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~サバイバル無双~ゾンビの蔓延る世界で彼は希望を紡ぐ  作者: 稲二十郎
第一章 サバイバル1日目
9/13

8『必要なものを漁るのがサバイバルの醍醐味』

 歪に足を引きづる音が地面に散乱している商品を引きづり、不気味さを彩る呻き声は薄暗い空間の底気味悪さを更に助長させている。

 彼らの存在を証明する音は背筋に恐怖を滲ませていくかのように体を這おうとするが、義弘は、それに惑わされることはなかった。

 照準器のレンズを穿つかのように鋭く目を光らせ、迷うことなく単射セミオートに設定された小銃の引き金を絞り込むように引く。

 

 この瞬間、引き金を引いたことによって、落とされた撃鉄は、撃針ファイアリング・ピンを前進させ、薬室内に込められた弾の雷管火薬に火をつける。薬莢内で火薬が燃焼することによって、猛スピードで行き場を探り始めた爆圧が焦げ臭い息吹となって銃口から弾頭を渦を巻くように押し出し、薬室ではボルトを後退させ、排莢口から空薬莢を弾き飛ばした。


 本来ならば、ジェット戦闘機が通過するのと同じくらいの発射音が鳴り響き、鼓膜に衝撃をもたらすのだが、銃口に取り付けたサプレッサーの構造によって、抑えに抑えられた爆圧は鼓膜を優しく揺らす程度に留まっている。その証拠に、外で待つ二人は、射撃が行われたことに気づいていない。


 義弘はストックから伝わる反動を上手く体で吸収。そして、狙いをつけたままの状態を維持して、弾着点に目を凝らした。すると、宙を裂いていた音が、ゾンビの頭部のやや左上の壁を抉るようにして弾けるのを目にする。

 

 弾が予想する場所と違う場所に飛んで行ったのだ。トリガーの引き方に問題はないはず。それならばと、彼はズレを考慮して、再び照準をつける。


――ふぅ


 横で焦ったように貧乏ゆすりをし始める基樹に影響されることなく、落ち着いた姿勢で、もう一度引き金を絞り込み、硝煙と弾頭を放った。すると、ゾンビの頭部に弾は直撃した。

 壁にべっとりと血が飛び散ったのと同時に、完全に生命維持を停止した体が、魂が抜けたかのように、義弘の視界の中で、体を落としていく。


――やっぱり、照準器の調整がズレてたかっ


 そして、倒れ込んだ音に反応して近づくもう一体のゾンビの頭部に、先ほどと同様、僅かなズレを考慮して狙いをつけ、続けざまに弾丸を撃ちこんだ。その瞬間、発していた呻き声が一瞬で止み、その場に崩れ落ちる。

 しかし、この緊迫とした状況は、2体を沈黙化させてもなお、続いた。



「アズヒロ!!3体、通路っ」



 背後で囁きかけるように聞こえてくる、中島基樹の声。情報を要約させた小声であるが、非常に焦っていることが、震える声色から察することが出来る。

 義弘は彼が向ける焦りの先に対応するために、銃口を下げて、体を反転させながら、立ち上がった。右足を軸にして綺麗に弧を描いて、真正面でピタッと止まるその動きは、まるで武術で用いられる体裁きの様に鮮やかで、ぽよんと跳ねる贅肉に目を瞑れば、すぐさま小銃を構え直す様は刀を構える武者の様だった。


――右に2、左に1、


 そして、一瞬で数と位置と距離間、近づいてくる速度を判断し、5、6歩先から来る右側のゾンビに射撃を行った。照準を覗きこまない姿勢で撃ったため、正確な射撃はできず、一体の頭部は撃ち抜けなかったが、代わりに体を地に転ばせることで、動きを鈍らせる。

 届きうる牙を寸前で地に伏させた義弘。彼は、しっかり照準を合わせ、距離の離れた左側のゾンビ、這って来るゾンビの順に頭部を撃ち抜いた。

  

「さすがっ、」

 

――いや、まだだっ!!


 ものの数秒で、ゾンビ4体を仕留めたことを褒める中島基樹の声に、義弘は油断するなと言わんばかりに、通路に寂しく置かれていたカートを蹴り飛ばした。

 義弘が蹴ったそれが、入ろうとした販売店の反対側にある散髪屋の入り口に勢いよく転がっていくのを、中島基樹は口を開けた状態で眺める。彼は、”何をやっているんだ”と思っているのだ。しかし、その考えはすぐに一転することとなる。


 呻き声も無しに死角から突然と出てきたゾンビの足にぶち当たったのだ。


 勢いを失い、地面に転がったゾンビは、どうやら呻き声も出せないほどに喉がつぶれているらしく、口は開かれているが、空気が出る音だけが虚しく発せられている。



――射撃しながらでも、こいつに気づいていたのか


 自分が気づかなかったゾンビの存在を何で分かったんだと、基樹は更に視線に驚きを混ぜて、義弘を見る。このゾンビの存在もそうだが、それよりも、このほとんど音もなく潜んでいたゾンビに気づき、対処した義弘の反射神経に対して、彼は驚きを隠せなかったのだ。

 

 パイプを構えて呆然と立ち尽くす基樹。彼の前で、義弘は小さな銃声を呼び起こしては、地を這うゾンビに静寂を与えた。



 こうして、一応は静かになったセンター内で義弘は周囲を警戒しながら、銃口を下げて、一息つく。しかし、彼らの存在があるかのような音が聞こえ始めると二人は引き続き、警戒態勢となり、センター内のクリアリグを行っていった。

 そして、ちょうどマガジン1個分を消費させて、この施設全体を完全に制圧したのである。



****************************



 安全を確保した義弘たちは、外にいる二人をさっそく中に呼び寄せた。そして、田島治樹以外の3人で売店を漁りはじめる。勿論、一番の探し物は”水”だ。

 そして、倉庫を漁っていた中島基樹が、段ボールの中に大量に入ったペットボトル型の水を発見したのか、声を発する。


「水あったぞ!!ってか、天治十四年、3月29日って何時だよ……消費期限も碌に分からねぇのにこれ飲めるのか?あ、それ以前にここ異世界だよな、この世界のものって俺らの体にそもそも、合うのか」


 見慣れた漢字と仮名文字の組み合わせで構成された文章が記載されているラベルを見ながら、呟くように語りだしていく基樹。


「貸してくれ」


「あぁ……え?、おいおい」


 そんな彼からペットボトルを受け取った義弘は、ラベルを確認することなく蓋を取り、一気に口に水を流し込んでいく。そして、周りにいる者に聞こえるくらいに喉を鳴らした。それを見る基樹は戸惑いの声を上げる。


「いやいや、アズヒロさん。それ大丈夫なんですか?」

 

 未だにオンラインネームで呼び、敬語を使ってくる矢島 健太郎。彼もまた心配そうに、見つめてくるが、義弘は関係ないと言わんばかりに、乾いた喉に引き続き水を当てていく。


「あぁっ、最高にうまっ」

 

 そう言いながら、口の端から垂れた水滴を腕で拭いあげる義弘を見て、”マジかよ”と言った顔つきを見せる二人。そんな彼らに義弘は安心させる言葉を不敵に笑いながら言い放つ。


「大丈夫。ちゃんと、密封されてる容器に入った水は基本、腐らないから。それにこの世界の水を飲めないってなったら俺らは、もう死ぬしかなくなるって。なんせ、生命の根源を受け付けないんだから。ここに俺たちを連れてきたのが、どんな神様か、いやまぁ、神様じゃないかもしれんけど、こんな場所に連れてきた時点で酷なことしてるのに、これ以上はしないだろ、さすがに。もし、これで死んだら、死んだ後に絶対文句言いに行ってやる」

 

 そして、もう一つペットボトルを取り、疲弊している田島 治樹の許に向かっていった。二人は義弘の去る姿を見送ると、顔を合わせ、一斉にキャップを開ける。そして、先ほどの彼のように、喉を鳴らしながら、水を飲み込んでいった。


「じゃ、これと、さっき見つけたこれを一緒に飲もう」

 

 義弘は脚を伸ばし、壁にもたれかかっている治樹に蓋を開けたペットボトルと、開封したアルミパックを渡すが、


「え……なにこれ?」

 

 治樹は手の中でサラサラと音を立てる白い粉末を非常に訝しんでいる。最もな反応だ。いきなり、なぞの粉末が入ったものを渡されて、”飲もう”と言われたら誰でも不審がる。


「あ、それ?それはあれだよ。生理食塩水に近い成分の清涼飲料水あるじゃん、あれが粉末化されたやつだと思う。味は大丈夫。さっき味見したから……なんなら俺が先に飲もうか」

 

そう言ってから、義弘はもう一包開き、水と共に粉末を飲み込んだ。心配する彼を安心させるためだ。


「大丈夫!!いける、美味い」

 

 単純な言葉を繰り返して言ってから、親指を立てる義弘を見て、田島 治樹は意を決して水と粉末を口で混ぜ、飲み込んだ。何のことはない、カゼを引いた時や調子を壊した時に飲んできた清涼飲料水の味にそっくりだった。


 こうして、水分補給を終えた4人は、売店の中にある、被装備品を漁り始める。

戦闘用ゴーグルに、ボディアーマーの下に着用する暑さ対策が施されたマルチカム迷彩の戦闘服、更に弾倉用ポーチなどのアクセサリーを取り付けることが可能なタクティカルベスト、拳を保護するナックルガードのついた頑丈なタクティカルグローブ、肘・膝パッド、戦闘用のブーツなど、各自、自分のサイズに合ったものを陳列棚や倉庫から見つけ出し、身に纏っていった。


「あと装備するとしら、ヘルメットとアーマーの類か……やっぱり身に着けていくのか」

 

 ブーツに履きかえながら、中島基樹は他の3人に尋ねた。

防弾性のある戦闘用ヘルメットやフェイス・ボディアーマーは訓練用のダミーの物なら置かれているが、実物は此処にはない。耐用年数が大幅に下がるのを防ぐため、装備保管所に置かれてあるのだ。


「勿論。衝撃を吸収してくれるし、引っ掛かれたり、噛まれたりしても、ある程度なら防いでくれる。それにこの世界のは、確か圧倒的に重量が軽かっただろ」

 

 義弘が弾倉をポーチに入れながら、返事をする。

 

そして、入れ終えると、バックパックを背負い、置いていた小銃の2点式スリング・ベルト(肩掛け用のベルト)に片腕を通し、全員に告げる。そして、拳を突き出した。


「よしっ、んじゃ、非常用発電機を作動させて、装備保管庫と弾薬庫を開けにいこうか」


 準備を終えた全員が立ち上がり、彼の拳に自分の拳を合わせていく。その彼らの佇まいは、ぽっちゃりorデブの集団ではあるが、戦闘服を身に纏ったことで一応軍人らしくは見えていた。

 まぁ、よっぽどの体型でない限り、白衣を纏えば医者や科学者に見えてくるし、作業着を着れば、とび職に見える。それと同じで、軍人の恰好をしていれば、外見上は軍人に見えるだけなのだが。


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