第68話 ゲーム合宿の朝
ベッドに入って横になるが、俺は眠れずに居た。
俺と莉央の間には人が2人入れるくらいのスペースが存在する。
それでも、莉央と同じベッドで寝るということは意識してしまう。
「寝た?」
莉央が話しかけてくる。
「起きてるよ」
「寝れないの? もしかして、緊張してる?」
「そりゃまあ、多少はな」
この年になって女の子と寝ると言う機会はまず無い。
妹がまだ小さい頃は一緒に寝たりもしていたのだが、今はそんなことも無くなった。
「なんかね、私、諒と出会ってから自信がついたんだ。この人とならもっと高みを目指せるんじゃないかって」
「それは、嬉しいね」
「親からの期待とかプレッシャーとか色々あって悩んでたんだけど、それも諒と出会ってからはあまり考えなくなった」
莉央の父親は大企業の社長である。
一人娘として育てられた莉央に期待を寄せるのも納得できる。
eスポーツというものは、最近やっと世の中に知られてはきたが、それでも認知度はまだ低いし、職として成立しているのもほんの僅かである。
「ゲームってこんなに楽しかったんだなって思ったの」
「それは、俺も同じだよ」
元々は現実逃避から始めたゲーム。
しかし、それが仕事として金銭が発生するものになったとき、俺はシンプルにゲームを楽しめなくなっていた所がある。
「莉央と一緒にゲームするのは楽しい。大会とかそんなの関係なくても」
楽しくないものを無理にプレイしても辛いだけである。
「うん。でも、私は諒となら大会に出たいと思った」
「俺も同じだよ」
莉央が親から色々言われているのも知ってる。
だが、この人となら世界だって夢じゃないと思える人に出会えたのは初めてだった。
この先もそんな人が現れるかどうか分からない。
「だから、ありがとね」
「うん」
そこまで言って、俺の記憶は途切れた。
寝落ちしてしまったのである。
♢
翌朝、窓から差し込む光で目を覚ます。
時計を見ると9時を示している。
いつもよりだいぶ遅い起床である。
隣に居たはずの莉央が居なかったので、もうすでに起きているのだろう。
俺は体を起こして部屋をでた。
リビングの方から音がしているので、そちらに向かう。
「おはよう」
「あ、諒おはよ。もう少しで朝ご飯できるよー」
莉央はエプロン姿でキッチンに立っていた。
「莉央、料理もできるんだ」
「まあ、簡単なものだけどね」
そう言って、机の上に朝食が並べられる。
目玉焼きにトースト、サラダとヨーグルトだ。
「美味しそうじゃん」
「誰かのために作るのなんて久しぶりだよ」
莉央は一人暮らしなので、作るとしても一人分なのだろう。
「いただきます」
俺は莉央の対面に座り食事をする。
「うん、美味いよ」
「よかった」
莉央は満足そうな笑みを浮かべている。
かわいいな、おい。
「今日はどうする?」
「俺は休みだから特に予定も無いよ」
「私も、今日は案件とか入って無いから休みなんだ」
莉央は色々な所から仕事の依頼が来るのでオフが少ないと聞いていた。
「じゃあ、配信でもする? ゲームしながら」
俺たちにとっての配信はもはや趣味のような所がある。
純粋に楽しいのだ。
「いいね! ゲームならいっぱいあるよ!」
「おっけ。じゃあ、食べたらやりますか」
世間的にも今日は休日なので、昼間でもそれなりに人数は集まることだろう。
こうして、俺たちのゲリラ配信が決定した。




