表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
~サバイバル無双~ゾンビの蔓延る世界で彼は希望を紡ぐ  作者: 稲二十郎
第一章 サバイバル1日目
13/13

12『不穏分子』


 「くっそ、腹減った。缶入りの乾パンだけじゃ、全然物足りねぇよ。缶詰とアルファ米食いたかったなぁ」


  音を立てて、エネルギーを欲する腹を摩りながら、話す治樹。


「でも、アルファ米は水を消費するから。限られた水しかない今は無理だって。乾パンとこのオレンジスプレッドで我慢しろ……」


 健太郎が焼き固められたビスケットとオレンジ味の水飴のような食感をした戦闘糧食を食しながら、そんな彼に言い聞かせる。しかし、その言葉とは裏腹に彼のお腹もまた、もっと濃い食料を欲するかのように寂しく鳴っていた。


「っていっても、こんだけじゃ、味気なくて物足りないんだよなぁ。ああ~ぁ炭水化物、特に白米と肉が食いたい」


「だろぉ?それじゃ、全然足らないって。はぁ、入り口の、あの美味そうなメニューの数々を網羅したい。あ、やべ、よだれ出てきた」

 

「やめろ、やめろ。いくら食事を思い浮かべても腹は満たされないし、今まで以上に腹が虚しくなるだけだぞ?」



「っち、この世界、デブに厳しすぎだろ」


「いや、それはこの世界だけじゃないと思うぞ、治樹」


  別館4階(最上階)に位置する開放感ある食堂内と同じくオシャレに飾られていた入り口にあったメニュー表、それに載っていた品々が決して出てくることはないと、腹を嘆かせながら治樹と健太郎は机に突っ伏した。

 全身を使って湧き上がる食欲が満たされないことに愚痴を零すそんな二人の許に、屋上に行っていた義弘と基樹が戻ってくる。




「お、義弘君と基樹、戻ってきた。二人ともどうだった?」


 片手をヒョイっと二人に向けて話しかける治樹。彼の言葉に義弘と基樹が笑みを浮かべながら、親指を立てた。


「壊れてはなかった」


「壊れては?」


 含みのある義弘の言葉に疑問を持った治樹がそう聞き返す。


「駐屯地のと違って、自立運転モードになってなかったんだよ」


 腕を組んだ状態でそう答えた義弘の頭の中では、駐屯地での出来事が思い出されていた。


 駐屯地にいた際、武器・弾薬庫等を開けるために非常用発電機を運転させようとしていた義弘たちであったが、結局、非常用発電機は運転させていない。なぜなら、自立運転モードで動く太陽光発電によって電力が駐屯地内に供給されていることを、こけそうになって照明のスイッチを点けた基樹のおかげで、偶然知ったからだ。

 この発見により、すぐさま武器・弾薬庫を開けることができ、空調設備さえも、動かすことが可能になっていたのである。


 故に、屋上や壁、ひさしにまで太陽光パネルが取り付けられ、駐屯地と同じく蓄電設備があるこの校舎なら、同じようになっているのではないかと、パトロール時に4人ともが期待を寄せて、照明スイッチを押していたが、結果は点かなかった。何処の階にも電力は供給されていなかったのである。


 そこで、職員室で取ってきた、太陽光発電設備関係の鍵類と施設・設備マニュアルを持って、本館と繋がっているこの別館の屋上に確かめに行っていた義弘と基樹。彼らは太陽光発電のパワーコンディショナーを操作して、手動で自立運転モードに切り替えてきたところだ。



「民間と軍用では違いがあるのかな……いや、でも、駐屯地のマニュアル本には防災とかに備えて停電したら自動的に切り替わるよう大概の公共施設で設定されてるって書いてあったよね」

 

 そう語る治樹の疑問の言葉に、義弘は賛同するように人差し指を向けた。


「そうなんだよ、おかしいんだよっ。ここのマニュアル本にも自動で切り替わるって記載されてたんだよ。なのに、自立運転モードになってなかった。んで、分電盤も調べてみたんだ……けど、漏電ブレーカー、安全ブレーカーが全部落とされてた」


「落とされてたって、アズヒロさん、それだったら誰かが落としたみたいに聞こえますよ。もしかしたら、漏電とか、コードの破損とか、あと、雷で落ちたとかの可能性も」


 人為的に起こされたと言わんばかりの義弘の言葉に違和感を抱いた健太郎がそう指摘するが、



「健太郎、もし漏電が起きてたんなら、漏電ブレーカーだけが落ちてないとおかしいよ。それにコードの破損も一気に全部のコードが破損するのもおかしい。雷にいたっては、莫大な電流が流れるから、ブレーカーは”入”のまま、燃え落ちてるはずだ。でもそんな形跡はまったくない……まぁ、俺の浅い知識の範疇だけで語ってるから、それ以外のことで落ちた場合はあるかもしれないけどな」


「な、なるほど」


 健太郎は義弘の言葉にすぐさま納得して、引き下がった。



「ってことは何、誰かが電力の供給を絶った可能性が高いってこと?何のために?」


 眉を寄せながらそう話す治樹。彼の目の前で埃被った食堂内の椅子に座り込んだ基樹がこれに答えた。


「俺たちが此処に来る前にいた誰かがやった場合と、生徒か教諭の誰かがやった場合では、その答えは大きく違ってくるだろうな。前者だと、やかましい冷蔵庫の音を静かにさせたかったとか」


「まぁ、冷蔵庫の音でゾンビが引き寄せられる可能性があるもんな」

 

 横目に基樹を見ながら義弘が答える。


「いや、あるか?そんなの?、……んぅ、ちょっとはあるかも?」


 治樹は、基樹の言葉に疑問を持ったが、冷蔵庫の運転音に引き寄せられるゾンビを想像して、あり得なくもないかと頭を傾げた状態で答える。


「んじゃ、後者の場合は?」

 

 机に両肘を立てて、健太郎が聞く。

 

「全員を暑さで弱らせた後で群れの王者になる為か、もしくは、全員の危機を救ったヒーローになる為かだな」


「おいおい、待てよ。それを本当に誰かがやろうとしてたんなら、とんでもねぇぞ。とんでもねぇ、屑じゃねぇかっ!!危機を救うとか何様なんだよ!?、自分で苦しめておいて、そこを救って女子の好感を得ようとか、屑以外の何物でもねぇよ」


 答えた基樹の言葉を聞いて、治樹が立ち上がった。そして、見た目通りに野太い声に更に凄みを利かせて、同じ言葉を二度繰り返す。リア充どもがどうなろうが知ったことはないと言っていた彼であったが、この行われたかもしれない卑劣な行為には相当な嫌悪感を感じているようだ。




「いやいや、そんなに荒れるなよ治樹。まだ可能性が高いってだけで、誰かがやったとは限らないからな。もし、やってたとしても、スイッチがあったから弄ってみたとか、短絡的な奴の犯行かもしれないし」


 同じように立ち上がった健太郎が宥めるようにそう言うと、基樹がこれに反論する。


「自立運転モードを停止して、安全ブレーカーを全部落とすには、職員室からパワーコンディショナー、分電盤の鍵を持ち出さなきゃ、出来ない。訳もなく鍵を持ち出して、屋上に行き、鍵を開けてスイッチがあったからつい弄ってみたって、わざわざそんなそんなことする奴がいると思うか?」


「いや、まず、いねぇよな、そんな奴……それに鍵は職員室にあったんだよな?ってことは、そいつはわざわざ、元の場所に鍵を戻したってことになるぞ。相当計画的な犯行じゃねぇか」


 

「いや、それに関しては何とも言えない。俺たちが取ったのはスペアかもしれないからな、未だに鍵を持ってるかも」


 全員が言葉を出さず、静寂の中で思考を巡らせている、そんな時だった。ヘッドセットから流れ出す音が全員の鼓膜を揺らし始めた。


『すみません、学年主任の大場です』 


 使い方を説明して、渡しておいた無線機。それを用いて送信される学年主任の声は震えている。なにかあったのだろうか、とPTTスイッチを押す義弘。彼は高校生にはない威厳を演出するため、不自然のないように低い声を出した。


『どうかしましたか』


『生徒のうちの何人かが熱中症になりかけてるみたいで。今、一人の生徒が屋上の太陽光発電を動かして空調を動かすと言ってるんですが、どうしたら』


『それなら、動かさなくて大丈夫です。我々がもうすでに自立運転に切り替えています。空調に関しても、全員がいらっしゃる本館3階に電力を集中させているので、問題なく動くとは思います。しかし、まだ運転させないでください。もう何年も放置されてる代物なので、万が一のことがあるといけません。我々が、急いでそちらに戻り、試運転を行います』


『わ、分かりました。その生徒には必要ないといっておきます。なにから、なにまでありがとうございます、失礼します』


『いや、まだ、待ってください』


――まずい、素の声が出てしまった


 急に無線を切られそうになったのを引きとめようとして、一瞬、素の声が出てしまい、義弘は急ぎ声色を戻す。


『あと、職員室の冷蔵庫に、備品室の扇風機と小型エアコンなどを運びたいので、できれば助力をお願いしたいのですが』


そして、要件を言い終えると、ばれていないかと、学年主任の反応に集中した。


『は、はい。勿論です。男の教員と生徒たちで手伝いますので……では失礼します』


 どうやら、気づいてないようだと、義弘は安堵の息を吐いた。


――まぁ、日ごろから、学年主任とはまったく話してなかったからな。ふぅ、あぶなかった。それにしても……


 こうして、途絶えた無線通信。静かになった義弘の耳元に、気になる学年主任の言葉の余韻がへばりついていた。


 ”一人の生徒が太陽光発電を動かそうとしている”


 今の4人には、あまりに引っかかりすぎる言葉だ。全員が顔に渋みを宿している。


「とんでもなく怪しいな、その生徒」


 治樹がまず口を開き、


「いやこれ、ほとんど確定だろ」


 次に基樹が言葉を発する。


「確かに、その生徒の可能性はめちゃくちゃ高いけど……」


「けど?」


 腕を組んで顎を撫でながら、語る義弘に、健太郎が疑問を投げかけた。


「絶対的な証拠がない。だから、他の生徒の可能性もまだあるし、誰もやってない可能性も残ってる……でも、人がやった可能性がある時点で、俺たちはもっと警戒を強めないといけないことは確かだ。生徒や教員の中に、誰かを平気で弱らせ、その弱みにヅカヅカと付け入ろうとする”腐れ外道”がいる可能性がある」

 

 語るにつれて、どんどんと目線が鋭くなっていく。義弘のその目つきには、早くも無秩序を利用しようとする”不穏分子”もとい”賊”が出てきたことに対する凄まじい嫌悪感と、危機感が如実に表れていた。

 

「これから、300人以上の生徒がいる本館に戻る。だから、3人とも、絶対に一人にならないでほしい。そして、俺たち以外の誰かを、近くに寄せ付けないように……それと死角のクリアリングを怠らないでくれ。死角を行く場合は距離を離したカッティング・パイで慎重に人がいないか確認してほしい。突然と俺たちの銃を奪うためにCQC(近接格闘)を仕掛けてくる可能性が十分にある。もし、銃を奪われそうになったら、こっちも遠慮なしのCQCで対応するか、もしくは動きを制するために脚を撃っても構わない。そのことで、全員に責められたとしても、一部始終を記録してくれてるこのカメラの映像を見せればいいだけだからな」


 そう強く言い放って自身のヘルメットに付けられているカメラを指でつつく義弘。武器と装備を揃える前に自身が思っていたたことを想いだし、彼はため息を吐いた。


”警戒すべきは生徒と教師だ。この秩序がない世界では何をしでかすか分からない”


――”真に恐れるべきは有能な敵ではなく無能な味方である”と語るナポレオンの言う通りだ。無秩序に近い状態の中で、己の利しか考えずに、己の欲を満たすためには安寧を傍若無人の如く踏み散らかす輩、他者を思いやらずに平気で他者の命を危険に晒すような無能な味方ほど怖い者はない。これを放っておけば秩序は崩れ、いずれは闘争状態、乱世になる


 本能の赴くままに牙を向けてくるゾンビよりも遥かに厄介な相手が、集団内に潜んでいるかもしれない可能性が出てきたことで、義弘は決心する。生徒や教諭たちの中にいる無能な味方を見分ける時、が来たと。







更新が非常に遅れてしまったことと、何の通知もしていなかったこと本当に申し訳ありませんでした。それでも、ブックマークを外さないでくださった読者の皆々様、ありがとうございます。今後ともよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ