90.黄金樹の守護者
すみません
予約設定してませんでした!
「黄金樹の守護者かー。歓迎されてないねー」
「そういうダンジョンなんだろ。どうやって戦う?」
「幸い空中を飛べるからフィートは空から援護、私は接近戦」
「了解、あんまり無茶すんなよ」
「ボス戦は無茶のしどころです! と言うわけで戦闘開始!」
「あ、こら! ってもう行っちまったか」
『サイちゃんクオリティ』
『これが普通よ』
「彼氏さん、慣れよう』
これが普通とか慣れたくはないなぁ。
ともかく、サイは前列で殴り合っている。
俺も攻撃を開始しないと。
「射線確保よし……いっけー!」
放たれた炎の弾丸は狙い通りの軌道をたどり黄金樹の守護者に到達する。
ただし、黄金樹の枝に振り払われてダメージらしきものはほとんど与えられてないが。
これにはコメント欄も絶句である。
『ぇ~』
『いまのあり?』
『彼氏さんの装備、悪くないはずよ』
『彼氏さん自身はそんなに強くないけど、ほぼノーダメージで防がれるほどのもんじゃない』
『検証出来ました。どうやら炎無効が働いているようです』
『生産職協同組合、こういうとき有能』
『てことは……彼氏さん替えの武器は?』
「氷属性の武器を一応持ったまま来てるくらいだな」
『氷属性かー炎無効よりマシ?』
『初見攻略なんて相手の出方を探りながらやるもんだ。……ってかサイちゃんも苦戦してるな?』
『ほんとだ。こんなにのんびりしてるのにHPの10%も削れてない』
『面倒なギミックついてそー』
スレッドでも話題になったが、サイがこれだけ時間をかけても10%すら削れていないのはおかしい。
と言うわけで話を聞いてみると……。
「こいつ! 自己再生能力! 高すぎ! ダメージ与えたそばから回復してる!」
「あーそれは……」
『炎無効、サイちゃんの攻撃ですら耐えるリジェネ。どう考えてもギミック系ボスですね」
『ギミックわからないとどうあがていも倒せないやつ』
『つーか、樹氷の大森林のあとに炎無効とかえげつないw』
『彼氏さーん。氷武器でやっちゃってー』
「だなぁ。行くか」
俺は氷属性の武器に持ち帰ると再び飛び上がり、黄金樹の守護者に狙いを定める。
攻撃を行うと先ほどと同じように小枝ではじき飛ばされるが、明確な差があった。
それは……小枝が凍り付いたのである。
『おお、これは!』
『よりにもよって、ボスは氷弱点かよ!!』
『彼氏さん、再生前にもう一発!』
「おう!」
凍った枝にもう一発弾丸を撃ち込むことで小枝はきれいに消え去った。
と同時に、ボスのHPバーに青色の表示が現れる。
『あーやっぱりギミックボスかー』
『サイちゃんと協力しないと倒せない罠』
『むしろサイちゃんが氷ハンマー持ってれば万事解決した件』
『サイちゃん is 脳筋』
『あっはい』
うーん、これは俺がちまちま枝を破壊しても終わらないパターンだな。
サイを援護するか。
「サイ、これからそっちに援護射撃をする! 当たった部分が凍り付くはずだからそこを破壊しろ!」
「おっけー!」
俺はサイのいる場所周辺めがけて弾丸をばらまく。
すると当たった場所から次第に黄金樹の守護者が凍り付いていった。
「これを砕くのね、どっせーい!」
サイの攻撃で派手にダメージを受けた黄金樹の守護者は……傷が回復できなくなったみたいだ。
「よっし! いけるいける!」
「だな……って!」
先ほどまではサイを狙っていたツタの鞭が今度は俺を狙ってきた。
慌てて飛び上がるが、今度は黄金樹の守護者の葉っぱがマシンガンのように飛んでくる。
「フィート!」
「大丈夫だ!」
低級リジェネポーションで回復できる範囲の傷なのでさほど問題はない。
問題はないが……ウザい。
『どうやら攻撃の起点になった彼氏さんにタゲが跳んだみたいね』
『結構きっついな』
『やっぱりここを攻略するには炎と氷の属性武器必須』
空を飛んでいるといつまでも葉っぱマシンガンが狙ってくるため、地上に降りることにする。
そうするとツタの鞭が襲ってくるけど、こちらは躱せないほどじゃない。
鞭を躱しながら攻撃を行いサイが凍り付いた部分を破壊する、そんな作業を一時間ほど繰り返したそのとき、ど派手な音を立てて黄金樹の守護者が倒れ込んだ。
〈黄金樹の守護者を討伐しました。樹氷の大森林をクリアします〉
〈ボス戦MVPはフィートです。MVP報酬がインベントリに追加されます〉
〈樹氷の大森林の初クリアパーティです。入り口のモノリスにクリアパーティ名が刻まれます〉
「うん! どうやら無事クリアのようだね!」
「だな。しかし疲れたぞ」
「さて、次は……金王林檎の木を調べなくちゃだよね」
「そうだな。行ってみるか」
ボス戦フィールドよりも一段階高くなっている場所、そこに金王林檎の木は立っている。
それを調べてみると……。
「あ、金王林檎発見!」
「こっちにもあるな」
「おお、これって回復アイテムだ!」
「……って言うか、これってバランス大丈夫か?」
「戦闘中は使えないから問題ナッシング!」
『サイちゃん、彼氏さん。ふたりだけで話を進めないで説明プリーズ』
「あ、ごめんごめん。金王林檎だけど『HPを最大値の200%、MPを150%まで回復。戦闘中の使用は不可。トレード不可』ってアイテムなの」
『まさかのオーバーブーストアイテムきたー!』
『これ樹氷の大森林の価値が爆上がりしますわー』
『しばらくは樹氷の大森林通いをするプレイヤーが増えそうだな』
「あ、でも、所持数制限がひとり1個で再入手まで14日必要らしいからそうでもないかも」
『使いどころに困るやつーw』
『前線組なら困らんだろうw』
『そんなことより、金王林檎の腐葉土はありましたか?』
『ああ、生産職にとってはそっちが死活問題か』
「ああ、あったぞ。もっとも、こちらも所持上限1、再入手28日の制限付きアイテムだが」
「ほっほーう。私も探してみよう。どこにあったの?」
「金王林檎の木の周りに黒い土があるからそれを調べれば入手できる」
「おっけー探してくる!」
『これは薬草園復活の予感!』
『頑張れ生産職!』
『どうやってあそこまでたどりつくかが問題なんですけどねぇ……!』
コメントが盛り上がっている中、周囲を調べ終わったらしいサイが戻ってくる。
だがその表情はとっても不満げだ。
「フィート! 腐葉土、なかったんだけど!」
「え? ちょっと待って。……あー「1パーティ一個まで、一度入手したことのあるパーティに参加していたプレイヤーがいるパーティには採取不可能」って書いてあるわ。あと、一週間に3個までしか採取できないとも」
『なんだって!』
『ちょっと待って! 薬草園の復活に10個必要なんだけど!?』
『大人しく4週間待つしかねぇなぁ……』
『こんなところで躓くとは……』
「あー、いろいろと情報公開は以上かな。とりあえず場所を教えて終わるよ!」
そう言って、サイは全体マップを表示させる。
これで視聴者側にも画面が共有されたらしい。
「私たちの居場所はシロッコ氷河のこの位置ね! どうやって向かうかまでは教えないから自力で探しなさい!」
『サイちゃんらしい〆だったw』
『でも、最初の方は暗かったってことは洞窟内部だよな』
『ってことはあの周辺に洞窟の入り口があるってことか』
『今度探してみよう』
「じゃあ、配信切るよ~。集まってくれたみんな、ありがとー!」




