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今日の華琳さん家  作者: 黒崎黒子
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朴念仁

夕食を食べ終えた俺たちは、ゆったりと食後の余韻に浸っていた


因みに、ここでの生活は当番制にしてある


朝食を呉の台所組

昼食を蜀の台所組

夕食を魏の台所組


また一カ月後には、コレがローテーションする予定だ


桜たちも、それぞれの台所組に加わって調理するが、やはりダントツで料理が上手いのはこの人たち


呉では、周瑜さん、祭さん、思春

蜀では、孔明ちゃん、鳳統ちゃん、紫苑

魏では、秋蘭、流琉、そして華琳


三国の命を握る要と言っても良いだろう


決して、春蘭とか春蘭とか春蘭に厨房を明け渡すような暴挙には出ないでください


本当…お願いします…本当に…


食の有り難みを噛み締めながら、手を合わせると今日の当番さん達を拝む


「ふぅ…。食べた!食べた!本当に美味しかったよ、ありがとう!」


「兄様!お茶は如何ですか?」


「「「ガーン!お茶出しはボクの役目なのに…」」」


お茶を持った三人のメイドさんに苦笑しながら、流琉の茶を受け取る


おかわりが、あと三杯か…こりゃ、タプタプになるかな…


「うん!美味しかったよー!流石は万能少女華琳ちゃん!」


「羨ましいわねー。うちの娘たちなんて、厨房に立ったことがあるのかも怪しいのに」


「ちょっと待ってよー。蓮華はないだろうけど、私はできるわよ?」


「な!?姉さん!?」


「はぁ…お前が作るのは、料理とは言わんよ。正しくは、酒のつまみというのだ」


「ぶー!つまみだって立派な料理ですー!」


できれば、普通のおかずが欲しい…と思う俺は間違いだろうか?


二杯目の茶に手を伸ばしながら、心の中で呟く


んー、同じ茶葉でも味が違うな

流琉の茶は少し甘みを感じたが、空の茶はスッキリしている


「でも、本当。華琳は何でもできるのねー。羨ましい限りだわ。たまにで良いから、ウチに作りに来てくれない?」


「魏から呉へ?ご飯を作りに?ふふ…遠慮するわ。私の料理は、まだまだ未完成ですもの。私自身も納得できるような、完璧な料理を出せるようになるまでは、お呼ばれされるなんて出来ないわよ。私自身が許せないから」


「未完成?だとしたら、大陸中の料理が未完成になっちゃうわねー」


「本当にね」


華琳にかかれば、料理も政務も武芸も趣味も、勿論、閨ですら右に出る者はいないだろう


完璧超人の曹孟徳さん

一家に一人は欲しい曹孟徳さん


あはは…。でも、そうなったら、きっと七日で世界は作り替えられた上に、女の子は同性愛に目覚め、男は有り得ないほど打たれ強くなるだろう


何たって、華琳は半端を許さないからな…

とことん、改革しそう


「なんと…無茶苦茶な世界だろう…」


「一刀…?」


三杯目の茶を啜りながら目を細める

全てを包み込むような優しい味わい深さ。うん、実に月らしい


「一刀。今日はもう、終わりなのよね?」


「うん?うん、終わりだよ?ん…ぶっ!渋っ!」


最後のお茶を口した俺は、思わず吹き出してしまう


なにこれ!?こんなに渋い茶、飲んだことないぞ!


茶を出した少女を見ると、クツクツと笑いながら立っていた


「おい…詠」


「な、なに?あんたが、月の茶を一番に取らなかったのが悪いんでしょ!どう?とっても渋くて美味しいでしょ?」


「あぁ…美味かったぞ?」


「え…?え…?」


引きつった笑いを浮かべながら、詠の肩を掴む


あぁ…美味かった…大変に美味だったよ…だから…


「だから…お前も…飲めー!」


「なっ!寄るな!触るな!妊娠しちゃうでしょ!?」


「しないよ!口を開けば、常に誤解を生むようなこという『桂花!』みたいこと、泣きそうになりながら言うなよな!?本当に勘違いされるだろ!?」


「なっ!?何で、そこで私が出てくるのよ!?」


「いつも言ってるじゃん」


「そんな下品なこと言ってないわよ!なに言ってんの!?この全身白濁男!死ねばいいのに!」


「言っとる、言っとる」


桂花が立ち上がり、指差してくる

隣の華琳が苦笑しながら、肩を竦めた


「この子ったら、自覚ないのかしら…?」


「さぁね?…それより、詠!これ、飲んでみろ!」


「ふん!飲わけないでしょ!やだっ!こっちに来ないでよ!」


ツンツンツン子曰わく、とっても渋くて美味しい茶を手にして、ジワジワと追い詰める


「なんでだ?とっても美味しい茶だぞ~?一緒に飲もうじゃないか?」


「抜けてる!『渋くて』が抜けてるわよ!それに、一緒にって…あんたと関節接吻なんてごめんよ!」


「「「っ!」」」


何故か、詠の言葉を聞いて数名が立ち上がる


「「え?なに?」」


俺と詠はグルリと周りを見渡し、固まった

ぞろぞろと、俺たちの周りに乙女が集まり始める


…な、なんでしょう?この、闘気とも言えそうな圧迫感は…


「「「北郷と…ブツブツ…一刀と…ブツブツ…関節接…ブツブツ…」」」


「え?俺がなに!?」


「あんた、何したのよ!?」


「し、知らないよ!」


ブツブツと何事か呟きながら近付いてくる乙女たち…


もう…なんていうか…恐怖です…


「なに!?何なの!?」


「む……。一刀、その茶を寄越しなさい」


「へ?華琳?なんで?」


「…いいから、寄越しなさい!」


「あ!か、華琳!」


「すー…はー…。よし!ん、ん゛~~!!!んぐ…んく…ごく…ぷは!」


「「「あ…あぁー…」」」


文字通り俺の手から湯呑みを奪い取ると、一気に飲み干してしまった

少しフラフラとしていたが、頭を振ると凛と立つ


何故か、それを見守っていた皆はがっくりと肩を落とし俯いた


「ケホッ!ケホッ!」


「だ、大丈夫か…?」


「大丈夫か、ですって?な、何のことかしら?私は喉が渇いたから、飲んだのよ?それ以外の何でもないわ。それともなに?もしかして、私には飲んで欲しくなかったのかしら?」


「当然だろ!?凄く、渋かったのに」


「そう?渋さもあったけど、とても…えぇ…とても、美味しかったわよ?…ふふ」


「「「っ!!?」」」


湯呑みの口を撫でながら、華琳はポツリと呟くと周りを見渡して小さく微笑んだ


なに?その余裕の表情…

変わりに何故か、周りの闘気が跳ね上がっていってるし!?何なんだよこれ…


「ふふ…やはり、大陸の王だけはある…。北郷、お前は本当に幸せ者だな」


「え?周瑜さん?」


「さぁ、皆。明日も早い。各自、部屋に戻って寝るなり、また風呂へ行くなりして、ゆっくりと休みなさい」


首を傾げる俺に微笑むと、周瑜さんは手を叩いて場を閉める

皆は顔を見合わせると、降参するように肩を竦めてみせた


「あはは!では、蜀勢は風呂を貰おうか。さぁ、桃香様。行きますぞ!」


「き、桔梗さん!?」


桔梗に抱えられ、桃香はジタバタもがきながら部屋を連れ出されて行く

苦笑しながら、蜀の皆も後に続いて歩き出した


「カカカ!では、呉はそれまで、鍛錬でもやろうかの?"りはびり"じゃ。付き合って頂けますな?策殿、権殿、尚香殿?…思春!明命!手伝うのじゃ」


「はい!」


「御意!」


「「「え?私!?ちょ!祭!?」」」


三人に手を引かれ、呉の姫様たちは蜀に続くように出ていった


「ふふ…魏は如何致しますか?華琳様」


「んく…んく…ぷは!そうね。魏は今から、ここの片付けをしましょうか」


秋蘭の手により差し出された水を飲み干すと、華琳は一息ついてテーブルを見る


テーブルの上には、食後の惨劇が広がっている


使用された沢山の食器類たちだ。こりゃ、大変そうだな


「あ、いいよいいよ!私たちが、やっとくから。華琳たちは部屋でゆっくりしてきなよ!」


「愛する師に、そんなことをさせては曹家の名に恥じますよ。さ、ちゃっちゃと終わらせましょう!」


「あ、俺も手伝うよ!」


「だめよ。あなたは部屋で休んでなさい。橋玄様、お願いします」


「……うん、分かったよ!さぁ、一刀!」


「え?次、俺!?か、かり~~ん!」


「はいはい、また後でね」


苦笑しながら見送る華琳の姿を最後に、扉が閉まる


「なぁ、華琳って辛い物や苦い物は苦手だよね?」


「ん?うん。当然、渋茶なんて飲めるわけないよー」


「じゃあ、なんで…」


「んふふ~自分で考えなさい♪」


ぺしりと背中を叩いて、桜はゆっくりと歩き始める


何か良いことがあったかのように、その背中はとても嬉しそうだった


「男嫌いの愛弟子があんなことするなんてね…。ふふ…信頼か、愛か、それとも単なる気紛れか。何にせよ、成長したな~」


「桜?」


「なんでもなーい♪」


追いついた俺の手を取ると、俺の顔を見て微笑んだ


なんて言ったか聞き損なったから、聞き返したのに…教えてくれる気配はなさそうだな


「ほらほら!祭の"りはびり"を手伝いに行こうよ!」


「あ、あぁ!」


引かれる手にその身を任せながら、俺は華琳の行動の意味を考える


「ふむ…やっぱり分からん…」


「あはは…」


首を捻る俺をチラリと振り返ると、桜は困ったように小さく笑った

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