき、そこからはアサシン本来の能力である気配消去を使って、誰に見咎められることもなくテレビ局を後にして駐車場に戻った。
そして、すぐに次のターゲットのもとに人造人間たちを乗せた車は走り去っていった。
ターゲットのいる会社ではほぼ間違いなく防犯用のビデオカメラがいたるところに設置されているのだが、ダークンを含め人外のものはデジタル機器では判別できるような撮影はできない。もちろんトルシェの作った人造人間も立派な人外であるため同じように撮影できないのだが、ターゲットと入れ替わった後にその状態だと問題となる。
そのことに気づいたトルシェが皮膚の上に貼り付けているテクスチャーを改良してデジタル機器での撮影を可能にした。ただ、内臓など人造人間は持っていないのでレントゲンは今のところNGだ。もちろんレントゲンに限らず健康診断全般NGではある。
放っておいても人造人間の中身のオブシディアン・スケルトンは500年は元気いっぱいだそうなので、適当なところでこの世から退場させる必要がある。外身のスライムは50年ほどで朽ち果ててしまうので、放っておくとスライムの残骸が体からはがれ落ちるまで、何年間かゾンビそっくりになるらしい。




