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第48話 旅の仲間

 ノエルと共に馬を飛ばし、最短ルートで王都に向かったベルンハルトは、丸1日で王都に到着した。夜通し走り続け疲労困憊だったが、それでも気力でどうにか乗り切った。

 城に入ると、ノエルが申請を出してくれ、10分もしない内に国王との謁見が許可された。


「火急の用だとか、どうしたのだ?」


 国王の執務室にはパトリック王子もいて、二人が入室すると見ていた本から顔を上げこちらを向いた。

 二人は急いで執務机の前まで行くと膝を突く。


「陛下。ライアン王太子がシルヴァーナを誘拐し、ヴィルシュ王国へ連れて行ってしまいました」

「なんだと?」

「え? それ、どういうことですか?」


 ソファに座っていたパトリックが立ち上がり声を上げる。国王も怪訝な顔をして、手にしていた書類を置いた。

 ベルンハルトは頭を下げたまま、言い募る。


「メルロー村に帰る途中、野盗のような者たちに襲われました。その後、村にもその仲間が襲ってきて、対処している間に、シルヴァーナは連れて行かれたのです」

「野盗に? あの辺りは西の国境警備の範囲内だろう? 野盗などいないはずだが」

「恐らく王太子が用意したものかと」

「まさか……」

「本当にシルヴァーナはヴィルシュに連れて行かれてしまったのですか?」


 そばに寄ったパトリックに聞かれ、ベルンハルトは苦しげに頷く。


「王太子は早朝に西の国境を越えてしまいました。シルヴァーナの姿は確認できませんでしたが、同乗していたと思います……」

「なんということだ……」


 国王は怒りに顔を歪ませ、どんと机を叩く。


「父上、すぐに兵を送りましょう。どういうつもりか知りませんが、誘拐なんて許されません」

「パトリック、怒る気持ちは分かるが、兵は出せない」

「陛下……、それは……」


 国王はパトリックからベルンハルトに視線を戻すと、唸るように溜め息を吐く。


「兵をヴィルシュへ送れば、どれほど少人数でも必ずあちらから抗議が来るだろう。抗議程度ならまだ良いが、戦争の口火を切る口実にされ兼ねない。それだけはあってはならないことだ」

「ではどうすれば……」


 ベルンハルトの弱い声に、国王は返事をせず背中を向けてしまった。

 長い沈黙が続き、このまま見放されてしまうのではとベルンハルトが絶望を感じ始めた頃、部屋にノックの音が響いた。


「陛下、ヴィルシュ王国から親書が届いております」

「なに!? 入れ!」


 ドアの向こうから聞こえた声に全員が驚く。すぐに中に入ってきた執事から親書を受け取ると、国王は慌てて封を切った。


「……なんだ、これは……」


 文面に目を通した国王は、絶句した様子で呟く。


「陛下。ヴィルシュはなんと?」


 ノエルの質問に、国王は全員に目を向けると、さらに怒りを増した表情で親書をパトリックに差し出す。


「『聖女シルヴァーナは、ヴィルシュ王国エクランド侯爵の孫娘であり、元々はヴィルシュ王国の人間である。その奇跡の力は、ラヴィネラ神より賜った力であり、ティエール神のものではない。よって、聖女として祖国に帰る手引きを王太子に担わせた。これより聖女シルヴァーナはヴィルシュ王国の所有となり、いかなる手出しも無用である』」


 パトリックの読み上げた親書の内容に、ベルンハルトとノエルは目を合わせると顔を歪ませる。


「こんな暴論が許される訳がない……」

「父上! 僕を行かせて下さい! 交渉してきます!!」

「パトリック……」


 パトリックの言葉に国王は考え込む。


(国としてシルヴァーナを欲していたということか……)


 ライアンの言葉の端々に、シルヴァーナの力に興味を示している様子はあった。

 野盗に襲われ目の前で不死の力を見せてしまったことが、ダメ押しになった気がする。あれでライアンはシルヴァーナの力が本物だと確信し連れ去ったのだろう。


「兵は出せない……」

「陛下! わたくしに追わせて下さい!」

「フェルザー男爵……、だが……」

「わたくしも行きます」


 隣にいたノエルが続けて言うと、顔を上げた。


「ヴィルシュの王都までに追い付き、聖女を取り戻します」

「できるか?」

「距離を考えれば、まだ追い付ける可能性はあります。国内に入り、王太子たちは先を急ぐことはなくなったはずです。城に入られ手出しできなくなる前に、どうにか取り戻します」


 ノエルの力強い言葉に、ベルンハルトに微かに希望が湧いてくる。

 国王は何度か頷くと、ベルンハルトとノエルをしっかりと見た。


「よし。その言葉を信じよう。あちらの地理に詳しい者を一人付ける。3人でどうにかシルヴァーナを取り戻せ」

「はっ!!」

「余の方でも、親書を送りできる限り交渉してみる。順次隠密も送るゆえ、好きに使え」

「感謝します!」


 二人は頭を下げると、立ち上がる。退室しようとするとパトリックがベルンハルトを呼び止めた。


「男爵、寝ておられないのではないですか? 顔色が……」

「大丈夫です。お気遣いありがとうございます」

「逸る気持ちは分かりますが、少しだけでも休んで下さい。あなたが倒れてしまったら、元も子もない」

「……分かっております」


 パトリックの優しさに、ベルンハルトは微かに笑って頷いた。

 騎士宿舎に入ったベルンハルトは、ノエルが旅の準備をしている間、仮眠を取った。休んでいる場合ではないと心は逸るばかりだったが、それでももう丸2日寝ていない体は、疲労を訴えていて、あっという間に眠りに落ちた。

 そうして1時間ほど経った頃、ベルンハルトの眠っている部屋のドアが、バタンと音を立てて開けられた。


「寝ている場合ではないぞ! ベルンハルト!!」


 突然の大声に飛び起きたベルンハルトは、目の前に走り込んできたエラルドの顔を見て目を見開く。


「妹を助けにいくぞ! 起きろ!!」

「え? 義兄上!?」

「ヴィルシュの土地なら任せろ。絶対にライアンに追い付いてみせよう。行くぞ!!」


 ベルンハルトを無理矢理起こしたエラルドは、頼もしくそう言うと不敵に笑ってみせた。

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