第69話 作戦会議
ロロを連れて屋敷に戻ろうと玄関の方へ向かうと、そこでばったりエラルドとノエルに出くわした。シルヴァーナの姿を確認してホッとした顔をした二人だったが、その後ろにいるロロの姿を見て表情を一変させた。
「誰だ!?」
「あ、待って! お兄様! ノエル様!」
剣の柄に手を掛ける二人を見て、慌ててシルヴァーナは前に出る。
「この人はロロっていうの! 敵じゃないわ!」
「ロロ? 異国の……者か?」
「魔物のような、不可思議な存在だな」
「なに!? ノエルに化けていたのは、こいつだったのか!?」
警戒を解かない二人に、シルヴァーナは困ってしまいベルンハルトに助けを求める。
「義兄上もノエルも、大丈夫です。ロロはもう危険ではありませんから」
「どういうことだ?」
「詳しい話は中でしましょう」
ベルンハルトの言葉に、二人は困惑した表情のまま、それでも剣から手を離すと屋敷に入った。
暖炉の前で暖まりながらこれまでの経緯を話すと、エラルドはまじまじとロロを見つめて唸った。
「まさかシルヴァーナの不死の力が、この者の仕業だったとは……」
「私を厩舎で襲ったのはお前だったのか……」
「ノエルはずっと地下で眠っていたのか?」
「ああ、お前が来てくれるまで、まったく起きることはなかった。不覚にもな」
ノエルは悔しそうな顔でそう言うと、ロロを睨み付ける。
ロロは二人の視線に肩を落とすと、頭を下げた。
「すまなかった……」
「……そう素直に謝られると、こちらも怒れないではないか」
ノエルが肩を竦めてそう言うと、エラルドも同じような表情で頷いた。
「事情は分かった。シルヴァーナの力のことはこれで解決するとして、これからどうする? このまま国境に向かうか? たぶんかなりの兵士が私たちを追っているとは思うが」
「このまま国に戻ったとしても、ヴィルシュはシルヴァーナを諦めないだろうし、どうしたものでしょうか……」
3人はそこからしばらく黙り込んでしまった。シルヴァーナはそんな3人を見つつ、少しだけ心配になったことを口にした。
「あの……、パトリック様は大丈夫なのかしら」
「それは……、大丈夫だろうとは思う。殿下はまもなく王太子になる身分だし、まさか隣国の王太子を傷つけるようなことは、いくらヴィルシュでもしないだろう」
「そう、かしら……」
ライアンの恐ろしさを知るシルヴァーナには、到底そうは思えない。パトリックがいくら王族とはいえ、危険がまったくないという保証なんてない気がする。
助けに来てくれたパトリックを放って、自分だけ国に帰ることはできない。
「シルヴァーナさんを完全に諦めてもらい、国同士の問題にも発展させない……、なかなか無理難題だな」
ノエルの呟きに、エラルドは大きな溜め息を吐く。確かにそんな都合の良い作戦なんて、パッと浮かぶものではない。
「国に戻って守るにも限度はある。ずっと部屋に閉じ込めておく訳にもいかないし……」
ベルンハルトはそう言うと、シルヴァーナの手を握る。
3人が自分のことで悩んでいるのが申し訳なくて、シルヴァーナが困っていると、ロロが立ち上がり暖炉の前に立った。
「私が手を貸そう」
「ロロ?」
「シルヴァーナ、君に毒を盛ったのが誰か分かっているかい?」
「え……? あ……、たぶん、王太子妃のシャロン様、だと思うけど……」
「王太子妃が!?」
「う、うん……」
驚くベルンハルトに頷くと、ロロは指を顎に滑らせて考える。
「君を串刺しにしたのが王太子。毒を盛ったのが王太子妃。それなら、二人にちょっと痛い目に合ってもらおう」
「どういうことだ?」
「聖女に手を出すと恐ろしい結果が待っていると思わせればいい。未来を担う二人が『お仕置き』されれば、国としてはもう手を出す勇気はなくなるだろうさ」
「お仕置き?」
首を傾げるシルヴァーナに、ロロは不敵な笑みを見せて頷いた。
◇◇◇
シルヴァーナはティエール神の聖女の格好で、ふわりと床に降り立つ。
そこは少し前にライアンに槍で刺された場所だった。今そこには、縛り上げられたパトリック王子がいて、明らかに今から処刑が始まるという様子だった。
「ごきげんよう、ヴィルシュの皆様」
「な……、シルヴァーナ!?」
穏やかな声で挨拶をするシルヴァーナを、その場にいたすべての者が目を見開いて見つめた。




