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~サバイバル無双~ゾンビの蔓延る世界で彼は希望を紡ぐ  作者: 稲二十郎
第一章 サバイバル1日目
7/13

6『邂逅』

 安全を確認し、少々埃っぽく感じられる車内に乗り込んだ義弘。彼は上部ハッチ以外の全部のドアに鍵を掛けると、

仮想空間でしか見たことがない、触ったことがない実銃を手に取った。

 

――繊維強化プラスチックのハンドガードにストック、それにこのACRやHK433にどことなく似た形状、間違いない。虎徹24式小銃だ


 虎徹24式小銃とは戦場いくさばに登場するアサルトライフルのことで、プレイヤーの初期武器として配られた銃である。この銃は次世代の技術により軽量型小銃でありながらも金属製よりも耐久性に優れた設計となっている。また、銃の部品を変えることも容易であり、多様な部品を取り付けることが可能なことから、ゲーム内では汎用性の高い銃として、数多のプレイヤーに用いられていた。

 

 義弘は銃身が短く、ストックは可変式である、明らかにCQB(近距離戦闘)用に改造されたその小銃をさっそく弄り始める。まず、薬室内部に弾薬が入っていないか、側面にあるコッキングレバーを動かし、中を覗いた。


――薬室に弾は無しっと……


 そして、続けざまに、握り込みやすいような細工が施された樹脂製の30連弾倉マガジンを抜き取る。その一連の動作だけで、彼が銃器を扱い慣れていることが窺える。しかし、彼は実銃を触ったことは一度もない。その、すべては仮想世界での経験によってのみ培われた手つきだった。


――やっぱり、満タンか

 

更に驚くべきことに、手に持った重みで、義弘は装弾数を把握していたらしい。

座席のクッション部分にそれを置くと、今度はコッキングレバーやトリガーの具合、金属製の機関部の音、感触を確認し始めた。放置されていた銃だけに正常に動くかどうか入念にチェックしないと、到底使えないからだ。


――ちょっと、硬くなってる。まぁ、この程度の硬さだったら、さほどの支障はないだろうけど、一応、分解してオーバーホール(分解掃除)するまでやりたいな。でも、そのための、道具なんて、そんな都合よく……待てよ

   

 もしかしたら、必要としている物があるかもしれないと、腕を伸ばし、車内に捨て置かれた迷彩柄のアサルトパック(バックパック)を拾い上げ、膝の上に乗せた。


――いやね、そんな、ラノベやアニメの世界観じゃあるまいし、都合よく道具や部品が……

 そんなことを思いながらも、バックの膨らみ、重みがそれなりにあることから、期待感が嫌でも膨らんでしまう義弘。

 部品の破損などに備えての予備部品スペアパーツ、部品清掃のための道具が入っているか否か、いざチャックを開け、中を確かめた。


――入ってるわ、駐屯地に入る前に早くも武器ゲットしたぞ、おおっ、サプレッサーまである


 想像以上、期待以上のものがその中には揃っていた。綺麗な状態に保たれた部品のスペアに清浄のための道具は勿論のこと、その他に、予備の30連弾倉が4個ほど、サプレッサーや医療キットまで入っていたのである。そのあまりに親切すぎる奇跡に義弘は、腕を震わせ、口角を歪ませた。

 ここが完璧な遮音性を有している空間ならば、拳を頭上に掲げて、歓喜の声を上げたいところだが、あいにくそうではないため、湧き出る喜びを体に抑えこむ。

 しかし、感じていたその喜びの波は、この絶望的な世界の中では、あまりに早く去って行く。絶望に目を向ければすぐに危機感が高まってしまうからだ。早く向き合わなければ後悔すると、感激の思いは薄れ、信念が顔を出し始めた。

 

 こうして、学校にいる生徒や教師たちのことを不安を抱くように気に掛けだした義弘は綻んだ表情を両手で音を出さないように圧迫し、気合を込める。そして。真剣な目つきで銃と向き合った。



――喜んでる場合じゃなかった。武器とバックパックは手に入れたけど、まだ戦闘装備は揃ってないし、渇ききった喉も潤したい。急いでこれを終わらして、駐屯地を探索しないと。自分の為にも、学校にいる奴らの為にも


 義弘は仮想空間の戦場で培った知識、技術、経験を頼りに車内にて、銃の部品を分解して清掃し、再び組み上げていった。そして、最後にサプレッサー対応の加工がされた銃身の外側にサプレッサーを取り付けると、コッキングレバーやトリガーの感触を再度確認した。異常はなく、先ほどよりもスムーズに動作するようになっている。



――よしっ、問題なし

  

 置いておいたマガジンの一つを入れ込み、スイッチ一つで薬室に弾を送り込んだ、その時だった。複数の足音、靴で地面を駆ける音がこちらに近づいてくるのが車のボディ越しに聞こえ始めた。

 

――ゾンビか!?、いや、それにしては足音が早すぎるし、音がどこか秩序だってる


  どこか異常のある心臓の鼓動音が不規則に鳴るのと一緒で、体が朽ち果て何らかの異常を生じさせている体を持つ彼ら、ゾンビの動作音というのは総じて規則性に欠ける。呻き声も一定ではないし、足音もどこか、ずれたように歪に鳴るのだ。しかし、そのような感じは、この足音からは感じられない。


――ということは人間か……

 

 義弘はそう確信した。 ここまで、綺麗に地を蹴りあげる音を出せるのは正常な体の機能を持つ人間しかいない。だが、人間なら人間で彼らはいったい何者なのだろう。生き残っていた者達か、それともここに連れてこられた者達なのかと、義弘は眉を細め、不思議がった表情を見せる。


「はぁ、基樹の言う通りだったな、ちゃんと基地に着いた」


「確かにな」


「だから、言ったろ?あのゲームで俺、何回も此処に来たことあるって」


 3人の男の息遣いと、声が聞こえる。彼らの会話の内容を聞いていた義弘は、


――この世界が仮想世界と同じ世界だって知ってるのは俺だけじゃなかったのか

 自分のほかにも、ここがゾンビモードの世界とそっくりであることを知っている者がいることに驚いていた。そして、同じ学校の生徒なのだろうかと、気にしながら、どうするべきか、此処で出ていくべきかと様子を窺っている。


「いや、基樹、お前結構、嘘つくからなぁ。」

 

「だな。見たことねぇのに、あ、これ映画みたいだとかすぐに言い出すしな。言っとくけど、お前が、あのアズヒロの分隊でテールガン(殿)やってるってのも、めちぇくちゃ、嘘くせぇと思ってたからな」


――アズヒロ?アズヒロって俺のオンラインネームだし、俺の率いるテールガンっていったら、まさか……


 義弘はアズヒロというオンラインネームと、テールガンという言葉を聞いて一瞬、耳を疑った。今、外にいる3人の男たちの中にあの”ナカモン”がいるかもしれないのかと。

 義弘は逸る気持ちを深呼吸で落ち着かせながら、その疑念を晴らすために腰を上げ、上部のハッチからすぐさま出られるように準備を整えた。


「うるせぇよっ。今はそんなことはどうでもいいだろ、とにかく早く武器を漁ろうぜ」


「よし、じゃ漁るか」


 一人の男がそう言って、足音を立てた瞬間、義弘はハッチから顔を出し、銃口をやや上に向けた状態で3人を見やった。同じ学校の制服を着用し、自身と同じく運動場の倉庫から取ってきたであろうパイプを所持する彼らの顔を順に確かめるよう視線を送り、義弘は言葉を発する。


「昨日、戦場のゾンビモードで、ミニガンを撃つ俺に助けられた”ナカモン”ってやついる?」

 

「いや、ナカモンは俺のオンラインネームだけど、それ以前になんで、その話を……まさか、アズヒロか!?」


 自身の問に一番戸惑いを見せていた男子が、知っている反応をすると、義弘は間違いないとハッチから身を乗り出し、地面に下りた。そして、満面の笑みで彼に駆け寄り、言葉をかける。


「お前こそ、ナカモンか!?」





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