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05 永遠となって




「あ~~~、だるい~~~、やる気しない~~~」


 ぐでっ、と床に倒れ込み、ダラダラしているのは俺の上司でもある女神、アヴリル先輩。


「徹夜でアニメ見てるからですよ、先輩」


 なんと彼女は神の力で、地球のアニメを視聴可能な環境を整えているのだ。

 力の無駄遣いが過ぎる。


「だってー、やっぱ見たいじゃん? 初回二時間スペシャルの超大作だよ? 見るよね?」

「そのまま連続再生で他のアニメまで見なければ良かったんですけどね」


 言いながら、俺はアヴリル先輩の代わりに仕事をこなす。

 本来彼女が処理しなければいけない書類、のように認識できる観念的な仕事そのものに力を注ぎ込み、解決する。

 書類のようなものは光になって消える。


「ほら先輩も働いて下さい。山程やることがあるんですから」

「なんで部下が増えたのに、仕事が減らないのよぉ!」


 彼女は知らないのだろう。キャパシティが増えれば仕事も増えるものなのだ。


「おーい! ユーイチ!」


 俺とアヴリル先輩が話をしているところに、駆け寄ってくる人物が一人。


 ピンク色の肌をした、ゴブリンの青年。

 そう、俺と共に神へと至った、例のキャンディゴブリンの少年だった人物だ。


「どうした?」

「ボクらの世界で、得体のしれない力が高まって溢れてるんだってさ!」

「ほう」


 ボクらの世界とは、俺達が神に至った世界。大切な人たちとの思い出がある世界のことだ。


「ほら、先輩! 貴方の力なら、どんな力が溢れているのか雰囲気だけでも分かるでしょう? 仕事の時間ですよ」

「あーい」


 面倒そうに言って起き上がったアヴリル先輩の手元に、書類のようなものが舞い込んでくる。


「はいはい、模倣と進展の権能、っと」


 アヴリル先輩は勇者時代のスキル、アレンジが神に至ったことで得た力を活用する。

 これで、得体のしれない力を模倣し、内容をなんとなく理解できるはず。


「ん? なぁにこれぇ?」


 困惑した様子で声を上げるアヴリル先輩。


「どうでした?」

「これは、そう、まさに意味不明の力!」

「だから具体的に」

「いや、ジョーダンじゃなくて本当に意味不明なのよ」


 首をかしげながら、詳細を語る。


「どうやらこの力は、何か強い力が複数せめぎ合って、淀んだ場所に生まれたみたいなの。でも、その内容が」

「内容が?」

「猫よ」


 猫。


「本当に猫なのよっ! しかもただ可愛いだけで、何の力もない猫! ただ猫が生まれるためだけに、膨大な力が使われているのよっ!」

「は、はぁ」

「しかもこの猫、本当に可愛いこと、そしてか弱いことに力が使われているわ。たとえ天地がひっくり返っても可愛くなくなることは無いし、成長してちょっとでも力を付けることだってあり得ないわ」


 アヴリル先輩の言葉を理解したくない俺は、疑い半分で要約する。


「可愛くてか弱い。その概念の強度がとびっきり強いだけの猫が、世界を壊しかねないぐらいの膨大な力によって生まれたと?」

「そうよ。不思議よねぇ」


 不思議にも程がある。


「なんか、意味不明で怖いし呪い殺しちゃおうよ!」


 選択肢の一つとして、アリな提案がキャンディゴブリンの青年から飛んでくる。


 どうするか、と頭を捻っていると、不意に声が響く。


「こらっ! 馬鹿言うんじゃないのっ!」


 次の瞬間、スパンッ! とキャンディゴブリンの青年の頭を引っ叩く音が響く。


「げっ! 出た!」

「人のことをゴキブリみたいに嫌がるもんじゃない!」


 言って、頭を引っ叩いた『彼女』は俺の方に話を振ってくる。


「ちょっと! 『雄一』も何か言ってよ!」


 そこに立っているのは、俺の最愛の人。


 乙木有咲。


「おかえり、有咲」

「はいはい、良いから『シャスタバン』のこと、叱ってちょうだい」


 シャスタバンとは、キャンディゴブリンの青年の名前。


 生前、彼は俺と有咲によって我が子のように可愛がられることとなった。

 いつまで経ってもクソガキ根性が抜けない彼に、何度も苦笑いを浮かべたものだ。


 今、こうして教育めいた会話をしているのも、その頃の名残だ。


「けど有咲。得体の知れない存在を放置するわけには」

「でもただの猫でしょ? 殺すの禁止!」


 有咲の理不尽な言いつけに困り、俺はアヴリル先輩の方を見る。


 なんと、これ幸いとばかりに仕事をサボり始めていた。寝転がってシカゴピザとコーラを頂いている。

 こうなると、もう有咲に敵う戦力はどこにもない。


「分かった、間をとって経過観察することにしよう。何かあれば処分する。無ければ放置、ってことで」

「うんうん、それならよしっ!」


 満足げな有咲の顔に、つい絆されてしまう俺であった。




 俺の死後。


 本来、神へと至るのは俺とシャスタバンだけだった。


 しかし、ここで不測の事態が発生。

 俺と有咲に刻まれた魔法陣が、二人の魂を強く結びつけてしまっていたのだ。


 結果、俺が神へと至るのに釣られて、有咲まで神、のようなものへと至ってしまった。


 これを無かったことにも出来ず、アヴリル先輩は俺達三人を部下として受け入れることとなった。




 こうして偶然の出来事から、俺と有咲は永遠とも思える時間を共に過ごすことになったのだが、不思議と全く飽きる気がしない。


 実際、どうなるかは分からないが。

 まあなるようになるだろう。

これにて完結となります。


長い間、当作品にお付き合いいただきありがとうございました。

開始当初よりもさらに長い話となりましたが、こうして完結まで書き続けられたのは読者の皆様、そして書籍版、コミカライズ版をお読みくださっている皆様のお陰です。


今後の予定は未定ですが、また次の作品が始まりましたら、皆様にお楽しみいただけたら幸いです。


それでは、繰り返しになりますが、本当にありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
 完走おつかれさまです、最初から追っていたので無事に終わった感がありますね。そういえばシュリ君も亡くなってるのかな?てっきり不老だと思ってたんだけど。
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