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~サバイバル無双~ゾンビの蔓延る世界で彼は希望を紡ぐ  作者: 稲二十郎
第一章 サバイバル1日目
11/13

10『作戦の延長線が辿るは』

『裏口周辺のゾンビ3体の排除完了』


 揺らぐ瞳を向ける紗代の視界の中で、サプレッサー付きの銃を左右に振り回しながら発砲を行った男は、銃口を下げた後、耳を完全に覆うヘッドセットから口元に伸びるマイクに向かってそう話す。

 


――よかった、誰かが撃たれるかと思った


 開けた教諭を撃ち殺し、一気に突入してくるのではないか、一瞬でもそう思ってしまっていた紗代はその光景を見て、高鳴ってしまった胸を撫でおろしていた。

 

『了解、引き続き警戒する』


 彼がそう語ると、装甲車の後部ハッチが開きだす。すると、中から彼と似たような恰好をした者が二人現れた。装甲車の上で一人が依然として警戒する中、彼らは装甲車内に山積みにされた段ボール箱をリレー方式で、校舎内に置き始める。


 3人共が金属特有の重厚さをあまり感じさせない小銃を所持しており、2人の付けているアタッチメントは、上部に小型のドットサイト(ドクターサイト)が取り付けられた高度戦闘光学照準器やブースター付きのホロサイト(ホログラフィックサイト)、ハンドガード部分のフォアグリップと似ているが、先に段ボールを運び出した一人の男が持っている小銃には高度戦闘光学照準器、ハンドガードにはグレネードランチャーが取り付けられていた。

 

「手伝います」


 女性教諭のその言葉と、行動に感化された周囲の生徒たちがそのリレーに加わりだす。そうすると当然、作業の効率性は跳ね上がり、すぐに荷物を下ろし終えた。


「この二つで終わりだ、あとは俺らで運ぼう」


「よしっ」


 中にいた男たち二人が残りの段ボール箱を持って降りてくる。 

男子高校生の視線は彼らのやや太った体型よりも、その小銃や彼らの身に着けている装備に注がれていた。やはり、男子は戦う男のもつ銃や装備、乗り物などに興味を示すようだ。まぁ、中には、例外的に興味を示している女子もいるが。



「すげぇ、あれ本物の銃だよな、さっきゾンビ撃ち抜いてたし」


「俺、あれ知ってるぜ。あの先端についているやつ。確かサイレンサーっていうんだ。あれつけてると銃声が小さく鳴るんだよ。銃声が小さかっただろ?」


「へぇ、にしてもさ、装備もかっこいいなぁ」


「だな、めちゃくちゃかっこいい」


 側面部の装甲が無く、ライト、フェイスアーマーなどが取り付けられたマルチカム迷彩の戦闘用ヘルメット、耳全体を覆うヘッドセット、ベルトによって肩から斜めにぶら下がっているアタッチメントが多数取り付けられた小銃や、上腿部に付けられたホルスター(レッグホルスター)に入った拳銃、戦闘服とボディアーマーの上から身に着けているタクティカルベストのポーチに入った弾倉の数々、そして、発電装置が組み込まれた脚の負担を軽減するための脛から大腿部にかけて取り付けられた迷彩柄の外骨格装備。



 彼らが身に着けるこれらの装備を見て、男子生徒たち、とくに非リア充に近い生徒たちが羨望の眼差しを送っていた。

 


「あ……いや」


 最後に後部ハッチから出てきた男が、装甲車の上に乗る男に、声を詰まらせる。


「……運び終わったぞ」

明らかに言おうとした言葉を思いとどまらせたような口調だった。


「分かった。よし、」

 返事をした彼が警戒を解き、無線のスイッチのようなものを押す。そして、


『はるま、終わったぞ、とりあえず中に入ろう』


 任務を遂行させたかのようにマイクにそう話しかけた。すると操縦士席のような場所からもう一人、現れる。恐らくは、彼がはるまと呼ばれる者で間違いないだろう。

 それにしても彼は4人の中でも、一番ふくよかな体型をしている。

 

「では、閉めます」


 最後に入ってきた”はるま”という男によって裏口のドアは閉められ、バリケードは3人の手で元に戻された。こうして、ひとまずは安全地帯に足を踏み入れることができたため、唯一射撃を行った男はコッキングレバーを引き、弾薬を薬室から取り出し、マガジンを抜き始める。万が一の誤射を避けるためだ。



「本当にありがとうございました。水と食料をこんなにくださるなんて」

 

「本当にありがとうございます」


 生徒たちが安堵の笑みを浮かべ、談笑しながら、水と食料を受け取っていく中、教諭たちは頭を、武装した男たちに下げていた。


「いえ、そんな。当たり前のことをしたまでです、そんなに頭を下げないでください」


 手を横に振りながら彼もまた頭を下げている。マガジンを抜き、そんな仕草を見せる彼を見て、紗代は安心していた。この人たちは自分たちを襲う人ではないと。

 襲うつまりがあるならば、とっくに銃で脅しつけているだろう。だが、彼らは全員が小銃からマガジンを抜き、銃口を下に向け、自分たちは敵ではないことを示している。


 人を疑いだせば、きりがない。彼らが巧妙に善人を装っていると疑えば善き行いでさえも、後の悪への布石とさえ思えてしまうものだ。絶望の世界にいても、ここまで相手に不安感を与えないように気を配っている彼らに悪のレッテルを張り付けるほど彼女は人間不信に陥ってはいないのである。



「食事を終えたら、生徒の代表者何名かと、教諭の皆さんは集まっていただけると、非常に有難いのですが」  


「どうしてでしょうか?」


 

「いえ、此処から皆さん全員を避難させる段取りについて、話し合いたいのです。いわば、作戦会議を行いたいというわけなのですが……」


「分かりました。生徒たち全員にも話してみます」


 教諭側と話し合っている男がリーダ的存在なのだろう。彼が、他の3人を統率しているという雰囲気が仕草や話し方、振る舞いから醸し出されている。それに、今も、重要な作戦会議を行うにあたっての前準備を、一番年長(50代)の学年主任である男性教諭と決めている。


「では、よろしくお願いします。食事がすむまで我々はこの校舎内を見回りますので」


 再び頭を下げる教諭たちに向かって、軽く頭を下げ、彼らは階段側の方へ歩を進めていった。


****************************


「どう思う?」


「どう思うって?」

 

「いや、俺たちのことが、”ばれてるか”どうかだよ」


 一階表口を埋め尽くさんばかりのゾンビの群れがガラス越しに呻き声を響かせてくる中で、グレネードランチャーを所持している男が、リーダ格の男に意見を聞いていた。この場には彼ら二人しかおらず、どうやら2手に分かれて校内を見回っているらしい。


「さすがにばれはしないだろ。此処にいるほとんどの連中が目の前の生にしがみ付くことばかり考えてる。あの教諭たちもそうだ。だからそんなことに気を回したりしてる余裕なんてないはずだ。まぁ、とにかく、今は全員を駐屯地に連れていくことに集中しよう。そこまで行けばとりあえずは、ばれても安心だからな」


 リーダー格の男は言い聞かせるように語る。ガラスで隔てられているとはいえ、間近にゾンビがいるというのに、彼は平気そうに会話している。


「でも、万が一ってことがあるだろ?」


「その時は、その時だ。黙って従ってもらうほかない」


「そうか……そうだな」

 

『校舎北側、異常なし』


 ヘッドセットから仲間の声が聞こえてくると、リーダー格の男が無線の送信スイッチ(PTTスイッチ)を押し、


『表口も異常なし、これから合流地点に向う』

 返信した。


 そして、ふたりは音も臭いも、見た目も物寂しい雰囲気を醸し出している廊下の中を、心細くならないようにブーツで踏み鳴らしながら歩いて行く。


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