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秘密結社、三人団 -神の国計画-  作者: 山口遊子


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第73話 『神の国計画』のキモ

ここから、一応第2部となります。


 正午少し前に、みんなで下の飲食店街に繰り出して適当なレストランで昼食をとった。


 みんなと簡単に言っているが、現在俺たち三人団の3人と大家の涼音に居候改めノートパソコンで充電中・・・の白鳥麗子。なぜかランニングに熱中しているメッシーナとフラックス。それに花子の8人だ。結構な大所帯である。この俺を筆頭にいずれも美人、美少女だ。特にトルシェとアズランは色白で西洋人顔。メッシーナも色白で完全な西洋人。


 その8人がレストランの一画を占めて飲み食いしているものだから結構人目を引く。しかも、トルシェとアズランは肌の色がとびぬけて白いので、北欧あたりの中高生だと言われても違和感はない。その二人が景気よく濃い酒を飲むわけだ。よく通報されないものだと感心する。


 これまで相当な金額をここの飲食店街に落としているので、かなりの上客であることは間違いない。俺の両手はちゃんと目で見えるが、神の見えざる手(・・・・・・・)で俺たちは保護されているのだろう。



 昼食を終え、そろって涼音のマンションに戻ったところで、アズランは完成している人造人間《ジジ、ババ》たちを連れてくるために奥の拠点に向かった。いよいよ午後から、ターゲットと入れ替えていくことになる。


 アズランの後を追うような形でメッシーナとフラックスも奥の方に走っていった。白鳥麗子もソファーでゆっくりしようという俺や涼音に構わず、トルシェを追い越すような勢いで奥の大広間に急行していった。ノートパソコンに向かったのだろう。結局トルシェが一番遅れて奥に引っ込んだ。


 奥の拠点に一度引っ込んだアズランが5人の人造人間《ジジ、ババ》たちを連れてリビングに戻ってきた。


 奥から出てきたアズランは黒ぶち眼鏡をかけていた。見た感じ度は入っていないようなので伊達眼鏡なのだろうが、それなりに似合っている。


「アズラン、その黒ぶちメガネはどうした?」


「ターゲットの位置と状況がトルシェのサーバーから送られてくるんです。その情報がこの眼鏡の裏側に映るので、それを見ながらターゲットと接触するタイミングを計ったりします。昔は(注1)ターゲットとの接触はかなり根気のいる仕事でしたが、この眼鏡のおかげで、長時間張り込まなくてもターゲットと接触できるので、暗殺には重宝します」


 5人のジジ、ババたちはちゃんとした高級スーツを着ているのでひとかどの人物に見える。今回のターゲットは国営放送と民放キー局のトップだ。実際の中身がどうであれ、社会的にはひとかどの人物なのだろう。ターゲットの5人はアズランのベルトに擬態したコロに処分されてしまうわけだが、5人の中には本当の意味で立派な人間もいた(・・)かもしれない。おっと、ここで過去形を使っちゃまずかった。まだ過去の人じゃないものな。


 とはいえ、路傍の石はそこにあったからこそ、道路の拡張工事で撤去されるのだ。そういうものだと思ってくれ。



 アズランも昼食時、相当飲んでいるがアルコール臭は全くしない。もちろん、判断力や運動能力などは通常通りだ。俺たちの特技ではある。少し前までアズランが実働する時はアルコールを控えていたのだが、今は解禁している。衣服からアルコール臭がしようが呼気を検査されてもアルコールが検知されなけれ問題ないので開き直ったともいう。



 そんなこんなで眷属たちが働いているので、俺もそろそろ何かしないとな。


 と、思いながらも、涼音とリビングのソファーで食後のひと時を花子の淹れてくれた紅茶を飲んでまったりしている。


 まるで定年退職者が暇を持て余している状況のようだ。何でこんなことを思ったんだろうな? 不思議だ。


 涼音は、こんな俺にいつも付き合っているのだが、ひょっとしてあの職業(・・・・)の父親のすねをかじっている無職のプータローお嬢さまなのだろうか? 謎ではある。



「ダークンさん、アズランさんが連れていったさっきの5人、私は本人たちを知りませんが、全くの人間でしたね」


「涼音にダメだしされるような人造人間だとそもそも『神の国計画』を根本的に見直さなくちゃいけないからな。順調に進捗しんちょくしているということだ。と言ってもテレビ局のトップが変わったからといってテレビ番組の内容が急に変わるわけじゃない。まずはテレビ局内で邪魔になりそうなやつをつまみ出すところからだ。そうこうしていたら、番組の構成や編成は俺たちに都合の良いように、少しずつ変わっていくだろう。これまで会社で甘い汁を吸っていたようないい加減な連中もいるだろうから、そういった連中がいなくなれば会社の価値が上がって株主も喜ぶんじゃないか?」


「最初、『神の国』の話をダークンさんから聞いたとき、この国がそんなに簡単に変わるわけないと思っていましたが、メディアを意のままに操ることができれば確かに国が変わるかも、と思いました」


「変わるかもじゃない。俺たちの手でこの国を変えるんだ!」


「は、はい。わたしも頑張ります!」


「その意気だ」


「それで、私は本当に議員になるんですか?」


「どうしてもいやなら他の者を探してもいいし、人造人間を使ってもいいぞ」


「私に限らず何の後ろ盾も後援もない者が本当に議員になれるんでしょうか?」


「メディアで宣伝すれば選挙で勝てると思っているわけじゃないぞ。メディアを従えるのは、あくまでネガキャンを封じるためだ」


「ネガキャン?」


「そう、ネガキャンだ。ネガキャンが有ろうとなかろうと選挙では勝つはずだが、さんざんメディアに叩かれた政治家が総理になっては、国民にとって後味が悪いだろう?」


「総理に」


「この国の国政を牛耳るんだから総理大臣一択だろ!」


「あのう、選挙で勝つというのは具体的にどうするのですか?」


「簡単だ。俺がテレビに出て国民を祝福する。俺をテレビで見た国民はそれだけで俺の信者だ。視聴率5パーセントの番組20本も出れば、過半数の国民は俺の信者になり、俺の推す政党や立候補者に投票する」


「そんなことが可能なんですか?」


「俺は女神だ。二言はない」



 俺が涼音に対して『神の国計画』のキモの部分を説明していたら、また例のごとく玄関から人の気配がした。


「花子、誰か来たようだ、相手してやれ。今コロがいないが、花子の体はスライムだから、後片付けもちゃんとできるんだろ?」


「大丈夫です。シミ一つ残しません。マイゴッデス」


 話しているうちにも玄関からの廊下を靴で歩く音が聞こえてきた。


 人間の姿になった花子は部屋の中では裸足にスリッパを履いているのだが、スリッパを脱いで移動すると基本的に足音がしない。その場でスリッパを脱いだ花子は一瞬のうちにドアが開いたらその陰になるような位置に立った。


 例のごとくリビングの扉が開いて、3人組が闖入してきた時には、花子はドアの裏から一歩出て、俺たちの方を向いている3人組の後ろに立っていた。本人たちはいたって真面目なのだろうが、花子が自分たちの真後ろにいることに全く気付いていない3人組(エージェントたち)の顔がことさら間抜けに見える。



 今回もやってきたのは男二人に女一人の3人組だった。花子が俺の方を見たので俺が軽く頷いたら、花子は男女男の順に並んで立っていた左右の男二人の頭を掴んで、真ん中に立っていた女の頭に叩きつけてしまった。


 グォン。


 鈍い音と一緒に三つの頭が砕けてしまった。もちろん脳漿はそこらに飛び散ったのだが、不思議と天井までは飛び散らず、フローリングの床の上が汚れただけだった。


 両側から男の大きな頭を叩きつけられた女の頭が一番酷いこわれようで、両目が飛び出して眼窩からこぼれ出てしまった。神経が繋がっているので、床に落ちることなく眼窩からぶら下がってブラブラしている。


 左右の男はそれぞれ顔が半分になり、片目が潰れてしまっていた。


 頭がぐちゃぐちゃになってくっ付いてしまった3人は3本脚の容器のように倒れることなく突っ立っている。


 これこそ、三国志で言うところの鼎立ていりつというやつだ。いやー、いい勉強になった。


 人間なら、頭が潰れれば即死だろうが、この連中は人間を止めた連中だ。何もしなければ、すぐに再生を初めてそのうち元に戻るのだろう。頭の残骸を紐でぐるぐる巻きにしたらくっ付いたまま再生しそうで面白いが、あまり趣味の良い遊びではないし、俺も連中の再生には前回で飽きてしまったので、再生を待つ気が起こらなかった。


 というわけで、動きの止まった3人のエージェントを花子が3人まとめて、衣服ごと吸収してしまった。


 床の上に飛び散った脳漿も含めて、文字通りリビングにはシミ一つ残らなかった。



注1:昔は

『闇の眷属、俺~』で、アズランは、ダークンとトルシェに出会う前は暗殺組織『赤き左手』のナンバースリーだった。組織に裏切られた結果、暗殺ターゲットに待ち伏せされ深手を負い、追手からなんとか逃走するも力尽きてしまった。追手が迫るなか、もはやこれまでと覚悟を決めたところで、ダークンとトルシェに救われている。ダークンたちとはそれからの付き合いである。

『常闇の女神~』では、3人団でキッチリ『赤き左手』を叩き潰している。


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