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32 名付けの意味




 私と有咲さんの関係の始まりはいつだったかと考えると、その答えは恐らく生まれる前からということになります。

 あの日。姉に喚び出され、初の子供の名前を決めようとなった日。

 そこで私は有咲さんの、名付け親となりました。


 そして、だからこそ私は、有咲さんに一つの負い目があります。



 あの日。姉と、姉の旦那さん。そしてそれぞれの両親に、私。計七人で、生まれる前の女の子の名前を決めようということになりました。

 私以外の六人は、無難な名前を選んでいました。


 一方で、当時の私はまだ今とは違い、かなり捻くれていた頃です。自分こそが一番だと、根拠なく思い込んでいた頃でした。

 そして、捻くれ屋だった私は、まるで中学生が患うような厭世観を拗らせていました。


 そんな中、私が有咲さんの名付けに選んだのは、かの有名な平家物語の冒頭部分です。

 祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響『あり』。『娑』羅双樹の花の色、精舎必衰の理をあらはす。

 二つの分の末尾と始まりから言葉を借り、生まれる女の子に『有娑』と名付けるつもりでした。

 まあ、字については姉の可愛くないという苦情により、娑を咲に変えられてしまったのですが。


 しかし、私が有咲さんの名前に込めようとした意味については変わりません。

 その意味とは。

 彼女が将来、どれだけの幸せを、どれほどの栄華を手にしようとも。それらはきっと脆く崩れ去り、いつか終わりを迎える。

 人生など、所詮その程度の悲劇的なものであると。

 生きることに意味など無いのだと。


 そんな、まるで『呪い』のような言葉を、私は生まれる前の彼女に与えようとしました。


 なんと最低な名付けをしたのだろうと、今でも後悔しています。

 本当なら、生まれてくることで祝福されるべき命を、私個人のつまらない、病的な厭世観のせいで、言祝ぎを呪いに変えて、名前として与えてしまったのです。


 そんな悪い意味を込めた名前だということも黙ったまま。ただ興味本位で、人生を憂うような名前を有咲さんに与えてしまったのです。

 私はつまり、有咲さんが生まれてきたことを祝うどころか、むしろ呪ってしまった。

 そんな、最低な奴なのです。


 時々、考えてしまいます。

 どうして有咲さんが不良のようになってしまったのか。どうして有咲さんが、こんな危険な世界へと召喚されてしまったのか。どうして有咲さんに与えられたスキルが、誰にも分かりやすい力などでなく、追放にまで至ってしまったのか。


 それぞれ、ちゃんとした理由はあるのでしょう。

 けれど私は、つい考えてしまいます。


 もしも私が、名付け親でなかったなら。

 もっとしっかりとした名前を与えてあげていれば。


 有咲さんは不良にならず、よく学びよく成長し、模範的な学生の一人になっていたかもしれません。

 こんな世界に召喚されず、今でも両親の愛につつまれ、ありふれた幸せの中にいたのかもしれません。

 クラスメイトの多くと同じように、誰にでも理解できるような、分かりやすく強力なスキルを手にしていたかもしれません。


 全て、無意味な妄想でしかありません。理解は出来ています。

 けれど、名前で人生を呪っておきながら、自分は何の関係もなかった、などと言えるはずがありません。

 きっとどこかに、私が有咲さんの名付け親であるせいで起こった不幸があるはずだと。そんな懸念が、いつまでも消えません。


 そして何より、また同じことを繰り返さないとも限りません。

 かつて私が興味本位で彼女の名を呪ったように。

 また私は、何らかの方法で有咲さんを傷つけるかもしれません。


 前科があるのですから、疑うのは当然のことです。

 そしてこの世界で、もっとも有咲さんの将来の幸福を疑わしいものに変えてしまうのは、他ならぬ私です。

 私こそが、有咲さんを不幸にしうる最大の不確定要素なのです。


 だから、私は応えられません。


 例え、既に同じ想いを抱いていようとも。

 既に叔父と姪だなんてこと、少しも気になっていなくとも。


 有咲さんの幸福のためであれば、決してこの想いに応えてはいけないのです。




 かなりの時間が立ちました。

 どうやら私は、ずっと呆然としていたようです。


 有咲さんの思いを拒絶するのは、想定以上のダメージとなったようです。が、ここで立ち止まるわけにはいきません。


「よし!」


 私は自分の顔を、パンッ、と両手で挟むように叩き、気合を入れ直します。

 後悔などというものは、それこそ文字通り後でするものです。

 今は自分の選択を信じて、やるべきことをやるしかありません。



 その日。結局夜の間、有咲さんは部屋に籠もったままでした。

 私は有咲さんの代わりに店番を務めながら、これからするべきことを一つ一つ、脳内で考えまとめ上げていきました。


 そうしていれば。

 有咲さんの泣き顔を考えず、思い出すことなく済みました。

これで四章は終了です。

五章はさらなる乙木の成長と、有咲との関係の変化、発展を描く予定です。

その過程で、今まで登場したヒロイン達も絡んでくる予定です。


先が気になる、という皆様は、どうかブックマークや評価ポイントという形での応援よろしくお願い致します。


続きの五章につきましては、投稿開始まで少々お時間をいただきます。

おまたせしてしまう形になってしまいますが、どうか気長にお待ちくださいませ。



※追記

ミスで同一の内容を何度も投稿していましたが、修正しました。

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[気になる点] 仏教式の命名をする癖にその文化の在り方を知らいのか…この主人公。 長々と語るのもアレだからカットするけど、 呪いの様な?それで良いんだよ。 何せ、付けた名とは寧ろ逆の意味を戒めとして…
[気になる点] 名前って、一番最初の両親からの贈り物、って言われてるのに……。 これは酷い。酷すぎる。 こんな鬼畜の所業しておいて、どの面下げて姪っ子に好意持ってるとか言っちゃってるんだ……。 娘…
[一言] 近親相姦が気になっていましたが、そう言えば身体が作り替えられてるんでよね?魔物のように。 それだと血の繋がりが無くなったったということで、妊娠も大丈夫そうですね。
感想一覧
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