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Chivalry  作者: 祀木 楓
第1章 始まりの刻
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王と騎士という隔たり


 ボールスと蘭は花園に訪れていた。


 蘭はこの花園を初めて見た時から、一目で気に入っていた。


 広大な敷地に咲き乱れる色とりどりの花。


 それは、年ごろの娘を魅了するには十分すぎる程だった。


 

 「ねぇ、ボールス。これは何ていう花?」


 「それはアネモネだよ。華やかさと可憐さを併せ持つ姫王にピッタリの花だね。姫王はこの花が気に入ったの?」


「うん! ここには色々な花があるけど……この花が一番好きだなぁ」


「お気に召したならそれは良かった。アネモネの君……貴女が望むならば、私は一夜にしてこの花園を、アネモネの花園に変えてみせよう」


 ボールスは蘭にアネモネの花を一輪差し出した。


「やだぁ、ボールスったら……王子様みたい!」


 蘭は、照れながらもアネモネの花を受け取る。


「えー? 本物の王子様っぽかった? 姫王にそう言ってもらえると嬉しいなぁ」


 ボールスは蘭の手を取ると、嬉しそうに言った。



「ボールス……いい加減にしないか! 立場をわきまえろ。私たちはあくまで王と騎士の関係……それ以上でもそれ以下でもない」



 突然の声に蘭とボールスは振り返る。


「なぁんだ、ガレスかぁ。ランスロットかと思って驚いたじゃないか! お前はランスロットと声も口調も似ているからな……突然声を掛けられると心臓に悪いんだよ」


「お前の心臓など、どうでも良い。それより、何だ? その呼び方は」


「呼び方?」


 ボールスは首をかしげる。


「一国の王に対して、姫王などと呼ぶなど許されるものか」


「そうは言うけどねぇ……王が二人も居るんだよ? 呼び方を区別しなくちゃ、どちらを呼んだのか分からないじゃないか」


「それは……そうだな」


 ガレスは頭を悩ませる。


「私はその呼び方、気に入ってるよ! 姫王なんて素敵だもん」


「貴女がそうおっしゃるのでしたら……私たちはそうお呼びしましょう」


「うん。それでお願い! それと……」


「如何されましたか? 姫王」


 言いにくそうな表情をしている蘭に、ガレスは尋ねた。


「あのね、その硬い話し方……何とかならないかなぁ? 私、王になったとはいえ、そんなたいした人間じゃないから……もっと気さくに話してほしいの」


「気さくに……ですか? 恐れながら申し上げます。姫王様は既にこの国の主、私共がそのような振る舞いをするなど……」


「姫王はそういうのが嫌なんだってさ。これは命令……だよね、姫王?」


 ガレスの言葉を遮るようにボールスは言った。


「そ、そう! これは命令です!! 王と騎士の間に、そのような壁を作ることを禁じます!!」


「……だ、そうだよ? 命令なら聞かなきゃねぇ、ガレス」


「畏まり……いや、わ、分かった」


「まだちょっと硬いけど、ガレスにしては上出来でしょう」


 表情の硬いガレスに、ボールスは苦笑いで言った。





「蘭っっ!!」


 湖から戻った葵とケイは、蘭の姿を見つけるなり駆け寄る。


「あっ、葵!!」


 葵の姿を見た蘭は、明るい笑顔になる。


「蘭、ボールスに変なことされなかったか?」


「変な……事?」


 蘭は、葵の意図するものがくみ取れず、首をかしげた。


「ちょっと、ちょっと!! 変なことって何だよ。そんなに信用ないかなぁ……俺は」



「普段の行いが悪いから……だな」


 ガレスとケイは、まったく同じセリフを口にすると、深い溜息をついた。


「あれ? ねぇもしかして……ガレスとケイって、兄妹?」


 蘭は二人を見比べながら尋ねた。


「さっすが姫王! よく分かったねぇ。その通り、ガレスとケイは兄妹なんだよねぇ」


「やっぱり!! どうも、似てると思ったんだよねぇ」


 ボールスの言葉に、蘭は満足そうな表情を浮かべる。


「そんなに……似ているのか?」


 ケイとガレスは顔を見合わせると、またもや同じセリフを同時に呟いた。


「顔……っていうより、仕草がね!!」


「仕草、か」


 二人はあまり納得のいかないような表情をしていた。





「新王様、こちらにいらっしゃいましたか……マーリン様が取り急ぎお伝えしたい事があるそうで……すぐにいらして頂けますか?」


 息を切らしながら走ってきたユーウェインは、消え入りそうなほど小さな声で告げた。


「何かあったのか?」


 ガレスは訝しげな表情で尋ねた。


「あの……その……私には詳しい事は分かりません。とにかく、新王様を呼んでほしいとの事……だった、ので」


 ユーウェインは俯きながら答えた。


「では、私たちも共に行こう!!」


「い……いえ、実は……」


「何だ? ユーウェイン、ハッキリと言わんか!」


「ご……ごめんなさい」


 ガレスの態度に、ユーウェインは更に畏縮する。


「ガレスは少し黙ってて! ユーウェイン、慌てなくて良いから……話を聞かせてくれる?」


 見かねた葵がガレスを制止すると、ユーウェインの手を取り優しく尋ねた。


「あの……ですね。マーリン様はお二人だけを呼ぶように……と仰りました。騎士たちは連れては来るな……と」


「騎士は連れてくるな? 一体……どういうことだ?」


 葵は首をかしげる。


「葵、とにかくマーリンのところに行ってみようよ! ここでこうしていても、時間の無駄だよ」


「そ……そうだな。とにかく行ってみるか」


 葵と蘭は顔を見合わせ頷いた。


「あ……あの、私がご案内……致します」


「ありがとう、ユーウェイン。頼むよ」


「はっ、はい!!」



 葵と蘭は、ユーウェインの案内のもと、マーリンの居る塔へと向かった。



 



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